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短編小説0040 全人類お母さんの代弁的な 770文字1分半読

洗濯物の山の中から、あやが私のハンカチを見つけてニッコリしている。

「あやちゃん、このハンカチ好きなの?」
「うん」
「どこが好きなの?」
「ここのお花」
「そうなの。じゃあ、あやちゃんにあげる」
「うふふ。ありがと」

洗濯ハンガーから降ろしたばかりの、しわくちゃのハンカチをあやは小さな手で広げて、ニコニコ眺めている。
あやは、この刺繍された黄色い花のワンポイントが気に入っていると言う。

もう十年以上も使っている古いハンカチで、私にとっては特別な思い出も無く、大して高価でもなく、毎日のハンカチローテーションの準レギュラー的な位置で何となく使っていただけだった。

ニコニコ眺めて満足してから、小さな手で一生懸命、丁寧に折りたたんだ。
やや斜めに折り、角が揃っておらず、お世辞にもきれいに折りたためてはいないけど、愛おしく、大事にたたんでお気に入りのポシェットの中に入れていた。

「嬉しいの?あやちゃん?」
「うん。うれしい。ママのハンカチもらっちゃった」
「うふふ」

今度は私が笑う。

「それじゃあ、そのハンカチ持って、お弁当作ってピクニック行こうか!」
「うん!いく!」

毎日がこんな感じ。
究極に平凡で、最高に幸せ。
派手さなんか全く無く、誰に知られることもない。

私とあやの日常。

この幸せを分かってくれるかい?

さすがに毎日ピクニックには行かないけど、家にいるとしてもピクニックに行っているのと同じ幸せは、得ることが簡単にできてしまう。

昨日は保育園に行く朝の出がけに、あやが一瞬行方不明になった。
何のことは無い、家の目の前の公園の水場で歯ブラシをしていた!

「あやちゃん、こんなとこにいたの~」

私がニコニコして近寄ると、

「うん」

あやもニコニコして口の周りを泡だらけにして答える。

こんな予想不可能な幸せ!
「どうですか!」
って誰に言っているのだろうか。

ってくらい幸せ。
独り言幸せ。

全人類に分けてあげたい。



おしまい


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