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短編小説0003あやしい手紙 7779文字 10分読

あやしい手紙

youtube 朗読
https://youtu.be/N-Rweqxi0ww

トントントントン。
リズムよく、誰かが階段を上ってくる。
あやの部屋の前で止まって、ポストにコトンと音をさせて過ぎ去る。すぐにバイクの音が遠ざかる。
郵便配達員だ。
郵便物なんて、珍しい。
今時、メールやLINEとかで連絡は済ませるし、いろんなお店からの宣伝は紙よりもデジタルが主流だ。
うちは新聞も取っていないからポストに何かが入っている事は殆どない。
ポストを開けると一通の茶封筒が見えた。
「誰からだろう。あれ?」

吉田あや様方 山本亮太様

受取人は亮太だ。差出人は・・・何も書いてない」
亮太は恋人であやと同じ大学に通う同級生だ。もうう一年近く同棲生活をしている。
今日は亮太だけ朝早くからバイトで出かけており、あやは一人で留守番だ。
「亮太、あいつめ、郵便物の受け取り先をうちにしている・・・。なんてやつだ。でも差出人が書いてない。なんか怪しいなあ。勝手に開けちゃおうかな。フフ、いくら何でもまずいか」
亮太が帰ってきても分かるようにテーブルのどまんなかに封筒を置いた。あやはこれからちょうど大学の講義を受けに出かけるところだった。

午後七時、帰宅したあやは、玄関ドアのノブをひねるが鍵かかっている。
「亮太やっぱりまだ帰ってないんだ」
鍵を開け部屋に入る。
部屋着に着替え、テレビのリモコンを取ろうとテーブルを見ると、封筒がなかった。
「あれ封筒がない。確かにここに置いたはずだけど。亮太が持ってったのかな?でも亮太は今日一日中バイトで夜8時過ぎに帰るって言ってたのに・・・」
あやは気のせいかなと思いつつ、夕食の準備に取り掛かった。今日はカレーにしようかな。
お母さんが送ってくれた野菜があったからそれを使おう。

「ただいま」
「おかえり、ちょうどよかった。カレーができたよ」
「おーいいねえ、腹減ったよー」

二人は向かい合わせに座り、カレーライスを食ベ始めた。
「ねえねえ亮太さあ、一回家に戻ってきた?」
「え?戻ってないよ?俺バイトだって言ってたじゃん」
「そうなんだけどさ、亮太宛に手紙が届いたからテーブルに置いたの。でも学校から帰ったら封筒が無いんだよね」

亮太は黙っている。

「確かにテーブルに置いたと思ったんだけど気のせいかな?ちょうど学校に行くタイミングだったから記憶が曖昧かも。亮太なにか心当たりある?」
「・・・その封筒、誰からのだった?」
「送り主は何も書いてなかったよ」
「まさか、封は開けてないよね?」
「え?開けてないよ。ハハハ、まさかいくら亮太宛の手紙だって勝手に開けないよ。親しき中にも礼儀ありでしょ」
「そうか・・・よかった・・・」
「え、なに?よかったって言った?」
「いや、何も言ってないよ」
確かに、すごく小さな声だったが、亮太は最後に
「よかった」と言ったように聞こえた。

あやは不思議に思った。
よかった?封を開けないでよかったってこと?中身はワタシに見られたらまずいことでも書いてあるのかな?

その晩、怖い夢を見た。

見知らぬ男が、いきなり部屋に押しかけてきてきつく口を押えられ、
「手紙はどこだ?隠してある場所を指させ。おとなしくしていれば手荒な真似はしない」
何が何だかわからなくて、口を押えられたまま、恐る恐るテーブルの上を指さした。
その瞬間目の前が真っ暗になった。
「ワッ!」
あやは大きな声でとび起きた。

