【「なるほど」(成る程)は、失礼にあたるのか?】~ことばの虫メガネ④~
※今回はとても長文なので、お時間あるときにゆっくりとご笑覧ください。
先日、弊社の社員さんと話をしているときに「なるほど」(成る程)という言葉について、話題になりました。目上の方に「なるほど」と同意の意味で返したら、「失礼にあたる」と指摘されたことが過去にあるようです。
一般的な感覚として、私も「なるほど」という言葉は目下の人がフォーマルな場で使うのは避けたほうがいいと普段から感じているため、意識的に使わないようにしています。個人的な温度感ですが、目下の人が「なるほど」と言うと、ご不快に思われる目上の方は今の日本社会ではまだ多いのではないかと笑
「では、何を用いるのが適切か?」といった話にもなり、ちょっと考えてみたのですが、その場では結論は出ませんでした。というのも、目下の人間が「なるほど」と言わず、「なるほど」の意味を目上の方に伝えるのはなかなか悩ましくもあり、今回に限らず別のところでも何度か話題になったことがあります。
なのでちょっと前置きが長くなりましたが、今回は「なるほど」の用法について、皆さんと一緒に考えてみたいと思います。そもそも、「なるほど」という単語は”副詞”の意味と”感嘆詞”としての意味があるのは、一般的にあまり知られていないかもしれません。結論から言えば、ご年配の方は”副詞”の意味でとらえることが多く、若い方は”感嘆詞”の意味で用いる場面が多いため、コミュニケーションのすれ違いが起こっているものと、私の視点では見ています。goo辞書から引用してみると、「なるほど」の副詞・感嘆詞の意味はそれぞれ、次のとおりです。
<副詞>としての意味
・他人の言葉を受け入れて、自分も同意見であることを示す。たしかに。まことに。「―それはいい」
・その範囲でできるだけのことをする意を示す。なるべく。
<感嘆詞>としての意味
相手の言葉に対して、その通りであると同意する気持ちを表す。「―。おっしゃる通りですね」
※他の辞書でもあまり意味は変わらないため、ネットの辞書から引用させて頂きます。
原義からすれば、「目上に失礼」といったニュアンスはそもそもないのですが、そこはお相手の感じ方であり、辞達(※辞達については過去の投稿記事をご覧頂けると幸いです)なので、失礼・非礼と言葉の受け手が感じれば、たしかに失礼にはあたるかもしれません。どちらかというと、問題の本質は「なるほど!」と一言のみで会話を終わらせてしまう部分にあるような気がしています。
私もつい「なるほど」と使ってしまいがちなこともあるので、決して若い方を責められる立場ではありません。いつの時代もそうなのでしょうが、いわゆる若者ことばの特徴の1つとして”簡略化・省略化”があげられるかと思います。若い盛りは多くの人との交流が活発ですし、いろいろとやりたいこともあるので、とにかく時間がない笑 無意識のうちに「できるだけ会話は短めで」「伝わればいいじゃん」的なところは誰しも、記憶にあるものと存じます。
そのため、つい「なるほど」と一言で済ませてしまうのではないかなと感じています。もっと本質的なことをいえば、目上の方よりも知識・知見に乏しいので、多くを語れない、でも何も言わずには会話が成り立たないから、「なるほど」と言ってしまうのではないかと。私は決して、「なるほど」と口にする若い方が相手に対して敬意を抱いていないとは思っていません。が、「なるほど」だけでは目上の方に意図が伝わらず、失礼・非礼と思われてしまうのもよく分かります。
したがって、若い方に伝えたいのは「なるほど」だけで言葉を省略せず、用法にあるとおり「なるほど。〇〇さんの仰るとおりですね」と言葉を続けてみると丁寧で、決して相手を不快にはさせない。一方、ご年配の方に伝えたいのは、若い方の言葉じりに眉をひそめるのではなく、「なるほど。〇〇さんの仰るとおりですね」と言ったほうがフォーマルな場では適切だよと、寛容な姿勢で具体的なアドバイスをしてあげることを大事にされたらいいなと感じています。コミュニケーションにおける世代間のすれ違いが生じるのは、やはりより多くの言葉や人生経験のある年上が、適切なアプローチを若い方にすることにあるかもしれません。頭ごなしに、失礼・非礼と指摘するのではなく、もっと大らかな姿勢で、若い方に言葉遣いの妙をアドバイスできたら、会話もスムーズになるのではないでしょうか。会話はケンカの場ではなく、相互理解のきっかけの場と方山は思います。ある意味で「若いのだから、大目にみよう」くらいの心の余裕を言葉を教える側は養いたいものです。
「なるほど」以外では、「たしかに」や「誠に」も同じ使い方ができます。「たしかに、〇〇さんの仰るとおりですね」「誠に、〇〇さまの仰られるとおりです」、まったく不快に感じないから不思議ですね。日ごろ言葉で食べている人間なので、「言葉の中庸」「伝え方のバランス(ニュアンスの妙)」みたいなことをよく感じ取ります。余談ですが、中島みゆきの曲に「知らない言葉を覚えるたびに 僕らは大人に近くなる けれど最後まで覚えられない 言葉もきっとある」(命の別名)という一節があります。会話における言葉があくまで1つのツールであり、非コミュニケーションの部分も多分にあります。しかしながら、やっぱり言葉は相手に意図が伝わらないと、そこで会話終了ともなりかねないので、適切に用いたいものですね。皆さんにとって、何かのご参考になれば幸いです。
次回以降のテーマとして、
・第5回:「紐とヒモ」、カタカナ語の用法とニュアンス
・第6回:「綾」という言葉、言葉の綾とはいうけれど…修験道から考える言葉の綾
・第7回:「漢字の反転」、社会と会社、使われている漢字は同じなのに前後でこうも意味が違う?
などを予定しています。言葉について語り出すといつも長々となってしまいますが、たまには日常よく使う言葉を考察してみるのも、悪くはありません。よく使うからこそ、意外と言葉の意味や用法を理解すれば、日々のコミュニケーションは円滑になるものでもあります。引き続き、よろしくお付き合い頂けますと幸いです。「なるほど」という言葉をきっかけに、世代間の交流がうまく良い方向に流れると、うれしく感じています😊