ワークショップに欠かせない4つの要素とは
「 ワークショップ 」とは何か?
ワークショップデザインの講座を定期的に開催するなかで、参加者の所属や年齢の幅の広さから、ワークショップが本当に多種多様な領域で用いられていることを、肌で感じています。しかしながら、そのように多様な領域で用いられるからこそ、「そもそもワークショップとは何か?」という問いに対する答えは、その人がワークショップをどのように学んできたかによって、大きく異なります。
弊社代表の安斎は、教育工学や認知科学の領域をベースとして、ワークショップデザインについて10年以上研究と実践を重ねてきました。そして講座では、ワークショップをこのように定義しています。
普段とは異なるものの見方から発想するコラボレーションによる学びと創造の方法
また、安斎も共著者の1人である書籍『ワークショップデザイン論-創ることで学ぶ』では、副題にもなっている通り、ワークショップを「創ることで学ぶ活動」と端的に説明しています。そのように「創ること」と「学ぶこと」の両方の性質をもつワークショップは、創作活動や学習、またはじっくりとコミュニケーションがとれる場をつくる手法として、アートや教育、まちづくりなどの分野を中心に用いられています。
あらゆるワークショップが持つ“4つの要素”
このように幅広い分野で実践されているワークショップは、一見すると捉えどころのない活動のように感じられるかもしれません。しかし、安斎はあらゆるワークショップに共通して存在し、また欠かすことのできない「ワークショップのエッセンス」として、以下の4つが存在する、と話します。
・非日常性 ・協同性
・民主性 ・実験性
今回の記事では、これらの要素について、一つひとつ解説していきます。
非日常性:いつもとちょっと違うやり方で遊びごころをもって取り組む
安斎によると、ワークショップをつくる際には「問いのデザイン」と「遊びのデザイン」の二つの観点から考えていくことが重要だとされています。その中でもこの「非日常性」という性質は、「遊びのデザイン」と密接に関連したエッセンスです。
「遊び」研究の第一人者・ホイジンガ曰く、遊びは「日常生活とは別の、定められた時間・空間の範囲内で自由に行われる」や「自発的に受け入れたルールに沿って行われる」、「何をのためにするのではなく、それ自体が目的である」などの項目によって定義することができるのとされています。そしてワークショップでも、子供がなりきりごっこをしたり、秘密基地をつくったりするように、日常とは異なる文脈にあえて自らを落とし込み、夢中になって取り組めるような課題を設定することで、普段の生活では決して得られない学びの獲得につながるのです。
協同性:1人の天才に頼るのではなく、多様な集団のコラボレーションを重視する
多くのワークショップがグループワークを中心として行われているところからもわかるように、様々な性質の関係者(参加者)が協同で作品づくりに取り組む点が、ワークショップの大きな特徴といえます。
その背景には、「多様な視点の獲得」を前提とするワークショップ独自の学習観があります。他の人との協同作業を通じて、自分ひとりでは思いもよらない考え方や作品づくりのプロセスに触れることで、個人が持つ固定観念が引き剥がされていきます。そのように“学習棄却(アンラーニング)”を基本とするワークショップの学びを支えているのが、協同性のエッセンスとなります。
民主性:関係者や参加者の意見を大事にする
ワークショップには、様々な年齢・職種(役職)の方々が参加者として集まります。そうした多様性は、多角的な視点を私たちにもたらしてくれる一方で、危険な状況を招くこともあります。例えば年上で、威圧的な振る舞いをする参加者と同じグループになった時、その人の機嫌を損ねないように発言を遠慮してしまうことがあるかもしれません。また、同じ会社の中でワークショップを実施する場合、その場に集まった参加者の中に、上司と部下といった普段の業務上のヒエラルキーがワークショップに持ち込まれ、場に悪い影響を与えてしまうことも少なくありません。
豊かなコラボレーションが生まれるためには、参加者の一人ひとりの意見が存分に表出され、個人の意見が尊重される場がつくられている必要があります。そのため、一定の民主性が常に保たれるように、ファシリテーターは当座席やファシリテーションの方針について考え、時には当日その場で判断を下しながら、気を配り続ける必要があります。
実験性:試しにやってみるという姿勢。“答え”や“設計図”が存在しない
ワークショップでは「まずやってみる」や「1人1人が“答えなき問い”に向き合う」といった姿勢が非常に大切だとされています。与えられる課題も、「危険だけど居心地のいいカフェをつくってください」など、絶対解が存在しないものがほとんどです。そのため、課題を与えられたグループは、まずメンバーにとって「何が良い作品なのか?」を粘り強く話し合い、擦り合わせていく必要があります。
そして、この課題には正解がないので、当然間違いもありません。とりあえずやってみて、納得できない・うまくいかないと感じたとしても、それもまた一つの学習の機会として捉えられています。ファシリテーターから支持されたことを受動的にこなすのではなく、参加者自らが主体的に動き、たくさんの失敗から学びを得られるような活動環境になっていることが、良いワークショップの条件の一つと言えるでしょう。
4つのエッセンスを理解し、使いこなす
これら4つのエッセンスは、はっきりと境界線が引けるものではなく、お互いにゆるく関連しあっています。それでも「今回は突飛なアイデアがたくさん出てほしいから、非日常性や実験性を強くしてみよう」や「参加者同士が対立しないように、協同性・民主性を大事にしたファシリテートを心がけよう」というように、場の目的や状況に応じて、ワークショップの色合いを操作するためのひとつの基準として考えることができます。
自分が目指すワークショップはどの要素が色濃くあるべきなのかと考えてみたり、他の人の実践を見ながら、エッセンスの濃淡について考察してたりするのも面白いかもしれません。そのコントロールのトレーニングを積むことで、ワークショップデザインの幅も大きく広がっていくことでしょう。
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最新のワークショップデザイン論が体系的に学べるファシリテーターのための探求と鍛錬のコミュニティ「WORKSHOP DESIGN ACADEMIA(WDA)」では、こういったワークショップデザインやファシリテーションに関する知見を随時更新しています。興味のある方はぜひご参加ください。
参考文献
・ワークショップデザイン論-創ることで学ぶ
山内祐平 森玲奈 安斎勇樹(慶應義塾大学出版会, 2013)
・ワークショップと学び1
苅宿 俊文 高木 光太郎 佐伯 胖(東京大学出版会, 2012)
(水波 洸 / 編集者)