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今さら今さら【シロクマ文芸部】

始まりはどこだろう、と考える。
そう、きっと私が最初に生まれたことだ。
私の後に妹が生まれ、その後にまた妹が生まれ、私は三姉妹の長女となった。三姉妹の長女!なんて可愛くないんだろう!私はずっとしっかりものの長女として過ごす羽目になった。私だって可愛らしい甘ったれた自由な末っ子として過ごしてみたかった。いつだってみんなから「しっかりしてるわね」「まじめね」と言われる長女なんてもうたくさん!
そんな風に過ごしてきてしまったから今も何か息苦しいのだ。

棚の上におかれたダルマが片目で笑う。
「あんた、その年になって何言ってんの?今さら今さら」
私はため息をつく。
「ほんとに。この年になって。今さら今さら」
でも私の苦悩の始まりはやはりどう考えても長女として生まれたことにあるような気がする。
とダルマに訴えてみるが、ダルマは今度は太いヒゲを震わせて笑う。
「今さら今さら」
「だって」
だって…と言ったら急に自分が恥ずかしくなって私は黙ってダルマのいる部屋を出て、玄関を出て、外に出た。春の日差しが眩しい。
「始まりは…始まりは…」
ああ、今は春の始まりだ。桜が咲き始めている。
私も何か始めよう。新しいことを一つ、始めてみよう。
春なのだから。
何が良いか、あとでダルマに相談しよう。
そうだ、ダルマの絵でも描いてみようか。
筆にたっぷり墨を含ませて。
いや、桜を描いてみようか。
筆を自由に動かして。
自由に。
人生に好きなものを描こう。
自由に。

(了)

小牧幸助さんの企画に参加します


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