
1119:追悼 ことばの魔術師 谷川さんへ
谷川俊太郎さんが亡くなった。
つい先日、職場の先輩と出張の帰り道の車内で、「生きる」を話題に笑い合ったばかりだった。
ヨハンシュトラウスやプラネタリウムに続けて、私はこの光景も混ぜたい、いや、その並びにはこの単語はきついからこっちにしようよ。
谷川さんが私にも先輩にも、同じ言葉を渡してくれた日が幼い頃にあったからそんな会話もできたわけだ。
高校生の頃、学校に何度か谷川さんがいらっしゃった。
たのしいおじいさん、そんな印象は毎回変わらなかった。
言葉に飲み込まれて、苦しくなることはなかったですか?
言葉が見えなくなることはなかったですか?
作品は閃くのですか?煩悶の中に光明として見出すのですか?
当時は思いつきもしなかった質問を、今なら訊いてみたいことが山ほどあるのに。
この混迷を極める時代に、また一人先ゆく偉大な巨人を失った。
日本にはあと何人、今を憂いて子どもの先行きを真剣に案ずる人が残っているのだろう。
谷川さんが過ごした幼い日にはあったものが、今どれほど失われているのだろう。デビューした頃から見つめていた危機がやってきたのはいつだったのだろう。
宇宙はひずんでいるそれ故みんなはもとめ合う宇宙はどんどん膨んでゆくそれ故みんなは不安である
孤独の受け取り方も察知の仕方も、自分の中に降り積もる量も、初めてこのフレーズを読んだ時より、ものすごく変化した。
ひずみや歪みがまるで私一人に向かってくるように思う日もあれば、楽しさの絶頂の中にふと終わりを感じて、孤独を自覚してしまうこともある。
スピッツの「花の写真」が好き。
2番の歌い出しの孤独は高校生の頃は知らなかった。同じ言葉で表現していてもずっと軽くて限定的だった。
谷川さんの今がこの曲のようなリズムでたのしいといい。
谷川さんの詩がずっと教科書に載り続けてほしい。
だれかが読み上げるたびに、そこに谷川さんが現れてくれたら、少しは何かが救われる気がする。

大好きだった本。
小さい頃に何度も読んだ本。
ここにも谷川さん。
谷川さんが言葉で描き出したたくさんの優しさと平和の中に今いてほしい。
苦しみのない場所でことばに囲まれてずっと見守っていてくれたらうれしいな。
ありがとうございました。
谷川さんの詩を読んでから今晩は眠ります。