蓮の花、何にたとへむ(自分でぽん)
「あなたはあの蓮の花を、他のものに例えるとしたら何がふさわしいと考えますか?」
一緒に歩いていた人にそのようにたずねられ、私は思案する。これは上手に答えなければ一生後悔するような、そんな大切な質問なのではないだろうか。なんと答えたら彼の気に入るだろうか?いや、彼が気に入るかどうかなんて考えてはいけない。自分で悔いのない答えをすることが肝心だ。
私はそっと池に咲く蓮に目を向けて足をとめる。なるべく姿勢よく佇み、深く音を立てない呼吸をして心を整える。
私がよく行く公園には桃色の蓮の花が咲いている。しかし初めて訪れたこの池では白い花が咲いていた。私は白い蓮の花は初めて目にした。桃色の花と違う静けさがあると思った。静けさをたたえる白いもの…月だろうか。この花を月に例えたらいいだろうか。
私は緊張するとお腹がきゅっと痛くなる。でもそんな風になった時には決して良い考えは浮かんでこない。私はお腹に緊張が伝わらないようにそっと手のひらを当てて、更に呼吸を深く繰り返す。蝉の声が耳から遠のいていく。
白い大きな花びらが、はらっと一枚散った。
ああ分かった。あれは。
「兎です。白い兎。月にいる…」
私はつぶやくように答え、頭の中にやさしい白い兎が跳ねた。
「ああ、素敵ですね。白い蓮を兎と見るのは…」
彼の頭の中にも白い兎が跳ねたのが分かった。
私はほっとしたので逆に少し陽気な声で訊ね返す。
「ではあなたは桃色の蓮の花を何に例えればいいと思いますか?」
「桃色の蓮ですか?そうですね…」
今度は彼が立ち止まり、その場にない桃色の花を思い浮かべて目を閉じる。私は木漏れ日のあたる彼のやわらかそうな髪をそっと見上げる。
何というだろうか。
私はドキドキして答えを待った。
*自分で自分の句にポンしてみました(笑)
「白蓮の花びら兎となりて跳ぶ」
⦅結末がスッキリしないとダメな人のための続き⦆
しばらくして彼はそっと目を開けた。
「目を閉じていたら蓮の葉が風に揺れる音が波の音のように思え、一瞬私は砂浜に立っていました。
なので、桃色の蓮は、この前あなたと砂浜を歩いたとき見つけた桜貝だと思えました。とても小さいですけどね。形も似ていますね」
彼はそういって私に微笑みかけた。
それは暑さがひいていくような笑顔だった。
(了)
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