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追悼 谷川俊太郎さん

子供の頃、アメリカのコミック『ピーナッツ』の日本語版が部屋の本棚に並んでいました。本好きの父が、本屋さんに行く度に買ってくれたのでしょう。私は小学生の頃からスヌーピーが大好きで、大人になるまで繰り返し読んでいました。

当時(1970〜80年代)の『ピーナッツ』シリーズは洋書のペーパーバックのような薄くて軽い本で、吹き出しに日本語が書かれ、英語が横に併記されたバイリンガル仕様でした。その翻訳が谷川俊太郎さんだということに気がついたのは大人になってからのような気がします。

谷川俊太郎さんは『ピーナッツ』の翻訳を1968年から手掛け、約50年をかけて2020年に完訳されました。ものすごい偉業です。

【日本語版全集刊行によせて】
笑いはあふれていてもユーモアが感じられない時代です。『ピーナッツ』は表情豊かな絵と機知に富んだセリフを通して、気づかないうちに私たちにひそむ悪意や敵意を中和してくれます。
50年にわたってシュルツさんが創造し続けたピーナッツの宇宙は、日常を描きながら、その深みにある隠された夢を私たちに見せてくれると私は信じています。ピーナッツの翻訳は時に締め切りに追われて苦しかったこともありましたが、チャーリー・ブラウンやライナスやスヌーピーたちと身内感覚でつき合うようになってからは、私の生きる歓びのひとつになりました。
このたびの全集の刊行は私も心より嬉しく思います。
         谷川俊太郎(詩人)

河出書房『日本語版ピーナッツ全集』

『ピーナッツ』は、もともとアメリカの新聞に連載の大人向けの漫画で、子供の頃は奥深い意味までは理解していなかったと思います。でも、小学生の子供の頭にもスーッと入ってくる可愛いキャラクター達の意味深なセリフが印象的で、『ピーナッツ』の世界に引き込まれました。英語が多少分かるようになってからは、原文も目にするようになり、へーっ、この英語をこんなふうに訳しているんだと色々な発見もしました。谷川俊太郎さんの抜群のセンスある翻訳だからこそ、キャラクター達の名言がそのまま日本に届けられ、『ピーナッツ』ワールドの素敵な魅力、面白さや奥深さを日本の私達も知ることができたのだと思います。

渡辺真理さんとの対談で、谷川さんが『ピーナッツ』への想いを語られています。1番好きなキャラクターは、喋らないからウッドストックだそうです。

長年、国語の教科書に載っているレオ・レオニの『スイミー』の翻訳も。

ぼくが目になろう

『鉄腕アトム』のテーマソングの詩も谷川俊太郎さん。デビュー作の詩集『二十億光年の孤独』を読んだ手塚治虫さんから直接依頼があり、作詞されたそうです。

空をこえて ラララ 星のかなた
ゆくぞ アトム ジェットの限り
心やさし ラララ 科学の子
十万馬力だ 鉄腕アトム

耳をすませ ラララ 目をみはれ
そうだ アトム 油断するな
心ただし ラララ 科学の子

七つの威力さ 鉄腕アトム

町角に ラララ 海のそこに
今日も アトム 人間まもって
心はずむ ラララ 科学の子
みんなの友だち 鉄腕アトム

谷川俊太郎 作詞

ふっと口ずさみたくなる優しい歌詞。手塚治虫ゆかりの地、兵庫県宝塚市にある手塚治虫記念館に入るとこの歌が流れてきます。阪急宝塚駅の発車メロディも(山手線の高田馬場駅も同じメロディだとか)。宝塚市は私の故郷で、この歌を聴くと何だか懐かしさを覚えます。谷川さん訃報のニュースで『鉄腕アトム』がテレビから流れてきて、今週は家の中でずっと口ずさんでいました。

数々の素敵な詩を残された谷川俊太郎さん。触れたことがない詩も数えきれないぐらいあります。今度帰国したら詩集を買って、谷川さんの詩の言葉をもっともっとかみしめたいと思っています。

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