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真夏に猫を見送る話

19年も一緒に居てくれた猫の男の子が、今年の夏寿命を終えました。
夏バテからの脱水症状から始まり、猫の持病とも言える慢性腎不全もあったことから、調子を崩してから1週間程で駆け抜けていってしまいました。
調子が悪くなってからの日々は、色々試してみるものの効果がなくて、でも消耗していくのをどうにかして止めたくて、毎日毎日試行錯誤で。
それもこれも、本当は夏バテしないように先もってすべきだった事だと思うけれど、全ては結果論でしかなく。
後悔?当然あります。
闘病期間というには短く、大した事もできなかったし、何が正解だったのか未だにわからないままですが、最期までとその後の10日間ほどを忘れない様に、何か残したいと思いました。
悲しいだけではない、予想外の大変さがありました。
終わった今となっては、心の一区切りにできればと。
あとは、私もひとりで真夜中に混乱の極みだった時、ネットの情報にとても助けられたので、もし困って色々探して、この話にたどり着いてしまった誰かの助けになればいいなと思います。
同じ様に困っている方が、何を知れば良いか、何を準備するのか、もちろん私の経験が答えではないですが、知識のひとつになれば幸いです。
(最後に出典があります。内容は読み飛ばして頂いて構わないので、そちらだけでも参考になさって下さい。)

さよならまで

7日前

今年の夏は暑く、冷房が苦手な私と子ども達も、積極的にエアコンを付けて温度調整をする。
19歳になるおじいちゃん猫のアルは、リビングの竹マットの上で寝そべったり、風の通る廊下で寝たりしている。
水はごはんコーナーに、舐めながら飲むペットボトルタイプの給水器と、お風呂場の桶に毎日きれいな水を溜めて置いているが、この日は洗面所の床で寝転がっていた。
そこ涼しいの?と不思議に思うが、水も近いしいいのかなと様子を見る。

6日前

夕方の仕事中に、先に帰宅した旦那からLINEが入る。
[なんかアルしんどそう] 
やっぱり違和感は正しかったのか。
帰る前に電話して聞くと、片足というか半身を動かしにくそうにしているらしい。
脳梗塞でも起こしてしまったのだろうか。
少し変だなって思った時に、受診すれば良かったのかもしれない。
でも19歳という超高齢の彼なので、何か起こってももう仕方ないのかも、という思いがあったのは確か。
しかし毛艶も悪くなくて足腰もしっかりしているから、まだ大丈夫だろうと油断していたのも確かで。
ドライフードは食べてないようだと聞いたので、仕事帰りに猫用牛乳と、汁気多めの半生フードをいくつか買って帰り、出してみるが、少ししか食べない。
足はやっぱりふらふらしている。
今使っているトイレは入口が高いので、多分登れないと思い、ダンボール箱をカットして簡易のトイレを作る。
もう今までのトイレを使うことはないんだろうな。うっすら思う。

5日前

土曜日の朝、動物病院に連れて行く。
血液検査の結果、夏バテ脱水症状と、腎臓と肝臓の数値が悪いと言われる。
腎臓は…猫の慢性的な持病でもあるし、食べ物に気を付けるぐらいしかして来なかった。
ふらふらしていたのは脱水のせいで、脳こうそくでは無かったとの事。
心からホッとした。
点滴と血液検査の金額に、予想はしていたが、慄く。継続するには心を抉ってくる診察代。
また明日も来てくださいとの事で、はい、としか言えないが、早くも不安がよぎる。
旦那と、これからどうするか少し相談。
入院治療が必要かもしれないと言われたが、かかるストレスや年齢的な事を考えると、積極的な治療はしないけれど、穏やかに過ごせる努力はしようと決める。
ポンプ式の自動給水機を買う。
設置してみると、流れる水を興味深そうに飲んだ。良かった!
ダンボールトイレで用も足している。

4日前

日曜日だが点滴だけ受けに行く。
週明けにまた血液検査して、数値が良くならなければ、入院を勧められる。

帰ってからペット用の補水液を買っていたので飲ませてみる。
結構飲む!嬉しい!!皆で喜ぶ。
ネコエリアスかネコリか、栄光の補水液に新たな名前を付けようと、子どもらと話し合うぐらい平和。
ちなみに猫用の牛乳は全然ダメだった。

寝るポジションも、今まではその日の気分によって、ソファだったり、枕の上だったり、積んだ洗濯物の上だったりと特に決まっていなかったけど、定位置を作る必要があるかもと思う。
この時は旦那の部屋で昼寝用のマットで過ごしていた。
パイル地にふわふわの綿が入った夏用の大きめ枕カバーを買って、ダンボール箱にバスタオルと重ねて寝床にする。
アルを設置すると機嫌良く入ってくれた。 

3日前

出かける前に補水液を少し飲んで、点滴と血液検査を受ける。
点滴中に台の上で動こうとするから、元気になってきてるのかなぁと希望的観測。
数値はあんまり良くはなっていないから、入院か継続的な点滴は必要とのこと。
でも年齢的に、入院しても劇的に良くならないかもしれないし、急に変調してしまう事もあります、と言われる。効果は薄いという事なんだろうなぁ。
なので、積極的な治療はしない事、でも穏やかに猫生を過ごせるように、しんどさを軽減する方向でいきたい事を先生と話し合う。
動物病院が週末には連休に入ってしまうので、自宅で点滴が出来るように、明日から練習する事に。
急に責任重大…。
でも出来ない、という選択肢はない。
考えもしない。絶対私はできる。