「うお!どうしたんだよ!」
亮太も驚いて起きてしまった。

「あー、夢かあ。もう、怖い夢みちゃったよ・・・。手紙を奪いに男が部屋に入ってきたのよ。あー気味悪い。あー汗かいてるよ。ああ夢でよかった」
「大丈夫か?」
亮太は冷蔵庫の麦茶を持ってきてくれた。
「ありがとう」
亮太は優しい。本当にあやの事を大事に思っている。
あやは、ごくりと一口麦茶を飲んだ。
「はあ、落ち着いた。汗かいたから着替えるよ」
「うん、そうしたらいい」
亮太はあやからコップを取り、流しに置いて布団に戻った。

あやは着替えながら落ち着きを取り戻していた。
「何か、やけに生々しい夢だったなあ」
既に寝息が聞こえてきた亮太を見ながら思った。

翌朝、亮太とあやは同じ講義を取っているので、仲良く二人で登校した。二限目以降は別行動だ。
夕方あやが一人で帰宅すると、鍵が開いている。
亮太もあやも良く家の鍵を閉め忘れたまま出かける事があるので、ああまたやってしまったかなと思った。
靴を脱ぎ、部屋に入る。いつものように部屋着に着替え、ふとテーブルを見ると茶封筒がある。
「あ、あった。でもなんで?」
あやは茶封筒を手に取った。昨日見たものと同じだ。
表にここの住所と亮太の名前、裏は差出人の名前はない。
「なんで?亮太が見つけて置いたのかな?
でもそれなら封が開いてるはず。これは閉じられたまま。昨日のままだ。なぜ今ここにあるの?あれ、切手が貼ってない!これは昨日のものとは違う封筒? はっ! まさか、誰かが入ってきた?」
あやは急に背筋が冷たくなった。怖くなって身がすくんだ。封筒を手にもったまま恐る恐る足音を立てないよう出口に向かった。

何も起こらず、普通に外に出られた。
夕暮れの時間帯だがまだ十分明るいことがいくらかあやの気持ちを落ち着かせた。
ひとまず急いで階段を降りた。財布も携帯も何ももってないけど、とりあえず大学に行こう。亮太はまだ講義受けているところだ。大学まで歩いて五分。あやは家の鍵を閉めていない事を思い出したが、もう一人で戻ることは怖くてできなかった。

亮太を見つけた。
授業中だったので、静かに亮太の席の隣に座った。
「なになに?どうしたの?」
「家の鍵が開いてたのよ。それから封筒があったの!おかしくない。なんか気味悪くて家を飛び出してきたの!」
亮太の顔が一気に変わった。
ぞっとした。目の奥に冷たいものが見えた気がしたからだ。こんな亮太の顔を見たことがない。
亮太は無言で立ち上がり教室を出て行った。
あやは急いで亮太を追いかけた。
「亮太!ちょっと待ってよ、家に戻るの?」
「そうだ!」
「急いで戻ってどうするのよ!」
「封筒を取り戻す!」
「え、封筒はワタシが持ってるよ!」
亮太は足を止めた。息が二人とも上がっている。
速足であやの方に向かい、手の平を上にあやの方へ向ける。
「封筒をもらう」
「それはもちろんだけど、何なの?なんか怖いよ。どういう事?」
「気のせいだよ。何でもない。大丈夫だ。何も怖い事はない」
「そんなこと言ったって、わけわかんないよ」
亮太は静かにあやの手から封筒を取った。
そして二人でアパートへ帰った。亮太が入念に部屋の隅々まで調べて安全であると確認できた。
亮太は笑って、もう大丈夫だよ、お前が心配性だからほら、誰もいませんとわざとらしくおちゃらけた。
あやはわけわからなかった。一大学生のどこにでもいるような二十歳(はたち)の小娘の部屋をなぜここまで安全かどうか警戒するのか?亮太は最後はふざけていたけど、部屋に入った瞬間はいつもの優しい亮太の顔ではなかった。
亮太は何者なのか?何か危ない事をして狙われているのか?

