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結婚相手は あなたが1番好きな人ですか

定期券の有効期限が切れたので、回数券で電車に乗り、大学に向かっている。

最近また暑さがぶり返したようで、その上コロナもまだ暴れたいようで、辟易する。

平日でも池袋新宿渋谷はあれほど混んでいるというのに。
人が醸し出すむさくるしい匂いの量は、当たり前だが人間の数に比例している。


「私は2番目に好きな人と結婚するの」
と言っていた彼女は、最近2番目に好きな人と結婚したそうだ。
そして彼女の旦那、つまり彼にとっても....彼女は2番目だそうだ。


お互いに「生きてきた中で1番愛した人は、これから愛する人は、あなたではない」
と分かりきった上で結婚するというのは、一体どんな気持ちなんだろう。


人は1番好きな人とは結婚できないらしい。
人は1番好きな人とは結婚しないらしい。
そんなセリフを言っていた人が、何人も私の人生を通り過ぎていった。


実際にそんな人がいる、と初めて知ったのはいつだっただろうか。


島本理生さんの小説で、松本潤さんと有村架純さんで映画化もされた『ナラタージュ』というお話がある。
2人は結ばれることなく、有村架純演じる主人公は、
「2番目でも良いから、君と一緒にいたい。君が1番目の人を思い続けながら誰かと結婚するなら、2番目になるのは自分でも良いかなと思った」
というようなニュアンスのセリフを口にした男性と結婚する。
松本潤さんからもらった大切なものを毎日身につけながら。



「先生、結婚する人は、今までで1番好きだった人なの?」
と尋ねたことがある。

先生は誰かのことを思い浮かべながら、笑いながら言っていた。
「いや、そんなことはないんだ」、と。

先生の表情をぼーっと眺めていた時、
1番好きな人と結婚することが、1番の幸せとは限らないのかもしれない.....と、当時の私は大人ぶって悟ろうとしていた。


1番好きだった人との恋は、良い形で終われないからこそ、爪痕を残す思い出となっているのかもしれない。

「2番目である」ということは、お互いに2番目であるからこそ受け入れられることなのだろうか。
どんなに思っている相手がいたとしても、それは過去の話だと割り切ってしまえるのだろうか。
1番好きな人とはもう会えない、恋愛に発展することはない、マイナスが0になることはあっても0がプラスにはならない終わり方だった…..
そんな根拠や思い出があるのだろうか。


1番好きだった人との恋を、結婚相手は妬まないのだろうか。
一生1番になることができないという事実は、苦しくないのだろうか。



「先生、結婚する人は、今までで1番好きだった人なの?」
こう尋ねた私は、
先生が結婚する人が 彼にとって"1番好きな人"というわけではないのなら、
この恋を笑顔のまま綺麗に終わらせることができるような気がしていた。
1番じゃないという答えを聞いて、1人で安心したいだけの醜い女だった。

私は私の1番の恋を、こんな形で終わらせてしまった。

私はもう、1番好きな人とは結婚できない、そんな人生を歩むのである。








この物語はフィクションです。