花模様の秘密のハンカチ
私はいつも公園を散歩する。
広い公園だ。
大きな池も、小さな山もある。
そこを散歩している時間が一番、心が自由だ。
公園には昔はたくさんの野良猫がいたが今はほとんどいない。
猫ボランティアによって管理され、減った。
減ると同時に猫ボランティアも減り、今では少ない猫の元を乳母車を押してまわりエサをやるおばあさん一人だけになった。
おばあさんは「エサ代募金ぼしゅう」という札を乳母車に貼っている。私は時々募金する。ポケットに500円入れて散歩することにしているので、気が向いたときにその500円玉をおばあさんに渡すのだ。
十回目くらいに500円玉を渡した時、おばあさんは私の顔をじいっと見た。
「あんた、疲れてるね」
「ええ、まあ…」
私はちょっと困った。
「自分の家が欲しいと思ってるね?」
「ええ、まあ…」
おばあさんは少し汚いエプロンのポケットから、くしゃくしゃに丸めた花柄のハンカチを出して私に渡した。
「汚いハンカチ。と思っただろ?」
「ええまあ…いえ、ええと…」
「確かに汚い。でもこれはすぺしゃるなハンカチだ。
あの白猫がくれた桜の木の精のハンカチだ」
おばあさんは少し先にいてこちらを見ている白猫をあごで指した。
「明日からこれを毎日洗って風と陽に当てて、立春を過ぎたらきれいにアイロンをかけ、それを持ってこの公園のあそこの桜山でキツツキを見つけ『自分の家が欲しいから穴を一つくれ』というんだ。
穴をもらったらそこに入って、このハンカチを入り口のカーテンにする。
分かったか?」
私は汚いハンカチをそっと受け取ってうなずいた。
おばあさんは笑った。
「そこはそりゃあ気持ちのいい部屋だ。桜の香りがして、桜の温かみが伝わって、桜色の蝋燭がほんのりと灯る部屋だ。昔住んでいたことがある…そりゃあ、ぐっすり眠れる…」
おばあさんが思い出しているその部屋が私にも見えた。
私はもう一度うなずき、「ありがとうございます」と言って別れた。
それから私はそのハンカチを洗い、干し続けた。
そして立春の日がくると、きちんとアイロンをして畳んでコートのポケットに入れて家を出た。
公園へ行くと桜山へ向かった。
コンコンコン…
聞える。
キツツキが高いところで木を突いている。
もうすぐおばあさんも住んだことがある桜の木の中の部屋に入れるのだ…
わたしの胸は少女の頃のようにことことなった。
(了)
👇先に書いたけどこの続きです。