帰ってから、補水液とかつお味のペーストをスプーン2杯分ぐらい舐める。
一日に必要な水分は点滴で補われているとはいうものの、栄養を摂ってほしいよ。
他の汁気多めフードも持っていくが、見向きもしない。なんでだ、お正月にはぺろりだったじゃんか。
どんどん切なくなってきて、考えるのをやめたいのに、現実がそれを許してはくれない。

昼には、ねとねとのこしあんのようなうんちが出る。
状態はともかく、出たことに安堵。
夕方仕事に出た後、先に帰宅した旦那に電話したら、前足はトイレに入っていたのに後ろ足は入ってない状態で用を足していたらしく、床がびしゃびしゃで掃除中と報告を受ける。
お、おじいちゃんだからね…。
おむつがそろそろ要るのかなぁと、また落ち込む。

2日前

病院前に、またもや上半身のみトイレに入った状態での用足し。
前足が砂に入った時点で、トイレまで来れた!って安心しちゃうのかなぁ。それなら仕方ないなあと思う。
でもダンボールトイレが水分で崩壊の危機に。
病院の帰りにトイレを買わねばと決意。

この日は点滴の指導を受けた。
思ってるより太くて長い針。怖っ。
でも君が元気になるためなら、ぶっ刺してやんよ。怖いけど。
つつがなく終わり、これなら出来るかなと少し気が楽になる。

帰りに浅めの造りのトイレと補水液を買って帰る。
10分弱の寄り道だったけれど、キャリーの中でおしっことゆるゆるのうんちをしていた。
ごめん。ごめんよ。我慢出来ないかもの予測が必要だった。
帰ってから、最近寝場所にしている旦那の部屋にトイレを設置。
もう足に力が入らなくなってきて、ふらふらしているから少しでも近い方が良いよね。

しかし夕方、旦那の部屋で寝てたはずが、よろよろしながらリビングの今までのトイレの定位置にやってくる。
あ…トイレない…と困惑した顔をしてるので、慌ててトイレを取りに行き、事なきを得る。
そうかぁー。近くにある事を忘れて、今までの所へ来ちゃうよね。
逆に、よくここまで来たね、えらいえらい。
もう移動はさせずに、本格的にリビングの一角を居住スペースに整え、エアコンの温度もアル仕様にする。
ネコエリアス(補水液)を子どもが一生懸命飲まそうとしてくれるが、飲まない。そして食べない。
この日は旦那がリビングで寝てくれた。

1日前

朝、家で点滴をする。
上手く出来ているかわからないけれど、液が溢れてきてないって事はちゃんと入ったって事なのか?
とりあえず1日分の水分補給はできたって事で、少し安心する。
水分が入ったからか、身体を必死に起こそうとするが、もう立ち上がってトイレに行けないので、急いでティッシュをおしりに当ててスタンバイ。
ねとねと便とおしっこを無事キャッチ。

新品のトイレはもう使わないだろう。
ペーストのフードも、大好きなかつおぶしも、ひと舐めもしない。
自力で水を飲むことも。
何もかも後手後手で、試す全てに効果がない事に、後悔とひどく落ち込む。

おむつと、給餌用と給水用シリンジを買いに行き、おむつを装着&シリンジでゆっくり補水液を飲ませる。15ccは飲んだかな。
眼窩のくぼみが大きくなっていて、そこに目やにが溜まっている。
不快かもしれない、と綿棒で眼球に触れないように取る。
ネットで、[高齢猫 栄養 取らない]と検索すると、老齢猫の看取りについて色々出てくる。
死期が近付いたサインとして、
ごはんを食べない、いつもと違うにおいがする、目に異変が出てくる、口呼吸をする、などなど出てくる。
呼吸以外、該当してて、刺さる。
まだだよアル君、心の準備なんて出来てないよ、お願いまだいかないで。
今週は既に泣き過ぎている。
でもまだまだこれからだってわかってる。
泣きながら細い体を抱いて、頭を撫でると、目を細めて喉を小さくくるくる鳴らす。
おでこと顔は少し香ばしいにおい。
おなかはふかふかの毛で、ひだまりのようなにおい。
しっぽの付け根あたりはちょっとくさい。
全部いつも通りなのに。

この日の夜から、父と旦那と子ども達で、車で父の生家がある高知へ行く。
父は親戚数人の初盆に行く必要があるとの事で、旦那は運転手を買って出てくれたのだ。そのついでの夏旅。
動物病院に行った時点で、私はアルのお世話で残ると決めていた。
実家に連れて行って、母に見ててもらう?とか、
うち一家ごとキャンセルして、父には電車で行ってもらうか?という案も出たけど、何分アルの容体悪化が急過ぎて、判断を下す前に当日になってしまった。

旦那から、旅行中に何か…あっても、言わないでほしいとの希望。
そうね。行くからには楽しんできてほしい。
その代わり、見送りたいから、どうにかして待っといて、と。
わかった。頑張るよ。
そう答えた時の私は、何も分かってなかった。

気が付くと、簡易ベッドからはみ出して、床に寝ている。床は硬くて骨が当たって痛いかも。何回か戻すことを繰り返す。

旦那が出発前にペーストフードをシリンジで入れる。3ccほど。旦那もなんとか栄養を摂らせたいと必死。
22時ごろ、3人が出かける。出かける前にみんなでいっぱい撫でて、抱きしめてもらう。
言葉にはできないけれど、これが生きている間に会える最後になるのかなとぼんやり思う。
でも行かない私にも、あまり時間は残されていないと感じる。

