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ワークショップや対話で生まれるモヤモヤとどう向き合うか

こんにちは、ミミクリデザインの水波です。

最近ミミクリデザインのメンバーや「WORKSHOP DESIGN ACADEMIA」の方々と話す中で、よく出てくるトピックとして「ワークショップで感じる“モヤモヤ”を言語化することの是非」があります。つまり、ワークショップに参加した後に感じる“モヤモヤ”をその場で言語化し、学びとして落とし込むのは良い/悪いのか、また、どういう状況や目的であれば良い/悪いのか、というお話。もちろん、立場や領域によって主張の異なるところでしょうし、絶対的な解が容易に見つかるような問題ではありません。私自身はどちらかというと“モヤモヤはできる限りそのままにしておきたい”派ですが、そういう人間が書いた文章であることをご留意いただきつつ、そのテーマについてふわっと書いてみたので、ぜひ一緒に考えながらお読みいただければと思います。

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ーーなんというか、ちょっと、モヤモヤしてます。

ワークショップや対話の場の後に、参加されていた方がこのように述べている場面をよく見かけます。たしかに、多様な人と答えのない問いや活動に向き合い、様々な意見に触れるワークショップの最中にすべてを理解しきることは困難です。また、慣れた実践者であれば、そのモヤモヤが残る感覚に理解を示している場合も多く、「モヤモヤすることも重要だし、それを消化するようにゆっくりと腹落ちさせていく過程こそがなにより大切」と考えている方もいらっしゃいます。

グラフィックレコーダーとして活躍する坂間菜未乃を中心に先日行われた自主企画は、まさにそうしたモヤモヤを殺さないための工夫・場への向き合い方を模索した、意欲的な試みでした。グラフィックレコーディングによるビジュアル化は、共通認識の形成を容易にする一方で、坂間が主張するように、本来あったはずの参加者の想像力や思考の幅を奪ってしまうことも、往々にしてあるのかもしれません。

ワークショップにおける“振り返り”にも、同じことが言えるように思えます。オーソドックスな振り返りのやり方として、「今日の学びを付箋紙に書き出してみましょう」や「今日考えたことを1人ひとつずつ、発表してみましょう」などの活動が設定されているのをよく見かけます。

活動を思い返して、自分が今日何を学んだのかを言語化し、他者にわかるようにまとめ、発表することには「学びを得た、すなわち、無駄な時間を過ごしたわけではない」という認識とともに、充足感をより強く得ることができると思います。また、きちんと言語化された学びが共有されることで、他の人からさらなるアイデアをもらえるかもしれません。

しかしながら、言語化することで忘れやすくなる情報がある事実も指摘されています。例えば心理学のある実験では、与えられた視覚情報を言語化して記憶した人と、そうではない人のどちらがより鮮明に思い出せるのかを比較したところ、言語化しなかった被験者の方がより細部まで思い出せた事実が明らかにされています*1。

言葉にしやすい部分のみを抽出して記憶すると、元の視覚的記憶の細微な部分を無意識に思い出しづらくなるのだそうです(ただしこの実験はあくまで視覚情報に限った話であり、言語情報を覚える際には言語で記憶することが有効とされています)。

多様な考え方に触れられることがワークショップの魅力のひとつでありますが、自分の理解を超える考え方に触れると、どうしてもモヤモヤしてしまいます。そう考えると、参加してモヤモヤすることが、魅力的なワークショップの条件のひとつと言えるのかもしれません。また、個人的な体感として、そのようなワークショップから得られたモヤモヤが、半年後、あるいは一年後に、何かしらの経験と結びつくかたちで、「あ、あの人が言っていたのはこういうことだったのか」と、ふと気づく瞬間がやってくることはよくあるように思えますし、あくまで個人的な感覚ではありますが、そういった学びのほうが、態度や考え方に影響を与えるほど深く定着していくことが多いように感じています

ワークショップデザインにおいても、言語化をどの程度厳密に行うかによって、参加者の学びの質は大きく変化することでしょう。言語化することで何が得られるのか、少しずつ整理していくと面白そうだな、と思っています。

最新のワークショップデザイン論が体系的に学べるファシリテーターのための探求と鍛錬のコミュニティ「WORKSHOP DESIGN ACADEMIA(WDA)」では、こういったワークショップデザインやファシリテーションに関する知見を随時更新しています。興味のある方はぜひご参加ください。


*1. 参考:言語化すると忘れる脳とマルチタスクの話 『脳はなぜ都合よく記憶するのか』
http://arigatoubook.hatenablog.com/entry/2017/03/17/180000

(水波 洸 / 編集者)

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