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09:さよならを唱えるとき

『あめりかむら』を読んだ話

今年の終わりも見え始めてきた。
初めて、石田さんの作品を手に取った。
ぽっかりと空いた穴を無理に埋めるのではなく、ぽっかりと空いた誰かの穴をそっとそのまま大事に残しておく場所を教えてくれる言葉がここに紡がれていた。

高校生の頃のひんやりとした感覚も、旅先のご夫婦にホッとする感覚も、幼い頃に振り返らなかったあの瞬間も、どうやら私だけではないらしい。
妙な安堵を覚える1冊だった。

石田さんは何かを喪うことをちゃんと見つめた方なのかな。
石田さんは喪っただれかをちゃんと自分の中に住まわせている方なのかな。

見える景色が劇的に変わるとか、自分の足取りが軽くなるとか、そんな大変化を起こす作品は確かにあるし、そんな作品は素晴らしい。
けれど、本当にそっと人生に寄り添ってくれるのはこの「あめりかむら」のような作品なんじゃないかな。

さよならを唱えるとき

年始に立てた計画。
晴れやかな気持ちの数々。
20代。
突然変わっていく自分。

今年もそうはならなかったいくつもの項目にひっそりとさよならを唱える。

最近おおきめなさよならをした。
さよなら、をできればきちんと伝えたかった。
でも向こうがどうやらさよならモードに入ったので、わたしは私のケジメでさよならを言うことにする。

夏をまとめたような人だった。
夏に生きているような人だった。
秋が得意で冬が好きな私にしてみれば、夏が似合って夏が好きだなんて眩しい限りだった。

なんで、を繰り返してみることにも疲れて、自分を見失う前に手を振ることにした。できれば、もっと先まで続くって思いたかったけれど、このままではいられないから。

無理して合わせても仕方がない。
楽しかったあの春の日はそっとしまっておく。
眩しかった夏の3日間は、たまに思い出してもきっとバチは当たらないはずだ。
世の中の平均値は知らないけれど、ずいぶんおとなしく待っていた方だと思う。きっとそれが私の性には合わなかったのだ。

どんな運命でどこにいくのかわからない人生だとつくづく思う。
不幸せかと聞かれたらそんなことはない。
予想していた未来と違うからといって、今日も生き延びた自分を全否定して不幸せだ、もっと誰かと幸せになる予定だった、と嘆きたくない。

秋を一緒に過ごしたかったな。
冬、一緒におでんでも食べてごろごろしたかったな。
そんな未来をちょっと前まで信じようとしていたけれど、切れてしまったものは仕方がない。

胸のうちを隠す人だった。
私が打ち明けるに値しない人だったのかも。
たくさん質問してほしかったけれど、あまり尋ねてこない人だった。
興味がなかったのかも。
距離のせいではなく、合わないものは合わないのだ。

時々、ものすごく不器用で繊細で気にしいな小さな彼が見えた気がして、ぎゅっと抱きしめたかったけれどそうするにはあまりに毎日が忙しすぎた。
そうするにはあまりに交わした会話が少なかった。

気軽にスタンプ攻撃したかった。
仲良しだったあいつやあいつのように、テキトーなLINEでニヤついてしまうような距離感になれたらよかったのに。

今、何を言っても仕方ない。
追いかけないこと。

どうか元気でいてね。
ずっと元気でいてね。

きっと我慢ばかりさせたのでしょう。
やさしいから、私の気持ちが読めなくて不安にもさせたのでしょう。
最初に保険をかけすぎた私のセリフに面食らったのでしょう。

もっと早くに切る方法だってあったろうに、そうしないでいてくれたことありがとう。
時間を使ってくれたこと、ありがとう。
背中を押されることが圧倒的に多かった。
もともと大尊敬していたから、自分が選ばれたことが信じられない気持ちでいました。
もうこれで、あなたを縛るものは何もない。

まっすぐ私の目を見てくれた眩しい顔、やさしい声が残っています。
もっと一緒にいたかった。
あそびたかった、笑いたかった、泣きたかった、ありがとうを伝えたかった。

ありがとう。
さよなら。
もし、もう一回会う日が来たらお願い笑っていてね。

ずっと前に一生会えなくなるはずだった。
会えなくなるはずをずっと引き延ばしてくれてありがとう。
新しい気持ちをくれてありがとう。

大切な人でした。
いきなり私の中からいなくなってもらうことはできないから、そっと「あめりかむら」の気分で箱にしまいます。

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