「ねえ、警察に連絡した方がいいんじゃない?」
「封筒がなくなったり、見つかったりしましました。おかしいです、ってか?」
「そんなんじゃなくてさ・・・」
「気のせいだよ、警察なんか呼んだら逆に冷やかしだと思われて、怒られちゃうよ。あやは考えすぎだなあ」
亮太は手紙の内容を確認するとすぐに、手紙を燃やしてしまった。
「あっ!」
思わず声を上げたがそれ以上言葉が出なかった。

亮太とは一年近くも同棲しているのにキスもしたことがない。キスがないという事はそれ以上もないという事。手ぐらいは繋ぐ。ハグもするけど少しだけ。
そんな関係ってある?
でもすごく優しい。愛情をものすごく感じる。大事にしてくれている。それは本物だと信じている。

だけど今日の亮太は変だった。もちろん私を大事にするとか守る事には変わりなかったが、何かこう、うまく言えないけど、恋人を守るという類のものとは違う、自分の命以上に価値のあるものに対することのように感じた。例えば、親が子どもを命がけで守るような、そんな感じ・・・。
それは、ほんの少しの違いで、言葉にするのは難しくて、直感的な感覚でしかないんだけど、でも愛されている事は確信があるけど、ほんの一ミリの一万分の一くらいの違和感があった。

あやの違和感は正しかった。

亮太は未来から来た。

亮太はあやの孫。
あやは、あやが二十歳の冬に大変な事故に巻き込まれる。その時のために、あやを守るためにタイムスリップしてきた。

亮太のいる未来ではタイムスリップ技術が完成していた。
民間会社がタイムスリップビジネスを開始した時、その利用料が非常に高額で世界有数の金持ちしか利用できないと話題になった。
技術の進歩は目覚ましく、高価である事は変わらないが、一般庶民にも何とか頑張れば利用できるほどの料金となった。
人々ははるか太古の恐竜時代を空の上から眺めたり、あるいは古代の大戦争をはるか上空から観戦したりと、知識でしか知らない歴史の瞬間をその目で見て楽しんでいた。
それはそれは刺激的なエンターテイメントだった。
ある時、そのサービスを利用していた客が、過去に本来起こらなかった事を生じさせてしまう大失態を犯した。それは未来への重大な変化を生じさせてしまうことになり、大変な問題になった。
過去が変えられたから未来が変わったのだ。
多くの人がその失態の瞬間に消え、あるいはまったく見知らぬ人が現れたり、風景や、ちょっとした物、など変化があった。日本の首相もいつの間にか違う人になっていたりした。
世界は動揺した。
世界各国の政府がこの事を調査し、過去の書き換えによる現在への影響の一覧を事細かに、それは膨大な量の情報が次々と発表された。
例えば起こるはずの無かった事故や、事件。それに伴いケガを負ったり亡くなった人の一覧。
その中に亮太の祖母の名前もあった。あるショッピングモールでの大火災で死亡したリストに掲載されていたのだ。
ばあちゃんが二十歳の時だとあった。

でもそれは変だ。

それならば、ばあちゃんは消えているはずだった。
でもばあちゃんは目の前にいる、なぜだ?
ばあちゃんが死んでるはずなら俺も生まれてないから消えているはずだ。何かの間違いじゃないか?
このリストは絶対だ。でも間違っている。なぜだ?

亮太は考えた。

それは、もしかしたら誰かが過去に行ってばあちゃんを助けたんじゃないか?だから現に今ここにいる。

「俺が助けたんだ」

亮太は確信した。
自分が過去に行ってばあちゃんを助けたのだと。

個人的な目的で過去に渡る事は簡単なことではなかった。
タイムトラベルはすべて政府の許可制で、厳重な取り決めが国際的に決められていた。
しかし密入国ブローカーならぬ、密タイムスリップ・ブローカーなるものが存在し、法外な値段を請求されるが、個人で過去と何かしらのやり取りをするのはこの怪しいアングラ業者を利用するしかなかった。
人間を送る事だけでなく、物質を送ることもサービスの一つとしていた。
しかし人間のような大きな物体移動は危険で非常に高額だ。だから頻繁にはできない。しかもこのブローカーを利用した場合、人間の移動は精度がおおざっぱだ。狙ったピンポイントの場所、年時には誤差が逆に生じる。
逆に、手紙のような小さなものなら、かなり安上がりになるし時間設定や場所とかの精度は高い。

