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【短編】秘密の種「ネコミミ村祭りスピンオフ企画参加」

秘密の種を風のように薄い紙で幾重にも包んで、月のような封印シールを貼って、薔薇の匂いのようなシフォンのリボンを結んで心の底にしまった。
もしも芽がでたら大変なことになる。でも捨てられない。私の人生の宝物なのだから。
出てきてはだめよ、眠っておいで。
私は絶えず子守唄を歌う。

ー 眠れ、眠れ、記憶の底に
ー 私の人生が果てるまで

「子守唄が聞える」
目の前の、会ったばかりの人がつぶやいた。
仕事で参加した懇親会の会場だ。
その人はつぶやいて耳を澄まして目を閉じ、またゆっくり目を開いて私をじっと見た。私は目を逸らせた。
「あなたが歌っているのでしょう?」
「なんのはなしですか?
私はなにも歌ってなんかいませんよ」
私は逸らした目を窓の外の空に向ける。
あの人は空の向こうだ。
違った。私は心の底に意識を戻す。

「これをあげましょう」
その不思議な人は私に細長い箱を渡した。
「何?」
「線香花火です。僕が作った特別な線香花火。新作です。
買おうと思っても手に入らない。垂涎の品ですよ」
その人はふいにいたずらっ子の顔をする。
さっきまであんなに静かで端正な顔をしていたくせに。
「美しい白い火花ばかり出る線香花火です。
夏の雲の白、海の泡の白、真珠の白、あなたの素肌の白…」
私はパーティ用につけてきた首元の一粒パールのネックレスを手で押さえる。今日のワンピースは襟ぐりが開きすぎている、そう思ったのになぜ着てきてしまったの…
「炭酸水の泡の白…レースの日傘の縁取り刺繍の白…」
彼は吟遊詩人のように言葉を紡いでいく。
ああだめ。種がことこと動いている。
私は気取られないように深く息を吐いて心を軽くしようとするが、彼にはすでにばれている。
「いいじゃないですか。発芽させましょうよ」
彼が言う前にもう種から芽が出てしまった。

私は受け取った線香花火を胸に押し当てて会場から駆け出した。
あの人と花火をするために。
線香花火を一緒にするといういつかの約束のために。



*藤家秋さんの短歌へのコラボストーリー参加作です🎇

燃え残るひそやかな種 抱えゐて
捨て身ひらめく 夏虫のごと

藤家秋さん短歌

*最近のクセで「なんのはなしですか」ってセリフ入れちゃいました(・ω<) テヘペロ.
これも微妙に関連企画ではありますが、おかげさまで無事に「ネコミミ村まつり」終了しました。コニシ木の子さん、いろいろありがとうございました✨

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