ショートショート「深夜のお悩み相談室」
さぁ、ミカコのオールナイトジャパァン、お悩み相談のコーナーに参りましょ。
ラジオネーム『OLひよたん』さん、東京在住28歳女性からのメールです。
『ミカコさまこんばんは。私は今、とっても深刻な問題に直面しています。前髪をこのまま伸ばし続けるか、思いきって切るかです。彼氏は絶対に短い方が良いと言いましたが、自分では伸ばした方が似合うと思っています。どっちがよいでしょうか?』
あら、ラジオでこんな質問をされるのは斬新ですね。『OLひよたん』さんの顔を直接見られたらアドバイスもしてさしあげられるんだけれども、メールだけではなんとも……。
ミカコ的には前髪を伸ばすのもおすすめですよ。おでこを出せば、運気を呼び込んでハッピーな気分にもなれますでしょ! 一度伸ばしてみて、しっくりこなければいつでもお切りになればいいわよ。 髪なんて幾らでも伸びるんだから! ……解決しましたね。
では続いてのメールをお読みしましょ。ラジオネーム『OLひよたん』さん、東京在住28歳女性からのメールです。
『ミカコさまこんばんは。私は今、東京の会社で働いていますが、先日上司に呼ばれ、別の部署のポストが空いたから行かないかと打診されました。憧れのマーケティング部です。
けれど問題がひとつ。それは淡路島のオフィスへ引っ越すことです。東京には5年付き合った彼氏も居ます。彼にこの話をした所『断って、ここに残って欲しい』と言われてしまいました。どうしたらよいでしょう…』
これは困ったご相談ですね……。28歳の御年齢ですし、彼氏さんの方でもご結婚なんかを視野にいれてらっしゃるのかもしれませんね。でも、遠距離とはいえ今は新幹線で数時間とかじゃない。週末に会おうと思えば会えるわよ。
……そうはいっても心配ですよねぇ。分かる、分かる。
あら、このタイミングでもう一通のお便りを渡されましたので、読みますね。ラジオネーム『OLひよたん』さん東京在住28歳。
『ミカコさまこんばんは。私は5年前から取引先の方とお付き合いを始めました。ひとまわり年上の方ですが、紳士的でとても魅力的な人です。けれど先週のことです。ホテルで彼がシャワーを浴びているときに、スマホの履歴を見てしまったんです。』
……あら、イヤな予感ですね。
『彼はなんと妻子持ちでした。しかも、小学生にもなる娘が2人。私、全く気が付きませんでした、本当に。彼に詰め寄ったらあっさりと認めてくれましたが、「妻とは生活があるので別れられない。でも君とも関係を続けたい」と迫られました。私としても彼のことは好きなので、悩んでいます。もしミカコさまだったら、こんな時どうされますか。』
……うーん、お辛かったことでしょうね、『OLひよたん』さん。ただ私がはっきり自信を持って申し上げられるのは、あなたはご自分をもっと大切に扱う人を選ぶべきです。
考えてごらんなさい、もしも大きな地震が起きたとして、彼はまっさきにあなたに連絡をしてくれる? いいえ、きっと妻や子供に連絡するわ。彼はクリスマスや年越しをあなたと一緒に過ごしてくれる? くれないでしょ。じゃあ、あなたの夢を誰よりも応援してくれる? あなたの考え、趣味、容姿の変化を受け入れてくれるのかしら。お考えなさい。
ここまでのメールを読んだ限り、彼はあなたの前髪にすら意見するし、昇進も夢も応援しないクソ野郎のようですね。それでいて妻と可愛い娘2人を平気で裏切る、豚以下の下衆野郎です! そんな奴は地獄へ落ちろ!
だから『OLひよたん』さん。あなたがすべきことはどう考えても決まっているでしょ。
スマホから彼の連絡先と写真を消去なさい。そしてあなたの上司にお伝えするのです。「淡路島の仕事を引き受けます」と。
……ほら、すっきり解決しましたわ!
では、最後に今夜のミカコのおすすめソングにいきましょ。2015年に淡路島出身のシンガーソングライター、オオツエさんの初のフルアルバム「幸せでありますように」から1曲。「淡路島玉ねぎのうた」。
――軽快なサウンドで始まるイントロを想像し、弘子は涙で湿った枕に顔をうずめたまま口元をほころばせた。明日も仕事だというのになかなか寝付けず、頭の中で色んな考えがぐるぐる渦巻いていたが、こうして悲惨な現状を客観視してみると、結局は巷でよくある陳腐な話、と笑えてくるのだから不思議だ。
弘子の頭の中にだけ存在するパーソナリティ、ミカコさまの言うことはいつも正しい。
あんなやつのことはすっぱり忘れて、淡路島で新しい生活をスタートさせてやろう。そう心に誓うと、弘子は少しだけ晴れやかな気分でそのまま意識を手放し、そのうち穏やかな寝息をたてて朝までぐっすり眠った。