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異領域の知見を結びつけ、新しい教育的アプローチを探求する(WDAインタビュー・小林一木さん)

ワークショップデザイン論を体系的に学び、現場で活きるファシリテーションの力を育む有料コミュニティ『WORKSHOP DESIGN ACADEMIA(WDA)』では、会員専用の様々なコンテンツやオンライングループ内で交流を通じて、ワークショップデザインや周辺領域に対する学びを日々深めています。

本企画では、WDAメンバーの方が普段の生活やお仕事のなかで、どのようにWDAと関わり、学びを得ているのか、お話を伺っていきます。第二回となる今回は、教育領域を中心に様々な学びのかたちや方法を探求し続ける、株式会社ベネッセコーポレーション ベネッセ教育総合研究所 教育研究企画室室長・小林 一木さんに、インタビューを行ないました。(聞き手:竹田琢)

プロフィール(敬称略)
小林 一木/Kazuki Kobayashi
(株式会社ベネッセコーポレーション ベネッセ教育総合研究所 教育研究企画室室長/副所長)

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福武書店(現ベネッセコーポレーション)入社以来、高等学校の教育支援に携わり、アセスメント開発責任者を経て、2018年にベネッセ教育総合研究所副所長、2019年より現職。帝京大学非常勤講師(2019年)、一般社団法人教育のための科学研究所理事(2017~)、島根県総合教育審議会委員(2018年~)、東京都教育委員会と教職大学院との連携協議会委員(2018年~)。学校現場や社会人教育の現場をフィールドに、「新しい学び」の調査、研究を担当している。研究の一環として、ワークショップの開発、学校等での実践を行っている。最近の興味は、ラーニングコミュニティの生成、創造力の育成によるイノベーション。LEGO(R)SERIOUS PLAY(R) メソッドと教材活用トレーニング修了認定ファシリテーター、2030 SDGs 公認ゲームファシリテーターなど。

ーよろしくお願いします。まずは小林さんの現在のお仕事とワークショップとのつながりについて、簡単にお伺いしてもよろしいでしょうか?

小林一木さん(以下、小林) よろしくお願いします。現在はベネッセ教育総合研究所の教育研究企画室の室長をしています。教育研究企画室では、様々な学齢で実践されている「新しい学びや学びの方法」について研究や調査をするラボで、実践者や研究者の方々のもとに足を運んで最新の手法を学んだり、その手法を自分たちで実際にやってみたり、結構自由にやらせてもらっています。2018年の4月から教育総合研究所に所属していますが、ワークショップについて本格的に学び始めたのは、主に中高生対象にしたアセスメントを企画・開発・運用するアセスメント開発部という部署の責任者をやっていた時からです。

アセスメント開発部では、高校生対象の模擬試験(以下、模試)も担当していました。模試は教科学力を偏差値として数値化するためのものですよね。教科の学習もそれを測るための指標としての偏差値も必要であると思いますが、それに加えて、これからは思考力や創造力、リーダーシップなどの能力の育成も重要になってきます。そこで、5年ほど前から、思考力を測るテストを開発し、多くの学校で実施いただいています。一般的に模試は、生徒の教科学力と志望校との距離を測るために使われています。ただ、もう一つ重要なポイントとして、先生に自分の授業をチェックしてもらうための基準を提供する役割も担っていると考えています。つまり、「生徒ができていないから生徒が悪い」ではなく、「生徒ができていない教科や分野を見つけ、先生方の授業を改善、工夫するために模試を活用してください」というのが、もともと当社の模試の機能と考えています。

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小林 だからこそ、授業の中で、思考力を伸ばすのであれば、まずは基準として新たなテストを作る必要があると考えて、開発しました。そして、可視化ができるようになったら、次のステップとして、「現時点のレベルはわかったけど、それを今後どうやって伸ばせばいいのか?」という話になりますよね。そこから、「思考力などこれからより必要とされる能力やスキルを育成するにはどういう方法があるのか、学び方を研究したほうが良いだろう」と話が進み、その一つとしてワークショップに目が留まりました。その頃から、自分でもワークショップを学んで、実践してみるようになりましたね。自分でやらないと、良し悪しの判断ができませんから。

ー確かにワークショップの場合は、やってみないとわからない部分はかなりありますよね。それから、ワークショップデザインを学ぶことを目的に、WDAにご参加いただいたのでしょうか。

小林 はい、そうです。もともと安斎先生の書籍は読んでいて、2年前にWDAをリリースされると聞いた時に、どういうものかなと思い、参加しました。

ーこれまでのWDAのコンテンツのなかで印象に残っているものは何かありますか?

