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短編小説0041 違和感の正体は心のカケラが漂っているから 2076文字4分読

今日の飲み会はいつもより16:30からと早い。
約束の時間5分前に店に到着し店内を見渡す。
中国料理の人気店なので16:30はピークの時間ではないのに、ほぼ満席だ。

一通り全席を見渡すが知った顔がいない。
あれおかしいなと、フラフラしていると中国人店員が声をかけてきた。

「何名様デスカ」

「山本さんという名で予約4人で入っていると思うのですが・・・」

山本さんとは今日の幹事だ。

「エーット、18:30からデスね」

「あれ・・・アハハ、時間間違えたのか?」

「ソミタイデスネ」

店員さんにも笑われた。

店を出てLINEを確認するとやはり16:30とあった。

「あー山本さん、時間間違えて俺に伝えているなこりゃ。一応確認しとくか」

山本さんからのLINEでは確かに『16:30から』とある。亮太はあたりさわりのないよう『今日は18:30からでよかったですよね?』と山本さんに送った。

今回の飲み会の時間を伝えたメッセージの次の次のメッセージだから、間違っていたことを自分で気づくと思った。

すぐに返事が来た。

『そうです!18:30です!よろしくお願いします』

あー完璧に間違えて伝えたことに気づいてない、と文面から読み取れる。亮太はまあしょうがないかとあえて触れずに、あと二時間を近くの本屋に行ったり、喫茶店に行ったりと時間をつぶした

そしていざ飲み会が始まったが、山本さんに会っても何にも言われなかった。

やっぱり気づいていない。

亮太はそんなことどうでもいいと思うことにした。
この場を楽しめれば、連絡内容を間違って伝えたこと、そして亮太が2時間無駄にしてしまったこと、それは大したことではないと軽く流すことにした。

現に、飲み会は盛り上がり、楽しい時間を過ごせている。それでいいではないか。

山本さんはエンジニアで世界各国で仕事をするスペシャリストだ。仕事の話を聞かせてくれたり話題豊富でとても興味深い。

ただ気がかりがある。
ほんのちょっとの。
それは、山本さんが亮太に対して送ったLINEの内容を、ただ読み返せば集合時間なんか確認できるのに、あえてもう一度LINEを送り、ワザワザ確認するなんて、頭が悪いんじゃないか?馬鹿か?と思われているのではないかという懸念が沸き上がった。

いやいや、例えそうであっても大したことではない。

きっとただの気のせい、石ころにちょっとつまずいた程度の出来事。すぐ忘れる。

「時間を間違えてましたよ」と軽くサラッと言えればそれはそれで後腐れないことかもしれない。でも敢えてそんなこと言う必要もない。山本さんに恥をあえてかかせる事なんか必要ない。

だから亮太が呑み込めば済む話だ。
そんなめんどくさいことしなくていい。子どもじゃないんだから。

でも・・・もしかしたら、山本さんは、この件に関して小さい違和感を覚えたかもしれない。

「変な質問してきたな」・・・と。

何も感じていないのかも知れない。

この感覚・・・ふと、覚えがある気がする。


得体の知れない違和感を感じるとき。

今日のような小さな心のささくれのようなものが生じた時、それを抱く人がそばにいる時に違和感が漂うのではないだろうか。

あるような気がする。

自分にとって、その例を具体的に思い出して説明しろと言われてもできない。

こういった違和感を覚える時ってもしかしたら、誰かの小さな心のかけらが空間に飛び回っているのかもしれない。

いつの間にかシャボン玉のように消える時もあれば、大きく気球のように膨らむときもあるような気がする。

それはきっとその人たちとの関係において、許せるとか流せるとか、まあいいやとか、そう思えることがある程度できるのであればいずれ消える。もしくは互いを尊敬するとか一目を置ける、認めている関係であれば大したことではない。

そんな風に思える。

更に言うとその人達との関係は、お互いに限りなく、その人達の一部分の交流であって、内部深くまで知り知られることはなかなかない。というよりそんなことを求めていない。
お互いに。

だからその人の生まれてから、この中華料理屋での飲み会まで培ってきた歴史があっての今日である。
背景が、土台が、ドラマがあっての凝縮された舞台がこの中華料理屋なのだ。

だからこの小さいことが気になって、解消しなければならないように思えてしまう人生を送ってきた人にとっては、きっと消化してからでないと今後のお付き合いを続けられないのだろう。

そうでないなら、そうでない人生を送ってきたのだろう。

それは大切な事なのかもしれない。



もう決まっているのだなと感じる。

出会いの瞬間にどうなるか、この人とのお付き合いがどうなるのか、たかだか飲み会であるが、これまでの人生が、『バチーン』と我々には聞こえない音を立てて、関係を決めているように思える。

だけどまた変わっていくとしたら、自分が変化しているのなら、あるいは小さな心のかけらが気になるようになるかもしれないし、更に気にならない方向に変化するのかもしれない。

人は変わる。
自分も他人も。

から面白いのだな。

心のかけらがふわふわとどこかに漂い、そして消えたなと思った。



おしまい

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