お風呂を出てから、リビングへ寝具を移動する。エアコン苦手だけど、そんな事は言ってられない。
敷布団の上に、アルをマットごと載せて、今日は一緒に寝ようね、と声をかけた。
いつも私の腕を枕にして寝てたアル。
手を伸ばせば届くところで、いつもの様に夜を過ごしたかった。
と、おもむろに起き上がって動かない脚を必死に動かして、どこかへ行こうとする。
何?どうしたいの?
どうも床で寝たいみたい……。
寝具の段差は10㎝ぐらいとは言え、骨ばった身体が落ちたら痛いだろう。
抱き上げて床に置いてあげると、落ち着いた。
このまま寝る前に、少し水分摂らせたい、そう思って、補水液をシリンジで入れる。
たったの2cc。
でも、ちょっと嫌そうに咳き込む。
やだ変なとこ入っちゃった?ごめん!!
背中をさすって様子を見ると、少しして呼吸が戻る。……良かった、本当に良かった。
変に体力使わせてしまった事が不安で、電気を消して眠る事が出来ない。
様子を見ながら、ネットで色々調べる。
看取り方の他に、死んだらやるべきこと、保冷方法。
これからひとりなんだから、知っておかなければいけないことが数珠繋ぎに出てくる。
気が付けば日が変わっていた。

さよならの日

寝る事もできず、抱き上げるのも負担になるかも、と床にふわふわマットをひいて、その上でアルを撫でる。やっぱり床にはみ出そうとするから、好きにさせてあげる。
色々調べている内に分かった事だけど、猫は体の不調時に、体温を下げようとするらしい。
床で寝たがったのには意味があった。
体が痛かろうと私がしてた行動は、余計なお世話だったんだな。
嫌とも言えなくて、しんどかったよね、ごめんね。
うつろな目には何か映っているのだろうか。
見つめ合えているのか、もう見えていないのか、わからないけど目を離す事ができない。
と、ふいに、びくびくっと痙攣する。
丸めていた体がぴーんと伸びて、ふーっと脱力する。
お腹はまだゆっくり動いていて、お別れが近いのかもと思うと、撫でる手を離せない。
アル、アル、ごめん、ありがとう、いやだよ、
そんな単語をずっと呟いていた事は覚えている。

口呼吸が始まってしまった。
苦しそうに呼吸をする彼を、名前を呼びかけた方がいいのか、そっとしておいた方がいいのか、宙ぶらりんな気持ちで泣きながら見つめる。
ぐぅうーうーと、空気が抜けるような、鳴き声とは違うくぐもった長めの声を出す。
肺に残った空気が声帯を通る音だと、知識では分かっているけれど、苦しそうな鳴き声と思ってしまう。
アル、本当にいっちゃうの。

合間を置いて2回めの痙攣。
また体がぴんと伸びて、ふうっと弛緩する。
けど、そこからゆっくり、ゆっくり、動きが止まって……もう動かなかった。
くったり、だらーんと寝ているだけのように見える。
でも眼は動かない。
お腹も。
抱き上げてもどこにも力が入らない。
本当に?本当に?
いつものように膝の上に乗せて、丸く抱くと寝てるだけの様にしか見えない。
でも、どこもかしこもとっても柔らかいのは、そういう事なんだと、事実を飲み込むしかない。
ひとしきり泣く。
愛する家族が、体はここへ有っても、意識はこの世のどこにもいなくなってしまったという事実。
辛いという言葉では足りない……。

後悔。感謝。感謝。19年の思い出。
全てが寂しく悲しい。
みんなが出てから3時間弱。
私ひとりで見送ってしまった。
家族みんなで見送ってあげればよかった?
それとも静かにほっといてあげればよかった…?
正解は今でもわからない。


いつまででも、泣ける。
けれど動かなければならない。
なんせ真夏。エアコンを16度にしても、どうにかなるレベルではない。
その事実が、何とか体を動かさせる。
決意の深呼吸をひとつして、発泡スチロールの箱を取りに物置へ。
以前、旅行先の道の駅で要冷蔵の商品を入れる為、大きめのを買っていたのだった。
冷凍庫から特大の保冷剤を2つ3つ出して、バスタオルと一緒にアルを箱に入れてみる。
入る…良かった。
ガリガリのおじいちゃん猫でも結構大きいんだなぁ。

それから、ネットを見る内に知った情報のひとつ、[ペットが亡くなったら、最初にするべきこと]をもう一度読む。
まず身体を清めること。
体液が出て来てしまうと、身体を汚してしまうので、コットンや綿で穴を塞ぐ必要があること。
綿をギュウギュウに詰めこむということに抵抗感があっても、中途半端に詰め込んでも意味がないので、綺麗なからだのまま見送るためと考えて、しっかりと詰め込むように、という文言を心に刻む。
コットンを捩って小さな鼻に細い綿棒で押し込める。いけた。
それから、抵抗のない口を開けて、まとめたコットンを押し込む…が、まだ身体がふわふわで温かいのだ。
まだ生きてるかもしれないのに、口に綿詰められたら絶対苦しいよね!
詰めた綿を取り出して、抱きしめる。
ねえ?まだアル生きてるよね!?
胸に耳を当てるも、自分の血管の音なのかわからない…。
もう一度、口を開ける。
舌がべろんと…なる。
これは、これはそういう事だ。
もう一度綿を詰めて、口を閉じるが、やっぱり辛い。
また取り出して、謝りながら抱きしめて泣く。
それを数回繰り返して、やっと出来る。
口が開かない様に、体が固まるまで輪ゴムをかける。
おしりは、おむつもしている事だし、無理には詰めない事にした。
この一連の作業が一番堪えた。

