コーチングxゲシュタルト療法の可能性
こんにちは。コーチのすぐです。コーチングに出会い、デザイナーとして新卒で入ったヤフーを2020年に退職し、コーチ兼デザイナーとして活動しています。
僕はTHE COACH Academyというコーチングスクールを修了し、その後2つ目のスクールを経て、現在は「ゲシュタルト療法」と「チームコーチング」の探求の旅のプロセスにいます。
特に今年の6月に、ゲシュタルトコーチングの第一人者のジョン・レアリーレイスによる4DAYSのWSを受け、ゲシュタルトコーチングの可能性に魅了されました。
ジョンは、ゲシュタルトセラピスト、グループファシリテーター、トレーナーとして20年以上のキャリア、そしてエグゼクティブコーチング修士号を保持しています。
彼のWSでは、ゲシュタルトの世界観をタンゴの踊りを交え理解するのですが、知識を体感感覚で理解していく、その創造的な発想が素晴らしかったです。
その他にも、ARUKUKI主催「ゲシュタルト療法 超入門ワークショップ for コーチ」と、Hirogestalt主催「ゲシュタルトオンライントレーニング2023」
にて、コーチングとゲシュタルトの両側面を探求してきました。
これらの学びで得た、日本ではまだまだ知られていない「ゲシュタルト療法 x コーチングの可能性」について解説したいと思います。
欧米においては、コーチがゲシュタルトのエッセンスを取り入れ、ゲシュタルトコーチングという分野が確立されつつあります。実際にAmazonで調べてみると「ゲシュタルトコーチング」という本がいくつか出版されていますが、日本語訳のものはまだ一つもありません。
ちなみに、ジョンの著書「Fertile Void: Gestalt Coaching at Work」が来年2024年に出版されるとのことです。(翻訳途中のものをPDFで拝見させていただき、そこで得た知見もこのnoteに盛り込んでいます。)
ゲシュタルト療法は、現象学や実在主義、我汝などの哲学や、生物学、ゲシュタルト心理学など様々な背景理論がベースとなっており、僕自身も学びのプロセスにいるため、その全てを解説する域まで達していません。
しかしながら、自分が魅了されているゲシュタルト療法の世界観を、1プロコーチとしての立場からお届けできればと思います。
今回は、主にコーチングを学んだり、対人支援者向けの記事になります。
ゲシュタルト療法の出会いについては、別の記事に書いたので、こちらも読んでいただけたら嬉しいです。
( 本記事は20代コーチコミュニティーCOACH XのAdvent Calendar 2023の記事です。その他の方の記事もぜひお楽しみに!)
そもそもゲシュタルトとは?
ゲシュタルトとは
ゲシュタルトとは「かたち」とか「全体」とか「個々の部分がまとまって構成するひとつの形」を意味するドイツ語です。
人は、部分ではなく、形態を全体像からまとめて見る傾向があります。例えば、以下のような点と線で組み合わされた図があった時、私たちは「図や線」ではなく、「円」であると認識します。
これがゲシュタルトです。私たちは、部分ではなく、総和で物事を知覚するのです。その逆で有名なのが、「ゲシュタルト崩壊」ですね。
漢字を何回も書いていたら、何だか訳がわからなくなってきたというのは、全体ではなく、その部分に注目し続けると生まれる現象です。
僕の本名は直(すぐ)ですが、直を書き続けていると、あれ、こんなんだっけ…となってきます。これがゲシュタルト崩壊です。
図と地の概念と、ルビンの壺
もう一つ有名なゲシュタルトの概念に「図と地」の概念があります。それを理解できるのが「ルビンの壺」です。
以下の絵を最初に見た時、あなたはどのように知覚するでしょうか?