小林 香取一昭さんと大川恒さんがゲストの、対話の手法に関する研究会が、すぐに職場で活用できたという点で印象的でした。OST(オープン・スペース・テクノロジー)という手法について学ぼうと思って参加して、そうしたら「自分の職場でもできそうかな」と感じたので、すぐに研究所内で組織開発の一環として実施しました。まずは(対話の一手法である)ワールド・カフェで組織のミッションとビジョンを考えて、そこから具体的なアクションをOSTで考える、と、二つの手法を組み合わせてやってみたんです。もともとそういう実践がしたいと思っていたタイミングだったのもありますが、それが実現したきっかけとして、あの研究会はありがたかったですね。動画だと、臼井隆志さんへのインタビュー動画が単純に面白かったなぁ。

▼参考:ワークショップデザインにおけるリサーチ論(WDA動画

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ーワークショップに入る前のリサーチの重要性や方法、それから日常における発達や学習を促す場のデザインについてディスカッションした動画でした。

小林 そうそう。リサーチの話が参考になりました。私の所属している研究所では、大規模調査が多くて、個々の状況や内面に迫る質的調査にはそこまで力を入れていませんでした。だけど一方で、学校と共同で行なう仕事の中には、生徒一人ひとりのデータを見ながら、この子はどうしましょうか、と、個別具体的な話をすることもあります。だから、実務にも応用しやすそうな、質的研究やエスノグラフィー的なアプローチもやってみたほうが良いのではないか、というような話をしていたところでした。そんな中であの動画がWDAで新たに投稿されて、私にとっては非常にタイムリーな一本でしたね。

ーありがとうございます。様々なフィールドに越境されている小林さんにこそお伺いしたいのですが、コンテンツに限らず、WDAの独自性だと感じる部分は何かありますか?

小林 まず、ワークショップデザインやファシリテーションを中心としながらも、アプローチしている領域の幅が広いのは良いところですよね。領域をどこかに限定しすぎていない。例えば、一つの手法を認定講座方式で伝授するコミュニティは、深めて高め合うという意味では面白いのですが、どうしてもその手法ありきの考え方になってしまいがちです。WDAでは、様々な分野のコンテンツを扱っているためか、集まっている人が多様な印象があります。

コンテンツの出し方についても、amazonのように同質性の高いものばかりがレコメンドされるのではなく、ちょっとジャンルは違うんだけど、たまたま求めていたものとフィットしそうだったり、深掘りしたら面白そうだったりする動画やイベントが、見える位置に流れてくる。そのランダムさが良いと思います。「(他の領域には)こういうのもあるんだ」と思えるような、異なるジャンルにリーチしやすいと感じます。あとは、一見「あまり関心がないな」と思うような動画でも、視聴してみると、案外自分の関心のある何かとふと結びついて、新たなアイデアにつながることもあります。そこから、動画内で紹介される書籍を手にとって、これまで関心の薄かった領域にも理解を深めながら、「これは面白いな」とか、「使えるな」とか...。もちろん「ちょっと違うな」となることもありますが(笑)

ー自分が持っている情報と、流れてくるコンテンツとの関連を結びつける姿勢や能力が、小林さんの学習スタイルの核としてあるような気がします。

小林 こじつけが上手なのかもしれません(笑)...というか、知らないことって、知ったらそれだけで学びになるし、面白いじゃないですか。あるテーマについて一生懸命実践していたり、研究していたりする人は、何かが面白いからやっているわけですよね。だから、そのポイントにフックをかけられさえすれば、私も面白いと思えるし、使えるはずなんですよ、きっと。そういう思いは最近強く感じていますね。それから、もう一つWDAの良いところとして、理論面に強いところはやはり良いと思います。個人的に、理論をしっかり学んで腹落ちしたいという欲求が強いこともありますが。

ー業務の中で試みている実践を裏付ける理論を学んでいきたい、ということでしょうか。

小林 そうです。自分でワークショップを作ったり、やってみたりするようになって、実際にやってみないとわからない部分...例えば「ファシリテーターとしてのあり方」のようなものを体得することは少しずつできてきたような気がします。ただ、あり方の重要性もよくわかるのですが、あり方という抽象的な言葉で誤魔化すのも良くないと感じていて、「あり方とは結局何なのか」を科学的に実証したいんですよね。教育という観点からすると、やはり誰でもファシリテーションができるようになることがとても重要で、そのために何ができるのか、探り続けていきたいと思っています。

教育においても、最近特に個別化が強く主張されていますよね。でも、それを言い出したら、極端な話、「全部個別化でいいなら『学校』という人が集う場で学ぶ意味ってなんだっけ?」となるんですよね。一律でできないなら、人が集団で学ぶ必要性もなくなってしまうかもしれません。でも、実際はそうでもないだろう、と。そうした想いから、最近は学習環境デザインに改めて関心が向いています。「人のあり方ではなく、場のデザインだったら、誰でも取り組みやすいのではないか」と。細かいことですが、先日もそう思っていたところに、(毎週配信される)メールマガジンのファシリテーションのヒントが届いて、その中で、「お菓子はこういうものがいい」とか、「音楽はかけておいたほうがいい」とか書いてあるわけですね。それを読んで、「お菓子、要るなあ...」とか思って、お菓子を置いてみたこともありました(笑)

▼参考:「食べやすいお菓子を用意する」(メールマガジン・ファシリテーションのヒント

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 ー仕事以外でワークショップのノウハウが活かされたと思う場面は何かありますか?

