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ベトナム旅行直前記

待ちに待ったベトナム旅行出発前夜、それも「さあそろそろ寝ようかな〜」なんて思い始めた23時半にゴキブリが現れた。

いつからこうなったのか自分でも不思議なのだが、僕は本当に虫が苦手だ。昔はここまで酷くなかったはずだが、今ではセミやカマキリはおろかダンゴムシですら気持ちが悪い。そんな人間の部屋にゴキブリが出たのだ。終わりである。出現場所を見るに、窓からではなく玄関のドアが開いた一瞬の隙を攻めてきたのだろう。

留学から帰国して以来ずっと今の部屋に住んでいるのだが、ゴキブリが現れたことは1度として無かった。そしてそれは単に掃除をしてきただけではなく、徹底して扉や窓の開閉をしてきたからこそだという自負がある。そう、僕は何年か前に1度やらかしているのだ。


その時も今回と同じく夜だった。昼間であれば気持ちにもいささか余裕が生まれると思うのだが、どういうわけかあいつらとは夜にしか出会わないのでイライラする。洗い終わった洗濯物を外に干し机に向かって勉強をし始めてすぐ、なぜか後ろが気になった。そして何気なく振り向いてみると、真っ白であるべき壁に1点だけ黒があった。左上の方に。しかもそれはそれまで出会ってきた中でおそらく最も大きいサイズだった。絶対にそうといえる証拠は無いものの、さっきまで窓を開けながらだらだらと洗濯物を干していたあの瞬間に入り込んだという確信と後悔が頭を襲った。

反射的に財布を持って部屋を飛び出し、可能な限りのスピードで近くのコンビニへと向かった。ゴキジェットを手に入れるためである。「なんで家に無いねん」という自分への怒りと「頼むから売っててくれ、、」という祈りとともに入店したものの、どこに置いてあるかが全く分からずしばらく店内をぐるぐるした。ようやくジェットを手にした僕は全速力で来た道を引き返した。エレベーターに乗っている間「どうかあの位置から動いていませんように」とひたすらに念じていた。

部屋に戻って視線を壁にやると、出る前とほとんど同じ場所に奴はじっとしていた。ホッとしたがそれと同時にいよいよこいつと対峙しなければならない事が確定したので絶望した。泣く泣く覚悟を決めた僕は狙いを定めてゴキジェットを噴射したのだが上手く当たらず、奴が壁から地面に飛び移ったせいで叫んでしまった。それでもまあどうにかこうにかスプレーを当て続けた結果、ついに奴は動きを止めた。実際のところは知らないが体感時間だけで言えば本当に長かった。逃げ回るゴキブリに長時間スプレーを当てることが虫嫌いにとってどれほど難しいか、アース製薬は分かっているのだろうか。5秒で倒してくれ。


むちゃくちゃ長くなってしまったが、こんな感じで前回はなんとか乗りきれた。ただ今回はそうもいかなかった。見つけたと同時に僕が固まってしまい、どう対処すべきかとろとろ考えてるうちに奴が洗面台とキッチンの隙間に入り込んでしまったのだ。汗がじわじわと溢れてきた。しばらくすると体が動くようになり、「なぜ近くのティッシュ箱ですぐ叩き潰せなかったのか」と自己嫌悪に陥った。そしてどういうわけか今回もゴキジェットが家に無かったため、大急ぎで買いに行った。

安心を得るには安いけど普通に高い

正直、ゴキジェットを手にした段階で勝ち確だと思ってしまった。だからこうして記念撮影をする余裕まで生まれてしまった。こんなの前回ならまず有り得なかった。だが、帰ってきていざ使ってみようとするとその隙間が狭すぎてどうにもスプレーが届かない。再び汗が吹き出してきた。


改めて書くが、翌日には4泊5日のベトナム旅行が控えていた。そしてこのまま出発するというのは部屋での大繁殖を許すのと同じでありそれは当然許しがたいことであった。そもそもこんな状況では寝れるはずも無かった。

