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朗読「残照」(歩行者bさん作)

藤家秋さんの短歌から「夏の残り火」をテーマに短編を書く企画参加の歩行者bさん作「残照」を朗読しました。

「残照」
熱波の絶えぬこの頃。暦の如何に拘わらず、ここは真夏の底に埋まっている。
そんな中に一筋の秋がある。点Aの私と、そして点B。この線は秋を持っている。
点Bは時に虫の声、時に傘から滴る雨、ふとした陽射しの緩み(太陽だって完璧ではなく、私のように寿命を持つ身)、鳥に忘れられた空蝉、日陰の水たまり、俯いた向日葵、ちぎれ雲、水鳥の夏羽とさまざま。

盛大な花火大会は既に絵日記として定着し、私の手の中の線香花火が最後の一閃、今まさに地に落ちようとしている。

硝煙は彼(か)の人の匂い。
浜辺で彼の人とやった花火。最後に線香花火に火を灯した時、弾け飛ぶ火花は闇の中の願いごとのように美しかった。
それなのに彼の人は言った。
「はかないね」
私は言った。
「はかなくなんかないよ。あんなに綺麗だったじゃん」
「こんなに短いのはイヤだよ。もっと長く輝いていたい」
それなのに彼の人は呆気なく彼の地へ行ってしまった。夏の中の秋の線の上だった。

線香花火に火を灯すと、その線の上の彼の人が見える。きっとここから線はどんどん太くなり、やがて紅葉にまで火を灯し、それさえ燃やし尽くしてしまう。
悲しい秋を迎えるのは私の務めなのでしょうか。西の空を焦がしている間に、どうか私に手を伸べて、彼の地へ引っ張ってください。
彼の人とならば、私は穏やかな秋を迎えられる。線香花火の短い命を、私は美しく観たいのです。

「残照」歩行者bさん作

企画は応募作の中から抽選で1点、大橋ちよさんが曲を作ってくださるというものでした。抽選からもれた参加作にはちよさんが丁寧なコメントを書いてくださいました。
その中で歩行者bさんのこの作品に
「詩のような美しい文章の逸品です。
私は学生時代演劇を少しやってたのですが、これは、独白として舞台中央に立ってスポットライトを浴びせた女性に語らせたい文章だなーって思いました。どなたか朗読にしてみたりとか~しませんか??」
と、ちよさんが書かれていたので朗読してみたくなりました。
舞台中央でスポットライトを浴びて読む感は出せませんでしたが、そんなイメージをしながら普段より気持ちをこめた読み方をしてみました。
快く朗読許可をくださった歩行者bさん、きっかけをくださった大橋ちよさん、ありがとうございました。


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