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#真夏の厳冬夜




品目:真冬の熱帯夜
不思議な小包、差出人は真夏の住人
開くと茹だる熱気が広がった
吸うと体の中を巡ってじんわり汗ばむ背中
鳴り止まない蝉の声はうるさいのに
寒さで強ばってた肩の力が抜けた
几帳面にヒグラシの声まで入ってる
ベタついた温風はきっと潮風
グリーンカーテンの窓辺で中々吹かない風を
暑さに溶けつつ待ってるみたい
空っぽになった箱の中を見つめたら薄ら陽炎
もうさすがに何も出ないだろうと
覗き込んだら打ち上げ花火の火薬の匂いと
ベビーカステラの甘いの香り
底冷えの部屋の中、今夜だけは熱帯夜



空になった小包にお礼は何にしようか考えた
冷たくて息を吸うのをためらうような
澄み切った星空がいい
青天の風花を箱中に散りばめて
鼻の奥をツンとさせる明け方の冷気と
頬を切るように撫でる北風も
冷えきった足先の温度も包みたい
不思議な小包、タネも仕掛けも見当たらない
新雪を箱いっぱいに詰め込んで
つきたてのお餅を少しだけ
ありがとう、と言葉を白く留まらせて
気持ち程度にすきま風を閉じ込めた
クール便で贈る小包
品目:暑気払い

届いた小包はひんやりとして
触れた指先から熱が逃げ出した
軍手を引っ張り出して作る小さな雪だるま
この子の寿命は今夜中
閉じ込められたお餅は優しい気遣いと
ちゃんと食べなさいよ、で耳が痛い
白い言葉を乗せて漂う寂しげなそよ風に
ここにおいで、と手を差し伸べる
きっと今日も寒空の下、悴んだ手足を温め
その足で立ってその手で誰かを助けてる
茹だる熱気を払ってくれた贈り物に口付けを
柔らかい風が彼女の頬を撫でますように、と
眠りについた

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