公開講座「対話型ワークショップ研究会 -ワールド・カフェの意外な落とし穴とは?-」【イベントレポート】
対話型ワークショップ研究会 とは?
2017年11月28日、「対話型ワークショップ研究会 -ワールド・カフェの意外な落とし穴とは?-」を開催しました。「対話型ワークショップ研究会」では、その名前の通り、対話を使ったワークショップについての背景知識やノウハウを共有・探求していくことを目的としています。
初回である今回の題材は「ワールド・カフェ」。基本的な理念から実践に役立つ具体的な知見まで幅広く扱いながら、ワールド・カフェの本質へと迫っていきます。
ファシリテーターはミミクリデザインの和泉裕之が務めました。これまで和泉は「ケア」や「看護」といった人同士の繊細なコミュニケーションが求められる領域で数多くの対話の場を開き、活躍してきました。今回の研究では、まずはそれらの経験から得られた和泉の知見を手がかりとしながら進行していきました。
ワールド・カフェは、1995年のアメリカで、アニータ・ブラウンとデイビッド・アイザックによって生み出されました。「どうすればゲストがリラックスしてオープンに生成的な話し合いを行えるのか?」という問題を抱えていたふたりが試行錯誤を繰り返し、その原型をつくりあげたことが発端とされています。
ワールド・カフェは基本的に、安全に対話を行うための7つのエチケット(ルール)を守り、多くの人と意見交換できるように席替えを行いながら、あらかじめ決められた問いやテーマに沿って対話を行うという進め方のもと行われます。このようなシンプルな構成や、道具もほとんど必要ないことから、ワールド・カフェは初心者でも実施しやすい手法とされています。
しかしながら、シンプルであるがゆえに改変しやすいため自己流にアレンジされることが多く、その結果本質からややズレた実践になってしまうことも多いのだそうです。そこで今回はついつい嵌まってしまいがちなワールド・カフェの落とし穴をあぶり出し、ワールド・カフェの基本や本質を再確認しながら、よくある失敗の原因やその対処法について議論することを目的としていました。
ワールド・カフェの落とし穴
まずは和泉による過去の事例や知見をもとにした話題提供があり、それらをもとにして参加者から「ワールド・カフェに関して話し合いたいと思う問い」が募られました。そのあとホワイトボード上に集められたそれらの問いを安斎が分類し、大きな7つの問いへとまとめ直していきました。
続いて、この7つの中から「自分が考えたい問い」をひとつ選んでもらい、選んだ問いごとにグループに分かれて対話をしてもらいました。ただでさえ“対話”というマニアックな領域を扱う人たちが集まっていたなか、そこからさらに細かく関心ごとに分けられたことで、さらに濃厚な場が醸成されていました。
その後、それぞれのテーブルでどんな話が出たのか、共有してもらいました。
Q.テーブルホストの共有の技術について
「前のラウンドで話されていたことがホストの解釈によって捻じ曲げられて、次のラウンドの人に正確に伝えられていないという問題があるんですよね。なので、『テーブルホストに向いてる人・向いてない人がいるのか?』や『適正があるのか、それはトレーニングで身につけられるのか?』などについて話しました。また、出た意見をいかにフラットな視点を持てるかというのが大事だという意見も出ていました。自分の考えの癖などを意識することが重要なのかもしれないですね」
Q.ワールド・カフェにおける対話の深さとは?
「問題点として、その場が承認だけになってしまっていて深く掘り下げたやりとりがされてないことがあると感じていて。まずはお互いの内面を深くまで掘り下げたやりとりをするのだということについて、同意や意識づけがされることが重要だろう、と。
また、ただ多様な価値観があることを確認し合うだけで終わらず、その先の本質的な価値観にまで触れていかないといけない。そしてその本質的な価値観は、多くが非言語なものなのではないかとか感じました。それらに対してゆっくり言語化し考えを深めていくことが対話の深さと言えるのではないかと話し合いました」
Q.ワールド・カフェにおける良いファシリテーターとは?
「ファシリテーターが集合知を信じていることが(良いファシリテーターの)要因としては挙げられるではないか、という意見が出ました。あとは、ワークショップのアーキテクチャ(構造)そのものを信じていること。場に影響を与えるような存在感であること、そしてそのためには身体的な動き、背景知識が充分に発揮されていることが重要なのではないか、と、話しました」
他の問いについても、多くの知見が対話の中で生まれ、発表を通して共有されていました。
おわりに
これらの発表を受けて、最後に安斎からまとめの言葉が話されました。
「今回改めて、作法の一つひとつにきちんと意味があるんだということを実感しました。提唱者であるアニータ・ブラウンとデイビッド・アイザックがそれぞれの作法に込めた意図を理解した上で、テーブルに模造紙を引いたりテーブルシャッフルをしたりすることが大事なのでしょう。
たとえば、まだ他の人たちの話の内容を聞きたいと思っていない状態では、席替えをする必然性もありません。『ワールド・カフェだから』という理由で席替えをするのではなく、なんのためにその作法があるのか理解して、『なぜそのような振る舞いをするのか』という哲学と手法が実践者の中でがっちり噛み合っていなくてはいけない。そうしたワールド・カフェにおける哲学と作法について今回改めてじっくり話を聞けてよかったと思います」
こうして、「対話型ワークショップ研究会」の記念すべき初回は幕を閉じました。イベント後にわかったことなのですが、グループのなかにはこれからワールド・カフェについて情報交換するため連絡先を交換し合ったところもあったそうです。こうした繋がり方ができるのも今回のようなディープな研究会だからこそ、なのでしょう。
また、今回はファシリテーターである和泉の進行を場全体が温かく見守るようなやわらかな雰囲気となっていたことが印象的でした。答えの出ないテーマに対して、人の矛盾や葛藤と向き合うことの多い「対話」という領域に関わる人たちだからこそ、このような受容に満ちた空間が生まれたのかもしれません。「対話型ワークショップ研究会」は今後も続いていきます。とても深い場となった今回でしたが、語り尽くせたとは到底言えません。次回以降はさらにパワーアップしてお届けできればと思っていますので、もし興味を持っていただけたなら、ぜひご参加ください。
おまけ:使われた模造紙(一部)
Q.「対話型だからこそできるテーマとは?使い所は?」
「体験」や「多様性」といった言葉が共通したキーワードとなっていたことがわかります。
このように模造紙を一読することで簡単に当時の振り返りができることもワールド・カフェの良さのひとつでもあります。
Q.「対話のためのチームビルディング、アイスブレイクは?」
話し合いの土台を作るために「自分の体験や考え方を話すためにはどのような場をどうやって作るか」という点について重点的に話されていたようです。
Q.「ワールド・カフェ後にどんなアフターフォローがあるか」
内容もさることながら、模造紙の使い方もグループごとに個性が出ています。
こちらのグループではアフターフォローの手段ごとに分類がされていました。
執筆・写真/ 水波 洸