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傍聴記録
最近、村上春樹の『アフターダーク』を読みました。3年前に卒業した先輩が引っ越す際に5冊くらい小説をくれたんですが、ずっと積ん読状態だったんですよね。なので、これでようやく1冊目かあって感じです。
物語の途中で高橋という男が「地方裁判を何度か傍聴した事がある」という話をし始めます。別にそんなに重要な場面じゃないんですけど、なぜか僕はすごく惹かれました。
「で、裁判が終わって、霞ヶ関の駅から地下鉄に乗ってうちに帰ってきて、机の前に座って裁判のメモを整理し始めたんだけど、そのときに僕は突然、どうしようもない気持ちになった。なんていえばいいんだろう、世界中の電圧がすっと下降してしまったみたいな感じだった。」
高橋が感じたものを自分も知りたくなりました。
地方裁判所の場所をGoogleマップで調べてみると、なんと自分の住む家から目と鼻の先。これはもう行くしかありません。運命ですよ運命。
そんなわけで昨日、図書館に本を返却しに行くか朝飯のパンを買いに行くかとりあえず裁判所に行ってみるか、どれを最初にするか考えながら家を出ました。でもなんとなく裁判所を優先した方が良い気がしたので、真っ先に向かうことにしました。
中に入るとすぐに空港のような荷物検査が行われ、それが終わると奥に進めました。玄関の近くに置かれていたその日行われる裁判がまとめられたファイルに一通り目を通して悩んだ末に、ある裁判を見る事にしました。他と比べてこの裁判の時間だけ異様に長かったので、これはいったいどんな裁判内容なんやと興味が湧いたんですよね。
開廷時間にはまだ時間があるなと思いつつ、建物内がどうなっているのか探索したい気持ちもあったのでゆっくりと部屋へ向かう事にしました。
部屋には傍聴用の椅子が40席ありました。なんとなく最前列は避けたかったので後ろの方に座ってくつろいでいたら、あれよあれよという間に人が入ってきて10分ほどで満席になりました。ど平日の昼間にも関わらずですよ。傍聴に興味のある人ってこんなにいるんやと驚きました。あと若い人も結構多くて、ノートとペンを持ちながら難しそうな法律の話をしていたんですけどやっぱり法学部の大学生なんですかね。
というか、勘を信じてパン屋よりも図書館よりも先に裁判所に来て正解でした。
定刻になり部屋の奥の扉から裁判員たちが入ってくると、そこにいる全ての人間が一斉に立ちあがりました。つられて僕も立ちましたが、裁判の流れを何も知らなかったのですごく不意打ちをくらった感覚でした。
彼らは傍聴席と向かい合う形で横一列に座っていったんですが、その迫力が凄かったです。これが司法か、、、と本気で感じました。頂上戦争で海軍大将3人が座りながら登場したあの見開きページのような、とにかく圧倒的なオーラってやつです。
途中で気付いたんですが、傍聴席や証言台、検察官や弁護人の座る椅子よりもかなり高い位置に彼らの座席があるので、僕らは必然的に見上げる形となります。これによって無意識に「この人たちには逆らえない」って印象を抱かせる構造になってるのかなとか勝手に想像してました。
とはいえ当の裁判員たちはまったく高圧的ではなく、むしろその逆でした。最初に裁判長が証言台の被告人に対して「あなたのお名前を教えてください」とか「現在働いていますか」みたいな基本事項をいくつか質問するんですが、それこそ子供をあやすかのように優しい口調、言葉尻でした。
それが終わると被告人は再び弁護人の隣に座ります。いよいよ裁判本編の始まりです。
まずは検察官がパワポのような視覚的な資料も見せながら報告書を読み上げていきます。傍聴している僕たちも壁の両側に設置された2つのモニターを通して資料を見る事ができたので、聞いていてすごく理解しやすかったです。
証拠として扱っているので当然っちゃ当然なんですが、SNS上のやり取りを報告する際には相手の誤字脱字メッセージすらもそのまま読み上げていたので徹底してるなあと思いました。でも、「○○、、??」みたいな感じでメッセージを読みながら検察官も困ってはいたので、万が一この先捕まって裁判で公開されても恥ずかしくないようにSNSの誤字脱字は極力無くしていきたいですね。
次は弁護士側のターンです。なんですけど、今回被告人が全ての罪を認めているからなのか、こっちの話は割と一瞬でした。両者に共通してたのは、びっくりするくらい分かりやすく説明してくれる点です。僕みたいな傍聴初参加の人にとってこれはとてもありがたかったです。
