見出し画像

『VISITORS』の衝撃①

1984年、僕は邦楽が、歌謡曲やアイドルの歌、もしくはフォークソングだけではないことを知った。
それまでに僕はキャロルや横浜銀蝿といった日本語のロックは知っていた。
しかし、佐野元春の『VISITORS』はその中のどれとも違っていた。

当時まだ子どもだった僕は、クラスの何人かの女の子と仲良くなり、いろいろな話をした。
その中で、音楽の話になり、誰かが僕に尋ねた。
「佐野元春は好き?」
「好きだよ」
「ウチのお姉ちゃんがLP(レコード)持ってるから貸してあげようか?」
「え、いいの?!ありがとう!」
僕はまるで当然のように次の日には佐野元春のアルバム『VISITORS』のLPレコードを手にしていた。

僕の家にはレコードプレーヤーからカセットにダビングするようなオーディオシステムはなかったので、そのLPレコードを友達に頼んでカセットテープにダビングしてもらい、繰り返し繰り返し、擦り切れるほど何度も聴いた。そういう時代だった。

1曲目。Complication Shake Down。まずこの曲に度肝を抜かれた。なんだこの音楽は? なんだこの歌い方は?

それまでに僕が知っていた佐野元春は、確かイントロに車のクラクションが入る歌だった。それはラジオを付けていて偶然流れてきた曲。詳しいことは覚えていない。タイトルもわからない。それが佐野元春の『SOMEDAY』という曲だとわかるにはしばらくの日数がかかった。しかし、これいい曲!と思っても、現在のようにSpotifyなどのアプリをスマホで即座に起動させ、検索させるような便利な手段はなかった。だから最初の曲紹介で歌手の名前や曲のタイトルを聞き逃してしまえば、もうそれで終わりで、再び同じ曲かラジオで流れるまではもう二度とその曲に出会うチャンスはないのだ。

けれども僕は何となく、佐野元春という名前は覚えていて、その後、「知ってる?」って聞かれたら「知ってる!」と答えられるぐらいにはなっていた。でも曲名などはまだ不確かだった。

レコードは傷を付けたら大変だという認識がすごくあったので僕はそのアルバムをなるべく早く貸してくれた子に返した。お姉ちゃんの物だというし、中の歌詞を書いた紙などを折り曲げたりしたら大変だから取り出して見ることさえしなかった。

ただ、とにかく今まで聴いた音楽とは違う!ということは僕にも理解できた。

日本で初めてのメジャーなアーティストによる、ラップ、ヒップホップとロックとの融合。

「愛を込めてコミュニケーション・ブレイクダウン」などという歌詞は聴いたこともなかった

簡単な言い方をすれば「カッコいい」と思った。
知らない世界に触れた気がした。

2曲目、Tonight。最初の歌詞、「Tonight 〜」の後、「めがり〜のまちにひがともる〜」って聴こえたけど何を言っているのかわからなかった。
歌詞カードを見て初めて、「雨あがりの街に 灯がともる」だとわかるにはその後、何年かかかった。
その後も時折わからない箇所が続いた。でもだからこそ「カッコいい」と思った。1曲目と比べれば普通にポップな印象だったけど、それでもやはり何を言っているのかわからない歌いかたが、それまでに聴いた邦楽のどの音楽とも違っていて、とても新鮮だった。

もちろん、まだ子どもだった僕が他にたくさんの洋楽や邦楽を知っていてそう思ったわけではない。主にラジオを通して得られた限られた情報の中で、そう感じただけだ。

次に3曲目。WILD ON THE STREET。この曲で再び僕は衝撃を受ける。それ以降の話は②で。

読んでいただきまして、心から感謝いたします。次号でお会いしましょう。ではまた。

#音楽 #はじめて買ったCD #ラジオ #佐野元春 #邦楽 #80年代 #ロック #ヒップホップ #ラップ #VISITORS #SOMEDAY






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?