それから、箱へ移して、姿勢を整える作業。
死後硬直が始まる前にやらなければならない。
丸くなって寝るいつものかたちの様に、前足、後ろ足の爪先を一箇所に揃えて、そこに顔をうずめるようにする。
うん、いつものように、かわいく寝てるね。
本当に寝てるだけじゃないの?
まだ、色々認めたくない。
が、時間との勝負という現実がそれを許してはくれない。

保冷剤を内臓付近、背中、頭(脳)に当てて、タオルをかけて、ぐちゃぐちゃの顔のままコンビニへ。
板氷を3つ買う。
夜中にこんなごつい氷をいくつも買う私は、どういう風に映るのかな。
夫を殺して証拠隠滅をはかる女?それにしては氷足りないか。
夜中に急に客を連れてきて、氷買ってこーい!とモラハラ夫に命じられた嫁ってところか?
うつろな頭ではバカな事ばかり考えるようだ。

帰って、発泡スチロールの箱を開ける。
やっぱり寝てるね…。起きないね…。
買ってきた氷はちょうど底面にぴったり並ぶ。
そこへアルを安置すると…なんて事。
蓋が閉まらない!
これは大変によろしくない。
とりあえずタオルにくるんだ保冷剤を上に乗せて、冷気が漏れるのを少しでも抑えられる様にバスタオルを被せ、大慌てで調べものを始める。

ネットには、遺体の安置にはドライアイスが最適とあった。
でもこんな夜中にドライアイスが調達出来るわけない。
しかも今日は山の日、祝日。お盆休み突入。
ネット通販で、大阪市内なら当日配達もあるにはあったが、このタイミングで対応はしてくれるのだろうか?
もっと安心できる解決法を求めてネットの海をさまよう。
[氷屋 〇〇(地域名)]で検索すれば、氷屋が見つかるという情報もあり、さっそく調べる。
ある!ある!!
自転車で行ける距離のところに何軒か。
しかもドライアイスの個人販売もしてくれている。
ただ、祝日の、お盆休み初日の今日、やっているかはわからない。
朝になったら電話をかけて聞く必要がある。
他にも、葬儀屋さん(人用の)ならドライアイスがあるので、個人に販売してもらえるか交渉してみると良いという情報など、祝日の今日が休業でなければ、どうにかなりそう、というだけの情報は集まった。
しかし目下のこの状況がまだ不安で仕方ない。
眠るに眠れず、他の情報を探す。
ふと、自分の会社の事を思い出す。
冷蔵・冷凍品も扱っているので、ドライアイスが一緒に納品される事があるのだった。
真夏の今は確実に!
ただ営業に必要な物なので、分けて貰えるかは未知数。
とりあえず朝の納品時に営業所に電話をかけてみよう、と、やっと身近で現実的な手段を見つけて、張り詰めていた気が緩む。
外は夜が明けてきて、少し明るくなっていた。
少し休もう。
電気を消して無理矢理目を瞑ったら、あっという間に寝てしまった。
6時前にハッと起きて、営業所に電話する。
仲の良い朝のスタッフさんが出て、どうしたのと聞いてくれる。
「朝にドライアイス、入ってくると思うんですけど、もし余分があれば少し分けて貰えないでしょうか?……猫が……死んでしまって……」
初めて、言葉にした。
しっかり話さないとと思いつつ、涙混じりになってしまう。
「大丈夫、ありますよ!7時に納品来るから、それぐらいに来るといいですよ。準備しとくから!」
優しい返事に、余計に涙は止まらない。
お礼を言って、そのまま起きる。

旦那から、夜明け前に到着したとLINEが入っていた。多分今も起きてるはず。
電話して、運転お疲れさま、無事着いた?と言うと、
……あかんかったんやろ?と言われる。
えっ、なんでそう思うの?焦って聞き返すと、鼻声だから。と言われた。
そんな事ないよ、寝起きだから。今はアル君寝てるよ。
つい……伝える勇気が出なくて、誤魔化してしまった。
そっちの天気はどう?と天気の話を振って、うやむやにする。
楽しんでね、こっちも頑張るよ、と伝えて切る。

さて……もう最初に言えなかったのなら、いつ言うか?
おそらくもう帰ってくるまで言えないだろう。
言わない覚悟を決める。

7時になって、会社へドライアイスをもらいに行く。
朝のスタッフさんが、新聞紙に包んだ板状のドライアイスを出してきてくれた。
親切が本当にありがたい。
感情の振り幅がまだ大きいままなので、簡単に泣けてくるが、お礼を何とか言って、家に戻る。
箱を開けると、アル君はきちんと冷えていた。
でも、きれいでかわいいまま、みんなに会わさなきゃ。使命感でなんとか動ける。
ドライアイスを設置して、保冷剤もお腹の上、頭(脳)の上へ置く。
発泡スチロールの箱の蓋もきちんと閉まる。
良かった…。
そしてこれからしばらく、保冷問題に向き合う事になる。

この日は今後のドライアイスの手配も完了した。
でも、何があるかわからない。いざという時に備える為に、冷凍庫の掃除を始める。
古い食材を捨てたり、数日間分の献立にする物を取り出したら、かなり余裕ができた。
目に見える結果と達成感。
よし、ぴかぴかだし、何かあっても大丈夫。

……いや待って、全然大丈夫じゃない。
私、ここにアルを入れるの?
隙間確保できたからって、入れられるか?
この、冷凍庫の引き出しに、愛猫を。

無理。答えはすぐに出る。
でも、不測の事態に備える必要だけはある。
たとえ絶対嫌でも。
ただ、この事は考えないことに決める。
どうしようもなくなった時の、最終手段。