ここで1時間ほどの昼休憩が挟まりました。
結局朝を食えておらずお腹が空きまくっていたので、裁判所を飛び出しいつもの「えびす」でパンを2つ買いました。その後急いで図書館へ行って借りていた本を返し、またまた急いで裁判所へ戻りました。朝であの混み具合だったので昼も油断していては席を取られる気がしたからです。
今度は最前列に座りました。もう裁判の雰囲気は分かったので怖さは無いですし、もっと間近で裁判中のやり取りを聞きたいと感じていました。
定刻になり、午後の部が始まりました。予想に反して傍聴席には空きが目立ち、午前よりはいささか快適でしたね。
昼からは証人尋問がありました。
証人は被告人の父親でした。証言台に座り、まず最初に「絶対に嘘はつかない」という宣誓をした後、弁護士と検察官それぞれから約15分ずつ、最後に裁判員たちと裁判長からいくつかの質問を受けていました。
検察官はともかく弁護士までもが淡々と質問していったのは予想外でしたね。検察官が常に攻めまくる存在、対して弁護士は常に守りまくる存在みたいなイメージを持っていたからです。まるでお父さんが罪を犯して責められているかのように感じる瞬間もあったので、見ていてなんかヒヤヒヤしました。なんか午前の部とは明らかに雰囲気が違っていて、部屋の中に独特な緊張感が走ってました。
ともあれ全ての質疑応答が終わり、この日はこれにて閉廷となりました。次回は翌日の10時、主な内容は被告人への質疑応答との事です。休憩とかを抜いても4時間くらい裁判を聞いてましたね。
せっかくなのでこの裁判の判決まで傍聴し終えてからまとめて記事を書こうかなと思ってたんですが、今感じてる事が次の傍聴を経て変わってしまうと怖いですし、これからの全日程に参加できる確信が無かったのでこれはこれとして残しておこうと思います。
まずね、被告人の事がそこまで他人事に思えなかったです。自分とか周りの友達がこうなる可能性も普通にあるよなって感じの罪状や生活環境だったのでなおさらです。特定の誰かを傷つけたというより自分の病気が起因となって生活が崩れて法を犯したって形の方が近いのでなんだか情が湧いてしまいました。そら、そのまま放置してたら回り回って被害者が生まれたでしょうから捕まってもしょうがないんですけど、意図してやってた部分と知らないうちに悪に加担してた部分が混在してたので。
それから、証人である父親の事も可哀想に思えてきました。
さっきも書きましたが、今回のケースは分かりやすく被害者がいるわけではなく結果的に法律を犯したってのに近いです。しいて言うならこの父親やその他の家族は明確な被害者ですかね。ただ、その犯した罪が割と重いし、本人の意思とかは関係なく再犯の可能性が全然ありえるというのが厄介なところです。父親は答弁の中で「とにかく反省してまともな人間になってほしい」という言葉を何度か使っていましたが、なんだかやるせない気持ちになりました。
ここまで読んでてどう思いましたか。なんかいまいち情報が足りなくて、こいつは何が言いたいんやって感じたりしたでしょうか。
本当はね、こんな曖昧な書き方をせずに罪状とか細かいやり取りとかも踏まえて感じた事を全部書きたいんですよ。今ならまだほとんど覚えてますし。でもあまりに詳細な情報をSNSに載せるのは駄目なんですよね。裁判の感想を書いて捕まるのなんてあほすぎて嫌です。だから昨日感じた色々は紙の日記に書き残すしかありません。もし今回の傍聴に興味ある人は直接聞いてください。熱を帯びながら話せる気がします。
高橋はいくつかの裁判を見たうえで色んな事を感じていました。冒頭で引用したセリフはそれまで彼が見てきた中でも特に凶悪な事件、具体的には、鉈で老夫婦を殺しその証拠隠滅のために家へ放火した結果、近隣四軒まで焼き払った放火殺人犯に対して死刑判決が下された裁判を傍聴した後の回想です。それと比べれば、僕はまだ軽い罪状の裁判を一回見ただけにすぎません。それでも、作中で高橋が語っている感想というか葛藤が少しは自分事として理解できるようになりました。
もともとは人生経験として1回見たかっただけなんですが、想像以上に刺激的だったのでこれからも傍聴をしたいなと思います。とりあえずは今回の裁判はスケジュールが合う限り追っていこうかなと。なんてったって傍聴は無料ですからね。
でも今回1番驚かされたのは、裁判所内の自販機です。600mlの水が70円ですよ。これから水は地裁で買います。