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少年期の夫に出会う - 文化は飢え次第

何年も空き家状態の夫の実家に借り手が現れたので片付けを進めている。

夫の実家は限界"突破"集落。山の中にぽつんと数軒の集落があり、現在子供はおらず老人が少し住んでいるだけの本物の山奥だ。もちろん夫の出身小中高全部廃校。そんな地へ、県外から30代夫婦が田舎暮らしに憧れIターンすると。購入も考えているが一旦は賃貸でという話になったので、どうかガチの山奥を舐めてないことを祈る。

お店などは当然ない。現在も何キロも先の隣町でやっとコンビニにありつける。本屋などはもっと遠い。
ネットのない時代にそんな山奥で育ったのに、夫は私を遥かに超えるサブカルクソ野郎だし、音楽も詳しい。しかもYMOで産湯浸かったので基本的に電子音好き。山奥なのに!山奥だからアンビエント!?
ともあれ、夫の実家を初めて訪れた時に思ったのは、地域による文化格差というのは、本気の飢えと熱意には及ばないということ。後者があれば山奥でも好きな文化にある程度は浴せるし、飢えがなければ東京に住んでいても文化とは縁遠いままなのだ。

人の本棚というのは大変面白いものだが、それが自分の夫となったら格別だ。いや〜、楽しんだ!目立つ本棚は以前から見ていたし、付き合いたて一人暮らし時代の本棚も知っているから傾向は分かってはいたというか、そもそも私たち夫婦は音楽や漫画、映画などの趣味繋がりで出会って結婚したので被り品も非常に多い。
しかし今回はガッツリ片付けで押入れにも手を出したから、私と出会う遥か前、少年期〜青年期の夫を垣間見れたのでじんわりきた。また、夫の方が6歳年上なので、私が享受できなかった時代のものも発掘されて感激だった(90年代初頭に実家を出ている)

夫は太平洋戦争関連全般と民俗学が好きなのだけど、それらを裏付けるあれこれに感心したり、案外太宰治が多いことに驚いたり。あと、思春期を拗らせた人の本棚には必ず夢野久作『ドグラ・マグラ』、フロイト『夢判断』、澁澤龍彦の著作たちがあると確信した笑(私も当然持ってた)

それら以上に大量なのがとにかく漫画漫画漫画と雑誌。雑誌はBRUTUSとか宝島とかガロや月刊OUT等々に加えて、押入れの段ボールの中にありましたよ、エロ!
エロ本見ての私の反応は「これ末井昭さん編集でアラーキーとか載ってたヤツじゃん!」とか「あ!これ伝説のエロ漫画誌!まんだらけで売れるじゃん!」とか、「岡崎京子が載ってるエロ本だあああ!!!(単行本でしか読んでないので感涙)」とか。妻がサブカルクソ野郎だと、こういう時に気楽なのかもしれないと我ながら思った。

そしてね、宝箱も見つけちゃったんです。
押入れからこんな小箱が(掲載許可済)

さあ、何が入っているのか!!!

お年玉袋(空っぽ)、兵隊のフィギュア、錆びて曲がった釘、捻れた謎の金属、現金(18円)、そしてメモ
メモには「本や行って 日本の戦車 来てるかどうか きく」と書いてある。

たまら〜〜〜ん!!!!!!
日本の戦車についての本を頼んでいたんだろうね。山道をひたすら何キロも行った先の本屋は田舎町の小さな店だけれど、少年期の夫にとっては文化発信基地で、遥か先の外の世界へ繋がっているポータルだったんだろう。
こんなん眩し過ぎてきゅんきゅんしてしまう…

文化と知を欲する飢えと好奇心と熱意を、夫がいつ得たのかあるいは生来の性質なのか分からないけれど、ありがとうと思った。じゃなきゃ東京で私と出会って意気投合することもなかった。
心の中で、少年の夫の頭をかいぐり撫でた。


※トップ画像は押入れにあった昭和の象徴・マジソンバッグ(私は初見)

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