『やすこのお味噌話。』
生まれてこのかた、お味噌を買ったことがありませんでした。
なぜなら、ずっと、やすこさん(94歳の祖母)が、作ってくれていたから。
去年、やすこさんが、広島で一人暮らしをし始めてから、お味噌を作らなくなり、
「そろそろお味噌がないわねえ〜」と、ツボの底に手を突っ込んでいる母と顔を見合わせ、ふと気付いたのです。
「お味噌…、買わなきゃいけないんだ!」
よく考えたら、今年のお正月は、お餅も買うんだなあ。
きねとうすで餅をつき、
七輪で今釣った魚を焼き、
エアコンや電子レンジはもちろんなく、
風呂といえば、五右衛門風呂、
祖母は島ではそんな生活を送っていた。
先日、祖母のマンションに行き、やすこさんと、
「なんとも原始的な生活だったよねえ」
「そうじゃのぉ。」
なんて、ハイカラなコーヒーなんて飲みながら、二人で話していた。
さて、初めて購入した市販のお味噌はというと、やすこ作の麦の姿がくっきりのこっているものではなく、
なんともコクのあるお上品なお味噌さんであったのですが、
料理に使うと調味料としてとても良いので、
ナスをさっと焼き、甘いお味噌で合えたときなんて、
今度やすこさんにも作ってあげようかな〜♪と思ったのですが、
ふと思い出しました。
…そうだった。
先日、晩御飯を作ってあげようと、キッチンに立った私に、やすこさんが放った、あの言葉を。
やすこさん「お前、台所で何しよるんや?」
私 「え?今から晩御飯作ってあげようと思って。」
やすこさん「よせっ、そがなことすなっ!わしはまだ死にとぅないっ」
私 「… 失礼ね! てゆうか、ばあちゃん、いつも、わしはいつ死んでもいい、って言ってるじゃん!」
やすこさん「お前の飯で死にとうはないっ‼︎」
やすこめ…。
絶対食べさせてやると誓った夜でしたね。
そして今宵も、孫の私は料理に精を出す。