見方によっては、白い2人の人間が向き合っているように見えますし、黒い壺が真ん中にあるように思えます。
面白いのは、その二つを同時に見続けることができないことです。何かを見ている時は、どちらかが「図」に上がってきて、見えていたものが「地」に下がるのです。
これはコーチングの対話において、相手が自分が話していることを改めて聞くことで、自身の信念や思い込みを認知し気づきを得ていく、「アクティブリスニング」や「オートクライン効果」とも共通しているとも言えるでしょう。
つまり、何か(図)に気づき続けることで、その背景にあった思い込みや信念(地)が上がってくるのです。
このように人間の知覚における理論は「ゲシュタルト心理学(Gestalt Psychology)」として知られていますが、「ゲシュタルト療法(Gestalt Therapy)」においては、まだまだ認知度は低いのではないかと思います。
以下では、「ゲシュタルト療法とコーチングの交差点」について、書いていきたいと思います。
歴史と世界観
ゲシュタルト療法の歴史
ゲシュタルト療法は、精神分析医「フレデリック・パールズ」と、妻のゲシュタルト心理学者の「ローラ・パールズ」、そして、文学評論家の「ポール・グッドマン」らによって1950年代に創られた心理療法です。
実存主義哲学や現象学、東洋思想や禅の人間観に基づき、集中と気づきの体験を通して癒しと成長を図るアプローチです。
それまでの心理理療法は、クライアントの課題を分析したり解釈するものでしたが、ゲシュタルト療法では、クライアントの身体、心、思考に起こる全ての出来事にただ焦点を当て、気づき続けていきます。
※ 参考「日本ゲシュタルト療法学会」より
川を押すな自然に流れる
ゲシュタルト療法の創設者のフレデリック・パールズは、「川を押すな。川は自然に流れる(Don't push the river, it flows by itself.)」と述べました。
これが、ゲシュタルト療法の世界観を表す言葉になっています。これについて皆さんは、どんなことをイメージするでしょうか?
例えば、「何かをしたいと思った時、でも〜」となってしまうのが人の常です。
これを図解すると、何かのエネルギーが生まれた時に、それを止めるブレーキがあると思います。その先には、辿り着きたい未来があるはずです。
目の前に悩める人がいた時、あなたはどう関わるでしょうか?
ゲシュタルトなアプローチとは?
例えば、その「エネルギー」に着目した時、それを生み出している源泉や経緯に目を向けることもできるしょう。そのエネルギーを信頼し、クライアントの背中を押すこともできます。
また、それを留めている「ブレーキ」に着目し、その原体験にアプローチして思い込みを疑ったり、認知行動療法的アプローチで、認知のゆがみを整えることもできるでしょう。
それ以外にも、その先にある「理想」の未来やゴールに目を向けることができるかもしれないです。理想を描くことで、今の壁を乗り越える動機づけが可能になります。
一方、ゲシュタルトにおいては、未来でも過去でもなく、「今ここ」で起きていることにフォーカスします。
例えば、以下のような問いかけが考えられます。
このように、「いまここ」で起きていることに気づき、感じ続けていきます。
「え、何もやっていないじゃん!」そう思うかもしれません。実際そうかもしれません。ゲシュタルトなアプローチにおいては、ファシリテーター(コーチ)は、何かを変えるものではなく、目指すところは「気づきそのもの」だからです。
気づきが生まれれば、川は自然と流れていくのです。
それは今そこにいる人の存在を認め、信じ尽くすことだといえるでしょう。これは、コーチの誰もが持っているコーチングマインドにも通ずるところではないでしょうか?
