【読書】欲しがりさんにオススメなミステリ
もともと私は単純な人間なので、ミステリ作品は
それほど捻った内容のものでなくともドキドキしながら読める人間です。
ただ、最近本屋を徘徊していると、
どうもコアなミステリファンの”飢え”を察知してか、
一つの真相だけでなく、複数の真相を秘めているような作品が
増えてきたように感じます。
今回は、そんな何度も驚いてひっくり返ってしまうような
ミステリ短編集を紹介します。
結城真一郎『#真相をお話しします』新潮社
惨者面談
家庭教師の営業担当スタッフのアルバイトに勤しむ大学生・片桐は、
小学6年生の矢野悠の自宅へ面談に行きます。
自宅到着直後から感じる違和感。
片桐は、いつも通りを装いながら、
少しずつその違和感一つ一つを繋ぎ合わせ、やがて一つの答えに
たどり着くのです。
片桐の機転が利かなければ非常に危険な状態だったのですが、
その後片桐が知る真実に、きっと誰もが驚愕するはずです。
片桐とともに一つ一つの違和感のピースを繋ぎ合わせていく作業、
そしてその後に追加で伝えられる真相に二重で驚くお話でした。
ヤリモク
読み始めは、妻子持ちである男が浮気目的で年齢を詐称して若い女性と
身体を重ねることを快楽にしている話かと思いましたが、
やはりそれでは収まらないのがこの作品。
出会ったばかりの女性をあまりにもスムーズにお”持ち帰り”できたことから
少しずつ違和感を感じ始め、そして自分の身の危険に気づくのです。
絶体絶命だ、と思った瞬間。主人公・”僕”が考えている、ヤリモクの意味に
背筋がぞくっとしました。
パンドラ
不妊に悩んだ末に子供を授かった夫婦。その夫・翼は、
妊活中に「精子提供」について知り、実際に自分提供を始めます。
そして何年も経ったある日、その精子提供によって生まれた娘から
連絡を受けるのです。
十四歳となったもう一人の娘から聞かされる、彼女の母親の過去を知り、
驚く翼。
そしてここでカギとなるのが「血液型」です。
”パンドラの箱”を開けてしまった翼が、
数珠つなぎにもう一つのある残酷な真実にたどり着いてしまいます。
三角奸計
この章に出会うまで、「奸計(かんけい)」という言葉を
知りませんでした。
その意味は「悪巧みや邪悪なはかりごと」——嫌な予感しかしません。
桐山は学生時代の友人、茂木と宇治原とのリモート飲み会に参加します。
その中で、宇治原がとつとつと婚約者の浮気の可能性について二人に相談を
始めるところから、不穏な空気が流れてきます。
茂木の背後を通った女性が、自分の婚約者のようだという話から、
宇治原が「あいつを殺しに行く」と言い出し、必死に止めようとする桐山。
そして宇治原から見せられた婚約者の写真に、
桐山は度肝を抜かれるのです。
殺気立つ友人を必死に止めるその様子に、こちらもハラハラしました。
#拡散希望
舞台は匁島(もんめじま)という小さな島で暮らす
珠穆朗瑪(ちょもらんま)は、小学三年生の時に同級生の凛子を失います。当時は転落事故として見なされていましたが、
その前日に凛子と会話していた珠穆朗瑪は、ただの事故ではなく
殺人であると考え、過去を振り返りながら真相を究明します。
ある日、スマホを購入してもらった凛子。
「YouTuberにならないか」と凛子が誘ってきたところから、
珠穆朗瑪たちの周囲の人々の態度が一変していくのです。
果たしてその真実は何なのかーー。
YouTubeのやりすぎ動画の闇を題材にしたお話です。
こんな作品に出会ってしまっては、これからミステリ小説を読む際に
つい「もっと捻った謎の究明はないの?」と欲しがってしまいそうです。