短編 " 風鈴の中の… "【シロクマ文芸部】
風鈴とあなた。
どちらも幻だった。
あなたが買ってくれた風鈴には色々なものが入っていた。
晴れた空とか、蝉の声とか、虹のかけらとか星屑とか。花火とか。
あなたが私の部屋にいたあの夏の午後、
ちりんちりん、かちゃかちゃ、という音が近づいてきて、窓から外をみると風鈴売りが通るところだった。
「風鈴売り!初めて見た!」
私が小さく叫ぶとあなたは「買いに行こう」と言った。
二人ですぐに外に出て、風鈴売りを呼び止めて、決断力のある私はすぐに一つ選んで買ってもらい、部屋に戻ると窓辺に吊るした。
あの人に何か買ってもらったのは初めてで嬉しくて、一人になった後も、ずっと風鈴を見ていた。風を通さないと鳴らないから、エアコンを消して窓を開けていた。幸いその晩は涼しい風が吹いてきて、風鈴を鳴らした。
その風鈴の中には、風や月や星がみえた。
あの人が二度とこの部屋にこないと分かってからも、
ずっと一人で風鈴を眺めていた。
秋になっても眺めていた。
あの人なんかどうでもいい。
ただその風鈴が好きなのだ、
と自分に言った。
秋の夜中にも見ていた。
一緒に花火大会に行こう。
そういったのは嘘だったな。
騙された。
嘘つき。嘘つき。
風鈴に描かれた花火の模様をみてぼんやりと考える。
少しうとうとしていたかもしれない。
風鈴のガラスの中で、遠花火のような小さな小さな花火が
開いては消え、開いては消えるのが見えた。
ぼぼぼぼぼーん…
最後に一斉にたくさんの花火が風鈴の内側の空間で
重なり合って弾けた。
小さな光と音が消え、窓には静かな夜空だけが残り、
風鈴も消えていた。
私はそのまま眠った。深く眠った。
ずっと夢の中で美しい花火を見ていた。
(了)
*小牧幸助さんの企画に参加します