コーチングにはたくさんの流派があり、ゲシュタルトアプローチもその一つです。
しかし、その根底には、「人の可能性を信じる」「答えはクライアントの中にある」というコーチングマインドが、コーチの誰にもあるはずです。
パールズの、「川を押すな。川は自然に流れる」という言葉も、人の生き生きとした生物そのもののシステムを信じる姿勢があるのではないかと僕は思います。
背景にある理論
ゲシュタルト療法の背景には、さまざまな理論や哲学があり、以下のように分類できます。
僕はコーチングを学んだ後にゲシュタルトに出会いましたが、その世界観や根底にある強固な哲学をとても感じました。
僕自身、今学びのプロセスにいるため、語りきれないところもありますが、その中でもゲシュタルト療法の根幹にあるといってもいい「変容の逆説的理論」について触れたいと思います。
本質的な変容な、ありのままの自分を受け入れた時
ゲシュタルトなアプローチ、特にゲシュタルトコーチングにおいては、目標に到達するために、目標を無視するという逆説的なアプローチをとります。
クライアントの目標を明確にしたら、いったんその目標は置いておいて、今この瞬間の体験に焦点を当てていくのです。クライアントの過去の経験や、将来の目標についても、脇に置いておきます。
これは、ゲシュタル療法の理論的支柱の一つである「変容の逆説理論」が支えとなっています。パールズの弟子であるアーノルド・バイザーにより提唱されました。
彼は、テニスプレイヤーで全米テニスランキング17位になるほど名選手でしたが、25歳の時に医師として行っていた朝鮮戦争でポリオにかかり全身不随となりました。
今までスポーツに人生を注いでいた選手が、ある時全身が動かなくなってしまったのです。僕もずっとサッカーをやっていたので、その葛藤は相当なものだったでしょう。
しかし彼はのちに、「今の私を否定して、あたらしい私になることはできない」と悟り、変容の逆説的理論を提唱しました。
彼の貴重なインタビューの動画もアップされているので、気になる方は是非空いている時間でのぞいてみてください。
映画やアニメで見る変容のプロセス
僕はアニメや映画が大好きですが、登場人物が成長していくストーリーには、この「変容の逆説的理論」が体現されていると思います。
主人公が悪戦苦闘し乗り越えようとする時、本当に変われる時は必死に努力を重ねた上で、ありのままの自分を受け入れた時です。
映画「エヴァンゲリオン」でも、主人公のシンジくんは「そうか!僕はありのままの自分でいいんだ!」と自分を受け入れて世界が開けていきます。その他のストーリーでも、自分の弱さを受け入れた時に、英雄へと変容していくのです。
映画「すずめの戸締り」では、ある登場人物が過去の自分を抱きしめて、自分の未完了だった感情を完了させていき、自分の全体性を取り戻していきます。
それも、ありのままの自分の感情を、いまの私が受け入れることができた時に、生まれた成長とも言えます。
ゲシュタルト療法のトレーニングの場では、グループになって、ファシリテーターとクライアントのセッションを1参加者として共にしていきます。そして、このような映画やアニメのような変容の旅を時として何度も見る体験をします。
これもゲシュタルトが人を魅了する要因の一つです。その人のエッセンスレベルでの変容は、その参加者にも気づきや癒しをもたらすのです。意志や想いは伝染していくのです。これは場が持つ力とも言えるでしょう。
Fake it, until you make itとの違い
変容の逆説的理論はとても奥深く、僕にとってはいつも立ち返るものになっています。そこで成功哲学の一つに「Fake it, until you make it」があります。日本語にすると、「うまくいくまでは、うまくいっているふりをする」です。
TED TALKで話題になった「Body language may shape you who you are」においても、不安な時にパワーポーズ(自信満々なポーズ)を取ることで、体の中のホルモンバランスが変わり、自信が変わるという主張がなされました。
これはとても大事なエッセンスだと思いますが、変容の逆説的理論とは少し対立しそうな概念です。これに関して、印象的な出来事がありました。
冒頭のジョンによるゲシュタルトコーチングのWSにて、ペアでお互いに「完璧な自分」について話し合うワークをしました。コーチングにおいて、理想の自分をイメージするのはよくあることです。
僕の場合、完璧な自分を上げていくと「どんな人とも仲良くなれて、一瞬で相手の悩みを解決したり、世界中を旅していて友達がいたり、お金持ちになっていたり…」などなど、いろんなことが湧いてきました。
しかし、それを相手に話せば話すほど、そうじゃない自分にとてもドンヨリした気分になっていきました。
次に、「自分の尊敬する人」を思い浮かべて、その人物になりきるというワークをしました。ゲシュタルトにおいては、その対象に成り(Being)、外部と接触する(Contact)のは重要なステップです。