いよいよ過去に渡る事ができたのはいいが、ショッピングモールの大火災の日の一年も前に飛ばされてしまったのだ。ある程度の誤差は覚悟していたが、大想定外だ。
亮太は困った。
一年もずっとばあちゃんを見張っているにはどうしたらいいのか。
どうやって生きていけばいい。
そうか、恋人になればいいのか。表面上は・・・。
そうすればばあちゃんにも、他人から見ても怪しまれない。ばあちゃんと同じ大学に通う学生とウソをつけばいい。
それに一緒に生活すれば生活費も節約できるし、ボディーガードもかねて一石二鳥だ。

ばあちゃんには上手く近づくことができ、アルバイトの仕事も得られ、生活とボディーガード役は何とか成立することができた。

茶封筒の手紙は何か?

亮太にもよくわからなかったが、状況からみて未来の自分自身から過去の自分自身に対して送られた手紙だと結論付けた。
亮太が過去に渡りあやと接触したことで、未来に若干の変化が起こる。
ショッピングモールの大火災の日がズレたのだ。
時間を飛び越えて通信可能な機器はあるが、国家レベルの特別な許可が無ければ持ち出すことができない。ましてや過去を変えようとする一個人の都合などとても受け入れてもらえない。
唯一の連絡手段として有効なのはゴリゴリのアナログである手紙だ。

未来から送られてくるという事は、未来の自分が存在しているという事だから、ミッションは成功したという事だ。だからあとは過去に渡った亮太がやり切るだけだ。
時間の前後の関係とつじつまをどう合わせたらいいか、あまり考えすぎると頭が混乱し、何をしていいかわからなくなる。だから最大の目的はばあちゃんを事故に巻き込ませない、これだけを達成すればいいとシンプルに考えることにしている。

未来から過去に送る手紙は、送り先の年代に流通していた切手を骨董屋で手に入れ、封筒に貼り、宛名を書いけばいい。あとは密ブローカーによって郵便局の仕分け場所にそっと送り忍ばせて置けば、自動的に郵便配達員が配達してくれる。

しかし、過去に渡った亮太には手紙自体が届くという考えがなかった。誰の手も借りずに一人で過去に飛んだから、未来の誰かから自分に対しての支援は全く無いものとしていた。
そこに自分宛てに手紙が届いたことで、一瞬は警戒したが、確信はないにしろ、何となく状況を理解したのだ。未来の自分の行動を知りようもないから当然だ。

あやは夢を見たと言っていた。
男が部屋に入ってきて何か探していたって。
恐らくそれは現実だ。封筒が届いた日、大学から帰宅したあやが夢で見た通りの体験をしたのだ。男は封筒を狙った。
男は、違法な時間移動を取り締るタイムポリスで、色んな時代をしょっちゅう行き来している。男は目的を果たすとあやの記憶を絶妙な具合に消した。
だが、この記憶消去は副作用があり、夢や、あるいはあやふやな記憶としてよみがえる事がある。時に精神的に大きなショックとなる場合がある。

あやが手紙の事を話した時、一瞬まずい事が起きていると想像したが、それでもあやが無事であったことに安堵し、思わず「よかった」と口にしたのだ。

亮太は、もう限界だなと思っている。
これ以上ばあちゃんに負担をかけると危険だ。
要はショッピングモールの大火災の日にだけ、ばあちゃんがそこに行かなければいい。さっさと事実を伝えて未来に帰ればそれで事足りるが、ばあちゃんは信じてくれるか確信がない。だからその瞬間まで見届けないといけない。何が起こるかわからない。時間が欲しいが、早く去らなければ・・・。

ばあちゃんを守り切ったら未来に戻る。ちゃんと帰れるのだろうか。
いや最悪、帰れなくてもいいや。
けっこうこの時代は居心地がいい。
不便なことだらけだけど、それが逆に落ち着く。なぜかわからないけど。

