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音楽とわたし。

夕食の支度をしながら
頭の中でメロディーを奏でようとして

ふと
母の後ろ姿を思い出した。



母は陽気な人だ。
よく夕食の支度をしながら
楽しそうに鼻歌を歌っていたものだ。

たまに調子を外すこともあったし
何の歌だか知らない曲も多々あったけど
いつも楽しそうにしていた様子は
強く印象に残っている。

父は自分の趣味など
語ろうとすることはなかったが
母曰く、父は歌が上手なのだという。

家にあるオーディオ機器は
父が独身の頃にお金を貯めて買ったものだ、
とも話していた。



そのオーディオ機器だが
物心ついた頃には
わたしの玩具と化していた。

下の段、こどもの手が届くような場所に
カセットデッキが置いてあり
わたしは好きな時にそこへテープを入れて
音楽を聴くことが出来た。

くるくると規則正しく動く機械
それを照らす仄かな明かり
そして耳に馴染んだ優しい旋律

遠い記憶だが
心地よい時間だったと思う。



「昔はお金が無かったから
あなたはパンの耳食べて大きくなったのよ」

半分冗談めかして
いつか母が言っていた。

後から聞いた色々な話や
わたしの記憶を辿ると
完全な嘘というわけでもなさそうだ。


そんな中でも
音楽を楽しめる環境と心があったのは
とても、とても、幸せなこと。



両親がそこまで意図して
わたしを育てていたような感じはしないけれど

結果として
大人になったわたしの心を
支えてくれているのは確かだ。


こんなことでいきなり
ありがとう、なんて言われても
困らせてしまうかもしれない。

でも
彼らにわたしを思う気持ちが
まだあるならば

わたしがずっと音楽を楽しんで
幸せに生きていくことが
一番の恩返しになるだろう。



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