夜、寝る前に状況を確認しに行く。
旦那の部屋のエアコンを最低温度にして、閉め切って安置しているけれど、ドライアイスの減りは思ったより早い。
でも肉体がしっかり凍っていた。おひげに霜が付いている。でも体毛はふわふわで、本当に眠っているだけみたい。
寒いの嫌いなのに、こんなに冷え冷えにしてごめんね。
お腹に顔を埋めて泣いてしまう。嫌なにおいは全然しない。ドライアイス様様だ。
(ちなみにこれから毎回、開けるたびにこのくだりを繰り返した。それぐらい、ぬくぬくの生き物が冷え冷えになってしまったのは辛かった)

1日後

眠ることができなくて、気付けば日を跨いでいた。夜がとてつもなく静かで…。
アルがいない。本当にいない。
今まで、旦那が出勤して子ども達が登校したら、一人の時間というのはいくらでもあったけど、本当の意味で独りではなかったんだと、改めて思う。
手足を伸ばしても、寝転んでいるふわふわの毛玉に当たらない。
ソファに座っていても、膝に乗ってくる子がいない。
カリカリ音を立ててごはんを食べたり、トイレの砂をざくざく掻き分けたり、ひたひた床を歩く音も、何も無い。
アル、さみしいよ。
涙はまだとめどない。眠れないまま、数時間過ごす。
この日は何とか3時間ほど眠れた。
今日は仕事がある。休みシフトを変更して勤務する事にしたので。
お盆休み期間は元々勤務可能な人が少なかったので、(猫の世話がなくなったので)勤務可能になったと伝えると喜ばれた。
私も、何か別のことを考える時間が欲しかった。

午前中にドライアイスを調達でき、取り替える。昨日の分の2㎏は溶けてしまっていたけれど、今日からは凍っている物を保冷するから、減りが少ないはず。
アル行ってきます、と声をかけて出勤。
昨日の事情を知っているスタッフさんから、声をかけてもらう。皆さんペット飼っていたり、昔猫を飼っていて看取った経験があって、慰めてくださる。
今日は時折ウェットになりますが、すみませんと断ると、大丈夫大丈夫と言ってくれる。
本当に人の優しさがありがたい。
予言通り、時々哀しみの波に襲われるものの、対応しなければならない仕事があるのは、ありがたいことだった。
何とか一日の業務をこなして帰宅。
ただいま、ごめんねひとりにして。
声をかけながら、箱を開けて保冷状況を確認。
大丈夫、ドライアイスの減りは昨日よりゆるやかだし、アルは今日もかわいい。
起きてくれたらいいのになあ。

ぼんやりしているとしんどいので、掃除をする。
すると、いつか抜けたのであろう、アルのおひげが出てくる。
残った分身、捨てられないよね。
小さな袋に入れて仕舞う。
まだまだ涙の波は、予想外のところから急にやってくるみたい。

旦那から、楽しそうに海で遊ぶ子ども達の動画が送られてくる。うんうん、良かった。たくさん夏を満喫してきてね。
こちらは現状維持だよ、とだけ伝える。
昨日から変化は無いから、嘘ではない…。
けど、正しく伝えていないのが少ししんどい。

食欲は無いけれど、無理矢理つめこむ。
今バテたら手に負えないからね。
そして相変わらず眠れそうにない。
どうせ眠れないからと、電気を付けたまま、夜中までまた調べ物。
ドライアイスを毎日補充することが出来れば、1週間から10日程の保存は可能だとか、遺体の大きさ別に必要な一日分のドライアイスの重量だとか、
ドライアイスはー79℃程なので、普通の冷凍庫に入れていても一日(大きさにもよる)で溶けてしまうこと。
私はこの数日でドライアイスにだいぶ詳しくなった。
気が付けばスマホを握ったまま眠っていて、朝になっている。
今日もひとりの夜を超えられたとホッとする。

2日後

今日も休みを変更して出勤予定。
台風が近付いているから、高知組の様子が気になりLINEすると、まだそんなに影響はないようで今日は海に行くらしい。
私ももう積極的にごまかすことはしない事にした。
旦那も私も、お互いにアル君の事に触れずに、LINEが進む。
そろそろ察しているよねきっと。

午前中にドライアイスを取り替える。
今日もかわいいね。
行ってきます、生きていた時のように声をかけるのは、まだやめられそうにない。

この日の業務は少なめで時間に余裕があったので、これからの事を考える。
家族が帰ってくるのは明日。
10時に向こうを出れば16時着、12時発なら18時。
でも渋滞があったりすれば、もっと遅くなるかもしれない。
この日に火葬をするのは無理だろう。帰宅時間が読めないし、帰ってきてから亡くなったことを伝えられて、そのまま火葬場へゴー、はあまりに情緒に配慮がなさすぎる。
しかし、気になるのは台風。明後日に火葬する事は可能なのか?
あらゆるもしもに備えて、いくつか方向性を決めておく。

ちなみにペット火葬の事はかなり前から調べていた。
炉付きの車で家の近くまで来て、焼いてくれるとかあるのね。
条件としては、絶対に返骨は希望。
お経とかそういうのはどうでもいいかなぁ。
ただ、ペット葬儀社はお盆期間中やってるのか?お盆はやってるとしても、台風直撃なら臨時休業はあり得るんじゃない?
疑問だけ積み重なっていく。
金額も…なかなかだ。
種類、大きさ、オプション&オプションで課金額が上がっていく。
ビジネスですもんねぇ。
わかっていても、愛情につけ込まれるようで決めかねる。

そんな中でも、実家の市のエネルギーセンター(ごみ処理施設)は、ペットの火葬を引き受けてくれていて、大きさに関わらず値段は一律。返骨ありでも1万円ちょっと。
実家の歴代の猫たち2匹も、ここでお世話になった。
日曜日の今日は休みなので、明日連絡してみよう。
やる事リストが増えるのは、今の私には大変ありがたい。

