映画を観るという体験:ルックバック
公開後にすぐ観に行こうと思いながら今まで観れないでいた、藤本タツキ先生原作の漫画を押山清高監督が映像化した「ルックバック」。
あたふたしているうちに地元のTOHOシネマズでは規模が縮小されてしまい、朝8時台の回でしか上映されない状況になっている…
これは流石にヤバいと感じ、寝起きの頭に冷水シャワーを浴びて観に行ってきました。
このnoteでは特にネタバレになるようなことは書きませんが、結論から申し上げると、次のようにストーリーのオチを知っている私でも、事前の情報やそれに伴うバイアスとは無関係でいられるくらい強度が高く、1時間という上映時間に課金して良かったと心底思えるような作品でした。
原作は読了済み
最初の特報を見て映画を観たくなった
映画の前評判が高いということで期待度MAX
とにかく描け!バカ!
正直なところ、映画館という閉鎖空間が苦手という人は結構いるのではないでしょうか?
巨大なスクリーンと素晴らしい音響、一度きりの視聴体験に課金するラグジュアリーな空間。
その特別感は分かるのですが、スタンディングのライブは平気なのに、枡席のように中途半端に囲われたパーソナルスペースにどうにも馴染めないのです。
なので、「ちょっとこの映画、気になるな」というくらいの場合では、次のような工程を経て気持ちがお蔵入りになるのがいつもの定番パターン。
「お、面白そう」
「いつまで上映しているのかな?」
「あ〜、終わってしまったから配信まで待つか〜」
やはり、⒈の段階で手を打たないことには足を運ぶまでにはなりません。
そういう意味では、スマホで事前に座席まで予約できるというのはネ申。
今回は早朝トイレに起きて何気なくチェックしたのがキッカケで、即ネットで予約完了。
これが後で電話をかけるとか、実際に上映時間に映画館まで行ってからチケットを買うのだったら、行動を後回しにしてしまったかしれません。
思い立ったら即アクション。
「とにかく予約しろ!バカ!」
みたい! みたい みたい みたい!
飲んだり食べたりおしゃべりをしたり、映画をどう楽しむかは人それぞれですが、視聴体験を最高のものにするためには、以下のような理由で座席選びは大変重要です。
適当に選んで後悔するといったことのないようにしたいものです。
できれば映画への没入感を高めたい
泣くようなシーンで人目を気にするのが嫌
オッサンが一人だったら浮いてしまうのも嫌
今回、既に上映開始から日が過ぎており早朝の時間帯にも関わらず、中央の見やすい席は既に埋まっていました。
①初期の状態(予約時)
1列目なら中央席も空いているので上記要件のうち、1.を重視するならそれもアリなのですが、2.〜3.を勘案し俯瞰して考えた場合、プルプルとわななく後頭部を他の観客に見られるのが自分で想像しただけでも恥ずかしかったため、ここは無難に一番後ろの右寄りの席をチョイス。
完全に右端の15番を選ばなかったのは、本当に一番端だと見えづらいとの情報を考慮したからです。
②映画上映時刻(予告が流れている状態)
久しぶりに映画館に来て、上映時間には直ぐに本編が始まらないのだと気づきます。
仕方がないのでiPhoneでKindleを読んでいると、私があえてスルーした15番の席に中年の女性がお座りになられました。
思わず心の中で「おいおい、そう来たか」と、孤独のグルメのように呟いてしまいましたが、左側が空いているので本編が始まったら場合によっては座席をずらせばいいかと平常心を保つことに。
③本編が始まる直前(照明が暗くなる)
「スミマセーン」と若い女性が私の前を横切ろうとする。ああ、7・8番の人が来たのかと思っていると、私の左11番の席に連れの男が鎮座しました。
隣人との適切な距離を取ろうと画策したにも関わらずオセロのように左右を挟まれた私は、「ふっ せっ ふっふ ふっ」と藤野に最初に会った時の京本のように激しく動揺し、これからの映画視聴に暗雲が垂れ込めたのです。
しかも、このカップル、予告編で流れる「ぼっち・ざ・ろっく!」の話をし始めるじゃないですか。
ダメでしょ、これから観る人もいるかもしれないのに。
私は「だから嫌なんだよ、他人と映画観るのは」と思いながら、もしものために持参したAirPodsを耳に装着しました。
ノイズキャンセリングをしながらアナウンスだけ聞こえるという、現代科学が到達した技術の素晴らしさをしみじみと感じながら越に入ります。
AirPods最高! こんな時のために、みんなも買ったほうが良いよ!
というか、予告が長すぎるんですわ。
早く本編始まってくれ〜!
祝! アニメ化
本編が始まると、この作品に通底する静寂なトーンに映画館の空間が包まれていくのが肌でわかりました。
おそらく、あらかじめどのような作品なのかを分かっている人たちが多く観に来ているという事なのでしょう。
また、最初の「特報」の映像が分かりやすいですが、この作品はペンの走る音や地面を踏み締める音といったASMR的な表現が素晴らしく、そのため、ついつい息を凝らして映像を観てしまうのもあるかと思います。
それ故に、上映中に隣の席の人が嗚咽を堪えている感覚までもがリアルな息遣いで伝わってきてしまうので、私も同じ様に泣くのを必死に我慢するのがとても苦しかったのと、その一方で同志的な謎のシンクロ感もありました。
実は、私は漫画とアニメのどちらが好きかと言えば、時間の流れ方に余白があるというか、早く読み進めようがゆっくりひとコマを味わおうが自由であるところが自分に合っているので漫画の方が好きなのですが、藤本タツキ先生の原作では、机に向かうシーンでリフレインのような繰り返しのリズムを刻みながら、外の風景や服装の変化で季節の流れを見事に表現されていたので、今回、その世界観がどのように映像化されるのか全編を観るまで不安もありました。
実際には最初の「特報」で自分が直感的に感じたとおり、音や光の演出が加わることで、藤野の背中や自然の景色に文字通り命が吹き込まれていき、それらの不安は全くの杞憂に終わったわけです。
作画がリアルとか写実的とかそういった表現とは違う、キャラクターが生きているかのように(オチを知りながらも)物語に没入できてしまうのは、ちょっと不思議な体験でした。
部屋から出してくれてありがとう
日々生きていると、今日じゃなくても良いことを先延ばしにしてしまいがちで、振り返っては「ああすれば良かった」みたいに逡巡しがちです。
この映画は、時間はどんどん流れて行って良くも悪くも戻すことはできないのだということを、自分の身体から離れて俯瞰した視点から覗きこむような感じで、堕落した日曜日の父さんの頭にガツンと鉄槌をくらわせてくれる素晴しい作品でした。
朝起きて、ルックバックのことを思い出さずに二度寝してしまえば、今日のこの体験はできなかったことを考えると、「部屋から出してくれてありがとう」と藤野たちに伝えたいです。
そして、過去から未来に渡って、私たちの日常に彩りを届けてくれるすべてのクリエイターに感謝したいと思います。
最後に
具体的なストーリーに触れずに書いてきたので、「ルックバック」という作品を知らない人にはなんのこっちゃという感じかもしれません。
作品については私があらすじを語るよりも、ジャンプラで原作を試し読みすることができるのでそちらを見ていただいた方が良いかと思います。
そして、気に入ったらコミックスを買って続きを読んだり、ぜひ映画館にも行ってみてください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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