僕は、アーティストでONE OK ROCKのTakaを思い浮かべて「私は、自分の信念に基づいて、人々にまっすぐに呼びかけて、みんなをモチベートしています。常に魂を燃やして、世間の常識とは異なることでも、自分が正しいと思う感性を疑わず、行動しています」と語りました。
恥ずかしくも相手にそれを語っていると、まるで自分がTakaになったかのようで、そして彼に少しでも近づけているような気がしたのです。それをジョンに伝えました。彼はこう言ったのです。
彼にそう言われたことが、今も印象に残っています。
これについては、まだ僕の中でも問いになっていますが、ゲシュタルトのアプローチにおいては、その人の中に眠っている花開こうとしているものに意識を向けることだと言えるでしょう。
自分の考える理想は置いておき、その人をいま惹きつけている・現れようとしているものに目を向けるのです。
ゲシュタルトアプローチの強みと他との比較
ここまでは、ゲシュタルトの世界観や理論の奥深さをお伝えしてきましたが、最後に現実的な有効性について整理して閉じていきたいと思います。
ゲシュタルトコーチングが有効なケース
先ほどお伝えした通り、ゲシュタルトは人の心や内面に触れることのできるアプローチ一つです。ジョンの書籍によると、ゲシュタルトアプローチが効果的なケースは以下のように整理されています。
一方で、以下のようなケースにおいては、GROWモデルやNLPなど、未来にフォーカスした手法が役立ちます。
このように対人支援者としてのコーチは、クライアントの状況に合わせてアプローチを組み合わせることが重要だといえるでしょう。
THE COACH Academyで見るコーチングアプローチ
僕はTHE COACH Academyにて、最初にコーチングを学びました。THE COACHのコーチングスタイルは、インテグレーションコーチングと呼ばれ、特に人の発達(Being)にフォーカスしたアプローチと言えるでしょう。
このインテグレーションコーチングでは、クライアントの現在地をヒーローズジャーニーという理論をもとに見立て、「Resourceful Coaching」と、「Be with Coaching」の2つでアプローチしていきます。
Resourceful Coachingでは、クライアントの本当にありたい姿を見つめていき、その人が持つ全てのリソースを発掘していく、未来志向のアプローチと言えるでしょう。
Be with Coachingは、不安と恐れの源に向き合い、今ここでその感覚を探究していきます。ここにおいては、ゲシュタルトアプローチがかなり親和性が高いといえるでしょう。
このように、クライアントの状況に合わせてアプローチを変えるTHE COACHのコーチングスタイルはとても優れているとも評価できます。
スクールの数だけ、そのコーチングスタイルは異なります。しかし、エッセンスレベルでは共通する部分もたくさんあります。
THE COACHは2020年にできたばかりのスクールではあり、伝統においては他のスクールより劣っているかもないですが、新しいものを取り入れ、今の時代に求められている声を聴きチャレンジをしている点において、僕にとてもFitしています。
ちなみに背景理論にはゲシュタルト療法も取り入れられており、僕がゲシュタルトの世界に引き寄せられている理由の一つと言えます。
ゲシュタルトの祈りと共に
いかがでしたでしょうか?自分で書いてみても、ゲシュタルトの理論や哲学の2%ぐらいしか書けてない気がしてきましたし、それだけ奥深い世界でもあります。
もしゲシュタルト療法を体験してみたいという方は、今トレーニングを受けている野妻裕美さん(ヒロさん)、ゲシュタルトコーチングのWSでお会いした白坂 和美さん(カズリン)、日本で第一人者の百武正嗣さん(モモちゃん)をこの場でご紹介させていただきます。
どなたもファシリテーターとして熟達しており、尊敬できる方々で何よりもチャーミングなお三方です。
コーチとして、ゲシュタルトのファシリテーターとして、クライアントに向き合うということは、同時に自分自身が人生をどう生きるかに向き合い続けることでもあります。
コーチは、クライアントを変える人ではなく、その人の生き方を認め、同時に自分自身もまた1人間として、どう生きるか選択することだからです。
僕自身も一度きりの人生だからこそ、見てみたい景色へ、辿り着きたい場所へ、成し遂げたい何かに向かって人生を歩んでいます。
来年は、超一流のコーチになるべく、コーチングにもっと力を入れたいと思います。記事を読んで少しでもいいな、コーチング・ゲシュタルトアプローチを体験したいと思ってくれたら、気軽に体験セッションを受けてくれると嬉しいです。
通常は、1万円で継続セッションを提供していますが、初回のみ1時間1000円(90%オフ)でご提供します。各SNSで気軽に「noteを見ました!」とご連絡ください。(※ 2024年1月まで / 本note経由限定です)
最後にパールズがワークショップで読むことを好んだとされる詩の「ゲシュタルトの祈り」で閉じさせていただければと思います。
あなたの生きたがっている人生が花開きますように