旅行をキャンセルするわけにもいかないので、仕方なくもう一度部屋を飛び出しゴキブリホイホイ探しの旅を始めることにした。家の近くはローソン、ファミマ、100円ローソン、セブンイレブンというコンビニ天国なのだがホイホイはなかなか見つからず、最後に入ったセブンにてようやく巡り会うことができた。諦めムードが漂う中で見つけられたことがあまりにも嬉しく、ここでも悠長に写真を撮ってしまった。

人生初ホイホイ

目的を思い出した僕はすぐに部屋へと戻り、箱の裏面に記載された指示通りにホイホイを設置しまくった。部屋を出るまで「奴を見つけ出して殺すまではとてもじゃないけど眠れない」と殺気立っていたのだが、設置し終えた途端になんとも言い難い安心感と眠気が襲ってきた。「まあやれる事は全てやったか」と急に思えてきたのだ。そうしてすぐに眠りについた。


翌朝、ホイホイたちの様子を伺うも相変わらず奴の姿は見えなかったので仕方なく荷物を持って部屋を後にした。三宮から関空に向かうシャトルバスというのは朝早くからだいたい30分間隔で出ている。乗車予定のバスが出発する15分前ほどに乗り場に着いた僕は、友達と一緒に券売機で往復3700円のチケットを買った。そして近くのコンビニで買ったおにぎりを食べながらバスの列に並んで待っていた。

ほどなくしてバスは到着し係員の指示に従って列が動き出したのでチケットを出そうとポケットを探るのだが、そのチケットが見つからない。そう、このたった数分の間に無くしたのだ。考えうる全てを探したが見つかる気配がないのでもう一度券売機へ走り、数分前に買ったものとまったく同じチケットを買った。あほくさすぎる。お釣りを受け取るとダッシュで乗車口に向かったのだが「あ〜もう満席だから!悪いけど、次のバス乗ってな!」と係員に言われた。もう萎え萎えである。無くした自分が悪いので金を返してくれとは言えないが、どこに行ったのかだけは本当に教えてほしい。


仕方なく列に並び直し、次のバスに乗って関空へ向かった。友達はもうさっきのバスに乗ってしまったので1人である。飛行機に間に合うためにはこのバスがギリギリのラインだったので、早めの時間設定にしておいて本当に良かった。乗車してすぐに一眠りしたがそれでもまだ少し時間があったので、なんとなくフライトのオンラインチェックインを済ますことにした。そしたらこれが裏目に出た。

空港に着いて友達4人と合流したのだが、オンラインチェックインをしていたのは僕1人だけだったのだ。その後カウンターでチェックインをした皆は前方の席が空いていたおかげで横並びに座れたのだが、既に手続きを終わらせてしまった僕だけは最後列だった。横には誰もいなかったのでとても快適だったし、そもそも飛行機なのでぺちゃくちゃ喋れる空間でもなかったのだが、前日の夜からの流れのせいで自分がひどくついてない人間のように思えてしまった。離陸してしばらくはもやもやしながら音楽を聴いていたのだが、前日の夜のドタバタのせいで睡眠時間が全然足りていなかったこともあり、あっという間に眠りについた。


着陸の1時間前くらいに目が覚めたので、残り100ページほどに迫っていた『ノルウェイの森(下)』を読むことにした。いつだったか大学の友達が言っていた通り、これは小説というよりエロ本だった。もちろん内容は面白かったし相変わらずの独特な言い回しと描写のおかげでその世界観に惹き込まれたのだが、これまで読んできた本の中でもダントツで性描写が多かった。最後の最後まで性描写だった。

しかしどういうわけか、昨晩から今朝にかけて起きた不運な出来事たちへのやるせない気持ちが消えていた。たしかに村上春樹は性描写が多いし多すぎると思う部分もあるが、やっぱり話が面白いし物語への没入感がピカイチなので、読んでよかったなあと毎回感動させられる。あと、ベトナム旅行はとても楽しかったので、それもまた気が向いたら書こうと思う。


ちなみに今日は9月4日なのだが、いまだにどのホイホイにもホイホイできてない。設置開始から1週間も経ったのにである。もう毎日最悪の気分で過ごしている。なので、これから僕の家に来る人はもしゴキブリが現れても僕ではなくアース製薬に文句を言ってください。

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