帰ってから、この日も片付け。
猫グッズ達を軒並み仕舞う。
主が居ないのに、トイレが水が準備万端とか、ちょっと辛いからね…。
それなのに、すっきりしたスペースを見ると、切なくなる。
何をしても、しなくても、寂しい、辛い、かなしい。
これに慣れる日はきっと来るけど、今はまだ難しいね。

何とか食べて、テレビを見ながら横になる。
明日はみんな帰ってくる。やっと。
保冷に敏感になって、気が張り詰めていた日々も終わる。
安堵感からか、気が付けば寝ていた。
途中で起きたものの、トータルで7時間ぐらいは寝れた。

3日後

今日、やっとみんなが帰ってくるよ。
アル君頑張ったね、ありがとう。
声をかけながら朝の状態チェック。
気持ち良く寝ているようなアルは、今日もかわいい。
朝のニュースは台風関連ばかり。不安要素が高まっていく。
明日、火葬するつもりで、今日ドライアイスを取り替えたら、それが最後。
明日の分はない。
いける…のか!?
一応大きい氷は取ってあるから、大丈夫。自分に言い聞かせる。
高知組と通話。午前中に出る予定とのこと。
最後まで気を付けて帰ってきてほしい。その為に私もアル君も頑張ったから。
娘から、アル君は?と今日も聞かれる。
アル君は寝てるよ。私の答えは変わらない。
もう起きないだけで。
ほんとー?良かった!
喜ぶ娘に、感じる罪悪感。
帰ってきたら、うそつき!寝てるって言ったのにって怒られるかな。ごめんね。

エネルギーセンターへ電話。
明日お盆だし台風ですけど、ペットの火葬受付やってますか?と聞くと、台風ぐらいでは収集休みにならないんで、やってますよとの事。
日本中の収集業務に携わるスタッフの皆さま、本当にありがとうございます。
頼もしい。感謝しかない。

台風に備えて、買い出しとベランダの片付け。
スーパーの花コーナーで、可愛い花が入った花束を3つ買う。
つつがなく他の買い物も済ませて、昼ごはんに思いを馳せる。
絶望していても美味しく食べられるという、ピエト⬜︎の絶望スパゲティのソース、今が食べるのに最適なんじゃ?と、取り扱っているスーパーへハシゴ。
すると、なんとまあ、レジの列が……すさまじい。
全レジが売場の端まで行列している。
パスタソースひとつを買うために並ぶ長さではないし、新たな絶望は今は必要ないので、諦めて帰宅。
でも口がパスタの口になっていたので、家にあるトマト缶とツナとオリーブでプッタネスカにする。
美味しいものに元気をもらって、今日を乗り切らねば。

旦那たちは四国を順調に縦断しているよう。
帰ってくるまでに、やる事は目白押しだ。
予定になかった、ベランダの片付けを慌てて始める。
色んな予定を狂わせて、不安にさせる台風め。
翌日の火葬依頼は本当にできるのか。
出来なかったらどうしよう。ドライアイスは今日で終わりなのに。
片付けが終わる頃には、15時を回っていた。

今どの辺?と聞くと、もう瀬戸大橋は渡って、兵庫に入っている様。あと3時間ってとこかな。
作業を巻きでやらねば。
とりあえず、最優先事項はアル君。
おそらくこれが最終チェックになる。みんなを迎える準備の。
ドライアイスは、大丈夫そう。
あんまり開け閉めしなかったら、明日の朝までは冷やしてくれるだろう。
今までは、冷気が伝わりやすい様にバスタオルで包んでいたけど、調子が悪くなってから買った、ふわふわのパイルの枕カバーにアルを横たえる。
毛づくろいブラシで全体的に撫でてあげると、いつものようにぽわぽわの毛玉がブラシに付くのが不思議だった。
グルーミングしたら毛も抜けるし、相変わらずかわいいし、マットに載せたら、より気持ちよさそうに寝てるだけに見えてくる。
もう4日もお世話しているのに、そうだったらいいのになとまだ思わずにいられない。

もうすぐやってアル君。みんな帰ってくるよう〜。頑張ってくれてありがとうね。
よく寝てて今日もかわいいね。
ひとしきり撫でて、箱を閉める。

やっと、アルをきれいでかわいいまま、みんなに会わせる事ができる。
この4日間は、本当につらくて苦しくて、でもそれに浸ることもできなくて、アルを傷めてしまう恐怖もあって必死だったけれど、苦労を全て労ってくれるかわいい寝姿に、必死に頑張って良かったと心から思えた。

あと残る最後の大仕事は、みんなが帰ってきたら報告しなきゃいけないって事。
アルもいないし、猫グッズも無いし、帰ってきたらすぐわかってしまうから、悩む余地はないな。
大変な事は全て終わってる。辛いだけだ。