アナログで、俺のいる時代とは大違いでとても不便だけど、人と人の心が直接触れる、面倒で素敵な世界だと思った。

いよいよその日になった。
ショッピングモールの大火災は残念ながら起こってしまった。でもばあちゃんは無事だ。なんてことはない、その日に別の場所にいればいいだけだからだ。
学校は休みだったのでデートに誘った。
ただそれだけでよかった。
アパートへ戻り、二人で眠りについた。
翌日はあやが先に一人で大学に出かけた。
亮太はあやに手紙を書いた。
そして未来へ帰る準備をした。

拝啓 吉田あや様
突然アパートを出て行ってしまいごめんなさい。実は俺は未来から来ました。
こんな事言っても信じられないと思う。
そしてもっと驚かせてしまうけど、俺はあやの孫なんです。
だから、恋人の関係を続けてしまい本当にごめんなさい。
でも、詳しくは言えないけど、あやばあちゃんが事故に巻き込まれるのを防ぐためにこの時代にやってきました。
でももう大丈夫です。
全てがうまくいきましたので安心してください。
あやばあちゃんにお願いですが、このことは誰にも話さないでください。何だかわけがわからないし不安だと思うけど大丈夫です。
俺がここに居続けるのはあやばあちゃんに悪影響があるので、安全が確認されたからすぐに去りました。
面と向かって言葉でお礼を言わずに申し訳ないです。
ありがとうございました。
やっぱりあやばあちゃんはキレイでとても優しかった。俺の知っているあやばあちゃんそのものだった。
俺のばあちゃんじゃなければ恋人にしていたかも。なんてね。
じゃあね、これからは本物の恋人見つけてください。じゃないと俺が産まれないからね。
お元気でね。
また未来で。

敬具
追伸 この手紙はどうか読んだ後焼却してください。

亮太は未来に戻った。
過去に向かってタイムスリップした瞬間の、まさにその瞬間に戻った。
だから見かけ上は何もしていないように見える。

亮太は、すぐにあやばあちゃんに会いに行った。
「ばあちゃん。元気?」
あやばあちゃんを見たら亮太は少し涙が出そうになった。よかった。これで安心だ。
「亮太、ありがとうね。あなたのお陰でワタシは生きているのね。本当にありがとう」
あやばあちゃんは古びた封筒を俺に差し出しながら言った。
「え?これは・・・。俺の字?まさか・・・ばあちゃん取っておいたの?ええ!焼いてって言ったのに!」
その手紙は亮太が書いたものだ。亮太にしてみればさっき書いたばかりだ。
あやのもとを黙って去った時の置手紙だ。

「ワタシからの手紙も届いたようね」
「えー!過去に送ったやつ?ばあちゃんからだったの?」
「そうよ。あえて二通送ったのよ。到着日時をずらしてね。一通目はわざと切手を貼って郵便配達員に配達してもらったの。それで手紙の存在が亮太にも二十歳のワタシに意識付けられる。手紙が私達二人にとってとても大事なアイテムだよとね。
二十歳のワタシにはさっぱり何のことかわからなかったけどね。
タイムポリスと遭遇させるのも計算のうち。未来からきた亮太にはこれがどういったことかカンが働くと思ったから。だから一通目の中身は白紙で送ったのよ。

二通目は切手を貼らずにピンポイントでアパートの部屋の中のテーブルにしたの。ワタシが手紙を見つけるほんの一秒前にね。あまり長い時間置くとタイムポリス来ちゃうからね」
「なんだって!・・・。でもあやばあちゃん、アパートの鍵開いてたって言ってたよね?」
「それは本当に締め忘れただけ」
「はあー。そうだったのか〜。ばあちゃんスゲーよ」
「フフフ。でも一年間もよく頑張ったね。あっちの時代はどうだった?」
「うん、すごく楽しかったよ。不便な昔の生活の方がすごく楽しいよ」
「そうかもね。今は病気もない、寿命は二百五十才くらいまで伸びて、貧困も学歴格差もない。あらゆる仕事はロボットがやってくれる。何もせずとも全人類豊かだからね」
「だから危険を冒してまで、刺激を求める人がいるのが分かった気がする。やばい体験したかも・・・俺・・・。秘密の、タイムスリップ・ブローカーの仕事がある理由が分かった気がするよ・・・」

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