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新たな道を模索する、定年後の苦悩 ——『終わった人』 内館牧子著

定年後の孤独、どう向き合う?

「終わった人」。このタイトルから感じられるのは、人生の大きな節目を迎え、何かが終わってしまった感覚です。主人公の田代壮介は、銀行のエリートとして出世街道を歩んできましたが、やがて子会社へ出向。そして、定年を迎えた瞬間、彼は自分の「終わり」を強く意識します。仕事一筋で走り続けてきた田代にとって、突然訪れた余暇の時間はまるで穴のように感じられるのです。

これは、単なる一人の物語ではなく、現代社会に生きる多くの男性、いや、すべての人々が直面するかもしれない問題です。今までの役割を失い、どうやって次の道を見つければ良いのか。内館牧子さんは、この問いを田代の人生を通して描き出します。

「定年後の暇」をどう埋める?

田代が最初に直面するのは、膨大な「暇」です。今まで忙しく働いていた日々が突然なくなり、妻と顔を合わせる時間が増えます。しかし、その妻は一緒に旅行に行こうともせず、特別な趣味があるわけでもない田代にとって、暇な時間は途方に暮れる要因となります。

「図書館通いや体を鍛えることもあるけれど、そんなのは年寄りじみている」と彼は言います。この感覚、何かに打ち込んできた人ならきっと共感するのではないでしょうか。定年後、社会から「必要とされていない」と感じる孤独。それをどう埋めるか。田代は図書館に通い、身体を動かすなどするものの、それでは満足できない自分に気づきます。

仕事を探す、しかし「立派すぎる」経歴が邪魔に

「仕事がないなら探せばいい」。そう思い、再就職に挑戦してみる田代。しかし、ここでまた大きな壁にぶつかります。かつての華やかな経歴が、逆に彼の再就職を妨げるのです。

この場面は、とても現実的です。現代でも、多くの定年退職者が再就職を希望するものの、若い世代との競争や、逆に「あなたは過去の栄光がありすぎる」といった理由で断られてしまうことが少なくありません。田代の奮闘は、現代の「働くこと」そのものに対する問いかけでもあります。

「恋愛でもすれば?」家族の軽い言葉が胸に刺さる

「恋愛でもすれば?」これは、妻や娘が田代に向ける軽い提案です。あまりにも唐突で、冗談めかしたこの提案が、田代にとっては無視できない響きを持ちます。気になる女性がいたとしても、年齢や状況が邪魔をして、自分の思い通りにはいかない。

内館さんは、年を重ねた男性の恋愛事情を軽妙に描きつつも、深いところで読者に問いかけます。「もう一度誰かを愛することは可能なのか?」、「年を重ねたとしても、恋愛は人を再生させる力を持つのか?」と。田代の不器用な姿を通して、読者もまたその答えを模索することになるでしょう。

揺れる心、そして訪れる安息

田代は、恋愛も仕事も上手くいかず、自分の居場所を見つけられないまま、日々をあがき続けます。心の揺れ動きは、まるで荒れた海のよう。波が押し寄せては引いていく。彼の心の迷いは、誰しもが感じる不安や焦燥感に通じる部分があります。

しかし、田代はその揺れ動く心の中で、少しずつ新しい生き方を見つけ始めます。必ずしも大きな成功や派手なものではないかもしれません。それでも、彼なりの「安息の地」を探し出す姿は、読者に勇気を与えるものです。

終わりは新たな始まり

『終わった人』というタイトルは一見、ネガティブに響くかもしれません。しかし、この物語を読み終える頃には、読者はきっとこう感じるでしょう。「終わりは新たな始まりだ」と。田代の迷いや苦悩は、単なる「終わり」を意味するのではなく、次のステップへの準備期間でもあります。

内館牧子さんの繊細でユーモラスな筆致によって描かれるこの物語は、読者に新たな視点を与えてくれるでしょう。年を重ねたとしても、人生にはまだまだ可能性が広がっている。そのことを教えてくれるのが、この『終わった人』という作品です。

興味をそそられる物語、ぜひ手に取って読んでみてください。

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