夕方になって会社から、明日は関西の全営業所が休みになる連絡が入る。そりゃそうか。
元々休みだけど、もし出勤だったら怖すぎたな。

切り替えて、今のうちに晩ごはんの準備をしておく。
今晩は食べる気になるかどうかはわからないけど、生きていればその内おなかは空いてくるからね。今日食べられなかったら、朝ごはんにしてもいいさ。
食べる量を加減できて、そこそこ味が濃くて食欲をそそるもの、ということで、お好み焼きを作っていると、マンションの下に着いたと連絡がくる。
よし、最後までふんばれ私。
その前に泣かない様に、顔に力を入れて、外まで迎えに行く。
おかえり〜、渋滞に巻き込まれた割には早かったね、たわいのない話題で、質問されない様にする。
父には15分だけ時間ちょうだい、と言って車で待っててもらい、大荷物を持って全員で家へ。
玄関内にとりあえず全部置いてもらって、中に入ってしまう前に、3人に報告する。
「みんなに、報告があります。あのね、アル君、頑張ったんだけどね……」
うまく、言えない。
でも、伝わった。
旦那は「うん、そうかなって思ってた」と。
やっぱりわかっちゃうよね、言えなくてごめん。
息子はポロポロと、娘はなんでー!と言いながら、全員くしゃくしゃになりながら玄関で泣く。
とりあえず、こっちで、みんなを待ってたんだよと旦那の部屋へ連れて行き、発泡スチロールを前に座ってもらう。
開けるね、と言って開けてみせたら、やっぱり寝てるだけの様なアル。
わあわあ泣きながらみんなでアルを撫ぜる。
娘に「なんで!こんなに冷たくしちゃったの!」と叫ばれた。
えーお母さんがどれだけ大変な思いをして、頑張ったか…と一瞬思ったけれど、そうか、そうだよね。
訳わかんないよね。
アル君を、ふわふわで温かいいきものを、こんな冷え冷えにしちゃうなんて。
ごめんね。ごめん。
旦那が、「大変やったやろ、ありがとうな」としゃくりあげながら言ってくれる。
伝えられんくてごめんねええとやっぱり泣いてしまう。
とりあえず、私はみんなより4日間受け止める時間があったから、顔を拭いて立ち上がる。
みんなに、もうちょっとだけ見たら、蓋閉めてあげてな。ごはん用意してるから、食べれそうなら食べてな。お母さんはおじいちゃん送ってくるよ、と家を出る。

父が「このままアル君を持って帰ろうか?(そして火葬に出してこようか)」と言うが、家族にはお別れをする時間が必要だし、火葬は私たちが連れて行きたいと言うと、わかってくれた。

実家の市へ向かう途中、会社の近くを通ることに気付く。
時間は19時ちょっと過ぎ。まだ、誰かいてるはず!寄らせてもらう事にする。
営業所へ行くと同僚さん達が居てた。
明日休みだし、今日の分の残りのドライアイスがあればもらえないかと相談してみる。
みんな私の事情を知っているから、いいよどうせ溶けちゃうだけだし、と、残りのひとかたまりをもらう。
最後まで本当にありがとうございます。

父を送って、家に戻る。
追加のドライアイスを入れると、安心感この上ない。相変わらずふわふわで、かわいく寝ていて、大好きなアルのままだ。
あとの不安要素は明日の天気のみ…。

子どもが寝てから、旦那と2人で発泡スチロールの箱を囲んで、泣きながら話す。
最期の時のこと。今日までのてんやわんや。みんなで看取る選択をしなかった後悔。
でも旦那は、多分看取るのは辛くて対応出来なかったと思うから全然よい、と。
ひとりで任せてごめんな、ありがとうと。
そうかぁー。
アルは、もしかしたら、誰にも知られずひっそりと終わりたかったかもしれないけど、最期の時に一緒にいてあげた事は、良かったのかもしれないなぁ。
初めて思えた。
そういえば、人が好きで、甘えたで、さみしがりの子だったな。
アル、もう一回、甘えてすりすりしてくれないかな。さみしいよ。

4日後

6時に目が覚める。
外は…結構な風が吹いているようだ。
外の樹木の揺れぶりが恐ろしい。
何となくそわそわする空気があるのか、みんな起きてきたので、いつもより早めの朝ごはん。
7時になってから、もう一度エネルギーセンターへ電話をかけてみる。本日も稼働していますとのこと。ありがたい事この上ない。
じゃあ、やっぱり行こう!安全運転で。
旦那と覚悟を決める。
子どもたちには留守番してもらうことに。

アル君に、最後のお別れをしよう。そう言って、昨日買っておいた花を短く切って、子ども達に供えてもらう。
眠っているだけの様な顔周り、かわいい前足、背中とおなかとしっぽの近くにも。
お花の中で眠っているようなアルが出来上がって、切ないかわいさにみんなでさめざめと泣く。
ありがとう。大好きだよ。
いっぱい撫でて、さようならをした。

風が結構な強さで吹いているけど、雨はまばらで。かと思えば急に激しく降ってくる。
典型的な台風の天気。
自宅を出発して、安全運転で向かう。
結構車通りは多くて、みんなこんな日にどこへ行くんだろうねとか話しながら。
しかし天気は心配していた程悪天候ではなく、順調に到着。
ペット火葬受付用のスペースに車を停めて、後部座席で旦那とふたりで、発泡スチロールを開けて本当に最期のお別れ。

しなやかな体と長いしっぽが美しい、どこにでもいる模様No.1のキジ猫。
甘えたな子で、いつも誰かの近くに居てて。
寝てると布団をチョイチョイって叩いて起こしてきて、中に入れてって要求して、腕枕で寝るんだけど、おしりはこっちの顔に向ける。失礼なやつめ。
体はいつも温かくて、優しい匂いがする。
すぐ膝に乗ってきて、撫でても撫でなくても、ぐるぐる言ってくつろぎ出す。
おじいちゃんになっても、ずっとかわいいままで、目を合わせてゆっくりまばたきしたら、まばたき返してくれる。
小さい声でアルって呼んだら、小さい声でにゃーってお返事してくれる。

私たちが愛した以上に愛を返してくれた。
存在だけでどんなに幸せをくれたか。
アル、うちの子になってくれてありがとう。
いっぱい幸せにしてくれてありがとう。
長いこと一緒にいてくれて、本当にありがとう。