小林 教育系に従事していることもあって、高校生から個人的な進路相談をよく受けるんですよね。その時の対話の方法として、LEGOを使うと効果的な場合があるんです。最初は、もともと大学に進学するつもりがなかった高校生が、急に大学に行きたいと言い出したことがきっかけでした。その高校生はそれほど学力があるわけではなくて、また、この子に限らず、偏差値的には低い高校に通っている子に共通した特徴でもあるのですが、志望調査書に自分の長所と短所の両方を書く欄がある中で、弱みだけを書いて持ってくるんですよ。名前と住所と弱みしか書いてこない。志望理由も、「大学に行きたいから」としか書いていない。そんな場面で、「なんで大学に行きたいの?」とか、「自分の強みってなんだと思う?」とか、直接聞いて、それでさっと出てくるなら苦労しないですよね。そこで、LEGOを使って作ってもらう。「将来何やりたいの?」と聞いて、「何でも良いから作ってみて」と促して、できたものに対して質問をしていくんです。そうすると、そのうち「これやりたいかも」というのが出てきます。まずは志望理由をそうやって作りました。

ーまずは作品に自身の価値観を表出させて、客観的な視点で捉え直して気づきを得るというのは、ワークショップのリフレクションにおける学び方とよく似ていますね。強みについても同じように促していくのでしょうか?

小林 弱みしか書けない場合は、その子の恋人か、友達を呼ぶと良いんですね(笑)その子の「好きなところ」とか「よいところ」を話してもらうんです。嫌いなのに付き合ってないから、具体的なエピソードを交えながら、めちゃくちゃたくさん挙げてくれます。例えば、学校に行くときに、おばあさんがゴミを捨てしているところを見かけた。大変そうだったので手伝ったというんですよね。自転車を降りて。すごいのはそこからで、次の週から毎週、わざわざおばあさんの家にまで行って、ゴミを捨てに行ってあげてたんですよ。

ー優しい。

小林 でしょ? だけど、本人はそれを「普通のことだから...」って言うんですよ。だから、自分や連れてきてもらった恋人・友達が、「普通それできないから!普通じゃないから!すごいから!」と言い倒して(笑)今回は一番わかりやすい例を挙げましたが、こういうのがポロポロと出てくるんです。本当は良いところがたくさんあるはずなのに、蓋を閉じているというか、自分はダメだって思い込んでるから、見ようとしないんですよね。だから、まずは良いところも強みもいっぱいあることに気づいてもらう。

ーめちゃくちゃ面白いですね。他者の協力を得ながら、本人の「自分はダメなやつだ」という暗黙の前提にメスを入れて、新しい視点を取り入れていくというのは、まさしくワークショップ的だと思います。

小林 志望校選びも、消去法でやるよりも、強みを見つけて、その強みを活かせる学校を選んだ方がいいんではないかと思っています。そうすると未来が明るくなるので。

ーそうですね。本当に。最後の質問となりましたが、今後WDAに期待していることを教えてください。

小林 変わらず、特定の領域に絞ることなく、多様なコンテンツがあるから多様な人が集まるコミュニティを維持してほしいと思います。他にはなかなかない特色なので...。カオスといえばカオスなんですけど、そこが良いところなんじゃないかなと思います。

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あとは、私の場合は自分の関心あるテーマに集中する傾向がありますが、ある程度になると飽きがきてつまらなくなってしまい、他のテーマにいきたくなります。WDAはそういう人に適しているかもしれませんね。例えば、今まではロジックでがっちりワークショップを作っていた人が、アート系の実践に触れて「こんなパターンもあるんだ」と気づくこともあると思います。仕事に活かせるような知識をインプットしようと思ったら、まずは自分の関心のあるものしか見ないのが当然だと思います。だけどそこに、違った観点が自然なタイミングですっと入ってくるのは、面白いポイントだと思います。

ーありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします!

小林 ありがとうございました!

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今回小林さんからお話を伺いながら、小林さんが長年教育領域に関わってきたがゆえのこだわりや価値観に触れられた場面が多かったことが印象的でした。自分の領域に対してしっかりと根を張り、深く理解しているからこそ、WDAで一見馴染みのない領域の手法や考え方に触れた時も、類似点と相違点をはっきりと区別して、自らの実践に取り入れることができるのではないでしょうか。

今後も、ワークショップという営みがそうであるように、人や領域の間にある差異に着目し、気づきや学びにつなげていけるようなコミュニティであり続けたいと、改めて思いました。

ワークショップデザイン論を体系的に学び現場で活きるファシリテーションの力を育む会員制コミュニティ「WORKSHOP DESIGN ACADEMIA(WDA)」では現在新規会員を募集しています。興味のある方は下記ウェブページより詳細・申し込み要項をご確認ください。

▼過去のWDAインタビュー記事はこちら


インタビュアー・写真:竹田琢
執筆:水波洸

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