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マーガレット・アトウッド『オリクスとクレイク』畔柳 和代訳、早川書房

ディストピア小説「マッドアダム3部作」の第1作。わたしは第2作を先に読んでしまったのだが、やはり順番に読むべきだった。グロテスクで汚い場面が多かった第2作『洪水の年』に比べてこちらはすべてが寓話的で読みやすかった。2作読んでもまだ部分的によくわからないところは第3作でクリアになるんだろうか。

資本主義が行きつくところまで行き、社会の分断化が進んで、エリートはエリートだけで集まっている時代。エリートの子弟向けの学校で主人公ジミーとその友達クレイクが出会う。このへんで理系と文系の学生が分かれていて、理系は将来有望だ。クレイクは一流の大学に進み一流の科学者になる。一方ジミーはさえない芸術系(?)の大学に行って広告のライターになる。なにもかも論理で割り切って無駄のない科学者たちと、ふつうに恋愛を重ねだらしなく生きるジミー。ふたりが見るアダルトサイトには不思議な雰囲気の美少女が登場する。

個人的には「ダメな文系」対「すっきりピカピカの理系」の対比が面白かった。ジミーはいまでは使われないような古びた言葉を収集しており、どこかオーウェルの『1984年』も思わせる。

けっきょく疫病が起きて人類はほぼ全滅し、クレイクが作った人造人間とともにジミーは誰もいない世界に脱出する。人間はいないが自然は残っていて、人間が改良した動物たちもいる。その世界の描写はこういうストーリーにありがちとはいえ面白い。人間の健康が大きなビジネスになっている未来社会は現代でも予想できることだし、そこに科学者の暴走が加わればたいへんなことになるという作者の警告があるのは確かなのだけど、でもアトウッドはけっきょくこういう何もなくなった世界で原始的に再出発することが好きなんだろうとも思う。『侍女の物語』のような息苦しさはなく、荒地を歩くジミー(スノーマン)とともに読者はどこか原始的な爽快感を味わう。

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