しばらく無言で撫でていたが「行こうか」と旦那が切り出す。
うん、行こう。
アルを運んで受付へ向かう。
あらかじめ電話していたから、受付はスムーズに済んだ。
お骨の引き取りは2日後になる事。お花とかも一緒に焼いてくれる事。等々簡単な説明を頂いて、ではアル君お預かりいたします、とカートに箱が載せられる。
ああ本当にさようならなのね。
よろしくお願いします、は泣きながらやっと言う。泣かない人なんていないんだろうな。
職員の人の、淡々と、でも心情を慮った対応がありがたかった。

帰りのことはよく覚えていない。
雨風が強さを増しているから、急いで帰ったような気がする。

6日後

台風の影響はすっかり消えて、厳しい暑さも戻ってきた。
午前中に、家族みんなでアルのお骨を受け取りに行く。
何か箱を用意しておいて下さいと言われていたが、サイズがさっぱり検討つかず…。
大きめの箱、中くらいの箱、小さい箱、3つ持っていく事にする。(ちなみに中くらいの箱・横20㎝×縦12㎝×高さ7㎝が、スカスカにもならずちょうど良かった)
何となく意識した訳じゃないけど、いくつか色がある中で、白い箱を選んだ。
一昨日訪れたペット火葬受付へ行くと、すぐにカートを運んで来てくださった。
白い石の板の上に、綺麗に並べられたアルの骨。
ひとつずつこれはどこの骨か教えてもらいながら、子どもたちに竹のお箸で、布をひいた箱の中に入れてもらう。
しっぽの骨は、小さいから残らなかったそう。それが少し残念。
前足、後ろ脚、骨盤、背骨、肩甲骨と肋骨。
首の骨、頭蓋、最後に喉仏。
軽くなっちゃったなぁ。
アルを大事に抱えて、お世話になったお礼を言って、おいとました。
台風でも稼働して下さって、本当に本当にありがとうございました。

お骨は、今も写真や首輪や、もろもろと共にリビングで飾っている。
いつか、実家の庭の歴代にゃんこ達と一緒の場所に埋めるかもしれないけど、このままでもいいんじゃないかなぁと思ったりもする。
多分旦那は手放せないだろうと思うし、私も気持ちがわかるので、無理強いしたくない。
ずっと、居ててほしいよね。


夏が終わって

暑さはまだまだ猛烈で、季節が変わっていく感じはしないけれど、気が付けば夏休みはあっという間に過ぎていった。
毎日の家事、仕事、夏休みの子どもの課題のチェックなど、様々に追われるいつもの日々を送る。
それでも時々、ふいに悲しみの波が襲ってきて、泣いてしまうけれど、それもゆっくり癒されていくのかな。
ただ、ふわふわの優しいいきものが居ない、という埋めようのない喪失感は時間がかかりそう。
どこかで、カシカシと扉を引っかいて、開けてとねだる音が聞こえる様な気がしてしまったり、よく寝ていた竹マットをじっと見て…いない事を確認したり。
ああ、いないんだった。
気が付く度に、小さく傷付いて、さみしくなる。

でも、私は最後まで一緒にいれて、正直辛かったけれど、幸せだったとも思う。
外出して帰ってきた時にはすでに…とか、夜寝ている内に…とかだったら、きっと自責で激しく落ち込んでいたかもしれない。
アルはもしかしたら、最期ぐらいひっそり終わりたかったかもしれないけれど、ひとりの時に逝ってしまうなんて、やっぱりさみしいよ。
甘えたさんだったじゃん。
一緒にいさせてくれてありがとね。

家族に、きれいなままで会わせるという、予測外で難易度の高いミッションも、気持ちを落ち着かせてくれた一因になったと思う。
日数もあったから、ずっと気を張り詰めていられたし、使命感がなければ出来なかった数々のことを、やり遂げられて本当に良かった。

これからしばらくは、家族と共にアルの思い出にひたったり、やっと見られるようになった懐かしい写真や動画を見たりして、穏やかに過ごしていけたらな。
それでも時々は泣いちゃうからさ、夢に出てきてくれると嬉しいなあ。
アル君会いたいよ。


これで、私が真夏に愛猫を見送った話と、その後の数日間の話は終わりです。
あった事、やった事、思った事、そのまま書き連ねていったらとんでもない長さになってしまったけれど、最初に触れたように、心の一区切りとして、またこの夏を忘れない様にとの思いで、書きました。
長い上に、ウェットな内容なので、正直読み飛ばしてもらって構いません。
ただ、愛する小さい家族の死に瀕した時、何をしてあげたらいいか、準備は?心構えは?
そんな、どこから手を付ければ良いかわからない不安に、少しでも助けになればと思い、私が調べたHPを出典として載せたいと思います。
参考にさせていただいたHPの管理者の皆様に、心より御礼申し上げたいと思います。
本当に助けられました。ありがとうございました。

2023年8月31日

【出典】
■COCOPET journal様
【獣医師監修】猫は死期が近づくとどんな行動を取る?飼い主ができること

ペットが亡くなってしまったときの火葬までの安置方法|ドライアイスの使い方

■ミツモアMedia様
猫に死期が近づくと見られる兆候。飼い主が最期にできることは?

■ふぁみまる様
猫が亡くなってしまったときにやるべきこととは?自宅でできる対応を解説!

■中央冷凍産業株式会社様
ペットが亡くなったら、最初にするべきことを解説

ペット遺体保存(安置)はドライアイスが最適! 私の体験談

ペット遺体の長期安置方法を解説


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