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詩のような” 黄色い秋の中 ”【シロクマ文芸部】

木の実と葉が降り積もると池になる
座っているとずぶずぶと沈んでしまう
でも大丈夫!
濡れたりしない
呼吸も平気
ただ、だんだん
木の実と葉の池にもぐり込んでしまうだけ
ずぶずぶ、ずぶずぶ
ずるずる、ずるずる…

そうなると知っていたけれど
私は日にぬくもった落ち葉の上に座っているのが心地よすぎて
動けなくなってしまった
大きな銀杏いちょうの木がたくさん生えている広場だったので
黄色いふかふかの絨毯じゅうたんのようになっていた
空は高く高く青く
光が透き通っている
遠くで鳥が鳴いている
百舌もずだろうか

銀杏の木の下にいるのに
どこからかドングリが降ってくる
「今日のお天気は晴れのちドングリ」
百舌がそんなことを言う
ああ、ほんとうに
晴れのちドングリ。晴れときどきクリ。
私は手の横に転がる栗のイガイガに
わざとちょっと指を刺す
痛い、と言おうとしたのに痛くなかった
夢なのかな?

そう、夢だよ。
またさっきの百舌が言う
ううん、夢じゃない。
だってほら私
ちゃんと宿題の本を持っているわ!
私は手に持った本を百舌に見せる
真っ白だよ
と百舌が笑う
笑いながら飛んで行ってしまう
ほんとだ!本がまっしろ!
私は一ページに一枚ずつ、落ち葉をはさむ
銀杏いちょうの黄色い葉をはさむ間にも体が沈んでいく

沈みきったらそこは本の世界
黄色い秋の物語の中
遅れてやってきた秋の中
気がかりなことも忘れて眠ってしまおう
しばらくのあいだ。
日が暮れるまでのあいだ。
落ち葉から日の匂いのするあいだ。

目が覚めればもう
あなたは幸せな物語の中。


ふうちゃんさんギャラリーより


*小牧幸助さんの企画に参加します


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