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笑ってくれるから、泣く

夫のちんげを燃やして2人で爆笑した。
唐突にすみません。でも昨夜の事実なんです。子供いないからというのが大きいのだろうけど、私たちは毎日あれこれ話しては笑い合い、ふざけ合っている。
昨夜、ライターを手にしてなんとなく「燃やしてやる〜」って夫のズボンずらして火を近づけたら本当に火がついてしまって、しかも想像よりボワっと燃えたのでめちゃくちゃ笑ってしまった。一部分だけだったし、一瞬で消えて燃え広がることはなく毛も消滅しなかったから笑えたのだけど、それにしてもちんげ燃やされたのになんで笑ってんの?なんで怒らないの?って聞いたら、「え。だってちんげ燃えるとかそんなん笑っちゃうじゃん。そんなことで怒らないよ」と。
私が燃やしておいて酷い話だが、よく怒らないなあと感心してしまった。夫は本当に滅多に怒らないのだ。そして大抵のことには動じない。もちろん夫にとって動揺してしまう場面もあるが、不思議と私はその場面に強いからバランスが良い。夫は基本的にいつも堂々とにこにこしている。

以前、一緒に有田陶器市へ出かけて柄違いの茶碗を買った。夫用が青海波、私用が麻の葉。日本の伝統柄だけどモダンなフォルムが気に入って愛用していた。大事にしていたのに、夫用のを私が割ってしまった。夫はすぐさま駆け寄って「大丈夫?ケガなかった?」と。私は涙目で「なんで怒らないの?」って聞いた。「残念だけど仕方ないさ〜。形あるものは壊れるさ〜」って笑って頭を撫でるから私はびっくりして泣いてしまった。その時、凄まじく恐怖していた自分に気がついたからだ。
元夫はあらゆることで怒り、怒鳴りつける人だった。しかも怒るポイントがさっぱりわからない。ある時なんて私がラジオで笑ったら突然激昂し怒鳴りつけられ数日不機嫌の刑に処された。その時は偶然居合わせた人があまりに酷いと言ってくれたおかげで刑期が縮んだけれど。あの頃、私は怯えながら地雷原にいた。同居開始から1年も経たず家出して離婚したのにまだ恐怖心が残っていたこと、そして失敗も笑顔で受け入れてくれる夫の優しさが沁みて泣けて仕方なかった。

夫の言葉で泣いてしまったことが、もうひとつある。
夫は毎日のように「可愛い」を言う人なのだけど、ある時お風呂上がりの私の足を見て「君は足の指まで可愛いねえ」と言った。
私は昔、同じ状況で母にこう言われた。「うわあ、お父さんそっくり。こんなとこまで似るのね」と。私の父は、私が母のお腹に宿った途端に浮気して帰ってこなくなった人だ。そのまま別居したので私は父と暮らしたことがない。そういう父親に足の指まで似ていると、心底嫌な顔をされた。夫はそんな私の足の指まで可愛いと言った。こんなん泣いてしまう。私は子供みたいにしゃくり上げて泣いた。泣きながら説明する私の背中を夫は笑いながらぽんぽんした。母の言葉で悲しい気持ちになった子供の頃の私ごと抱きしめてくれた。

まさかちんげ燃やしからこんな過去を思い出すとは私自身思ってもなかった。ちんげ燃やしはさすがに反省しているのでもうしないけど、私たちはきっとこれからもくだらないことで笑い合うんだろう。また不意に泣かされることもあるかもしれない。
割ってしまった夫用の茶碗はなんとなく捨てられずにいたのだけど、金継ぎして直そうと思った。新しく買うより高くつくけど、絶対に良い。

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