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過去への扉を開くたった一杯のコーヒー — 『この嘘がばれないうちに』川口俊和

不思議な喫茶店「フニクリフニクラ」

もし、あなたが過去に戻ることができたら、誰に会いたいと思いますか?過去に戻れる喫茶店、そんな夢のような場所があるとしたら…。『この嘘がばれないうちに』は、そんな奇跡の物語が描かれています。

舞台は、とある街に存在する喫茶店「フニクリフニクラ」。ここには、過去に戻ることができるという都市伝説があり、たくさんの人々が訪れます。しかし、そのルールは一筋縄ではいかない。**「コーヒーが冷めるまでの間だけ」**という制約の中で、過去に行き、愛する人に会いたいと願う4人の男たちが登場します。

過去に戻れる? しかし現実は変わらない

「フニクリフニクラ」には、いくつかの面倒なルールが存在します。まず一つ目は、過去に戻っても、その喫茶店を訪れたことのない人には会えないということ。さらに、どれほど努力しても現実は変えられません。たとえ過去の出来事を再現しても、それが現在に影響を与えることは決してないのです。

しかし、そんな制約の中でも、人々は過去に戻ることを選びます。なぜなら、過去に戻ることは、単に過去を変えるためではなく、自分自身の心の整理や、感情の解放を目的としているからです。

4人の男たちと4つの「嘘」

物語には4つのエピソードが含まれており、それぞれ異なる過去に戻りたい男たちの物語が描かれています。最初のエピソードでは、22年前に亡くなった親友に会いに行く男が登場します。友人との別れを迎えることができなかった彼の切ない願いは、過去を振り返り、最期の瞬間をもう一度確かめたいというもの。

続いて、母親の葬儀に出られなかった息子の物語では、時間がどうしても巻き戻せない現実に直面した彼の葛藤が描かれます。これらの男たちが抱える「嘘」は、誰にも話せない秘密であり、過去を変えることではなく、過去と向き合うための行為としての「嘘」なのです。

「結婚できなかった恋人」と「妻に贈り物を渡す老刑事」

さらに進むと、結婚できなかった恋人に会いたいと願う男や、妻に贈り物を渡したい老刑事の話が続きます。これらの物語は、全てが「過去を変えることはできない」という厳しい現実を前に、彼らが自分自身と向き合い、心の中に残る「嘘」と折り合いをつけていく過程を描いています。

彼らの願いは、決して過去のやり直しではなく、過去と和解し、未来への一歩を踏み出すためのものなのです。このテーマこそが、本書が読者に伝えたい最も大きなメッセージなのかもしれません。

コーヒーが冷めるまでの間に

最も印象的なのは、**「コーヒーが冷めるまでの間だけ」**という制限です。このわずかな時間が、彼らに与えられた猶予であり、過去と向き合うための大切なひとときとなります。限られた時間の中で何を感じ、何を思い出し、何を学ぶのか。それは読者それぞれの解釈に委ねられています。

この物語を読むと、過去に戻ることができるかどうかは、実際にはそれほど重要ではないのかもしれないと感じさせられます。むしろ、今をどう生きるかが問われているように思えるのです。

終わりに

『この嘘がばれないうちに』は、過去を変えられないと知りながらも、過去に戻りたいと願う人々の心の葛藤と、再び前を向いて進んでいく姿を描いた物語です。限られたルールの中で、どのようにして自分と向き合い、次の一歩を踏み出すのか。読む者に、生きることの意味を問いかける一冊です。

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