シークレット(エージェント)ウーマン:北宇治高校吹奏楽部のインテリジェンス
《目次》
1.クラブ活動という社会、会社のような部活《この部分まで公開しています》
2.中間管理職の中間考査
3.中間管理職、田中あすか
(1)良い雰囲気づくり/自分のペース/その場の支配
(2)直接的・間接的な指導
(3)規範の提示/規律・訓育
(4)人事評価
4.エージェント・あすか
5.シークレット・エージェント・ウーマン
1.クラブ活動という社会、会社のような部活
高校のクラブ活動は日本の社会の縮図である、なんて言っては大袈裟でしょうか。
しかし、人々が集まってできる社会の中でも、何かしらのアウトプットの生産を目的としている点で、高校のクラブは企業(会社)などに近い組織だと言えるでしょう。上下関係を内部に備え、役職に応じた任務と責任によって階層化されており、また組織として行動することを考えてみれば、そのメンバーシップが高校生であるという制限があるだけで、一つの立派な日本的な社会の典型だと言うことくらいは出来そうです。高校で部活動を経験し、その後企業に就職した人も多いでしょうから、社会人が高校のクラブ活動の物語を見るときには、遠き日のノスタルジーを感じるとともに、現在進行形で揉まれている社会や会社における何かしらのしがらみをそこに見出し、時に「あるある」的な共感を得られているケースもあるのではないかと思えます。特に個性の強い上司との(軋轢とは言わないまでも)つきあい方などは、「ああいう先輩いたなぁ」的な思いが去来する向きも多いのではないでしょうか。
会社と部活、それぞれ別個で、かつそれぞれが異なった複雑さを備えているように見えつつも、実は見馴れた人間関係が同じように存在する組織なのかもしれません。
TVアニメ『響け!ユーフォニアム2』は、高校の吹奏楽部の活動を描いた今季(2016年秋期)放送されている傑作のひとつと言えるでしょう。ということで、こちらを上の話題につなげてゆきたいと思うのです。『ユーフォ』のストーリーの面白さは、圧巻の演奏シーンのほかに、高校のクラブ活動ならではの人間関係(の機微)が活き活きと描かれているところにあるでしょう。舞台となる北宇治高校吹奏楽部は、おそらくほかの高校の吹奏楽部もそうであるように、さまざまな係が存在し、部員が何かしらの仕事を引き受けることで成り立つ組織である様子が描かれています(Ⅰ期5話)。もっとも、社会人ほど利害関係が絡むことがなく、また登場人物が主に高校生であるため、人間関係の本当にドロドロとしかねない部分については「青春」フィルターで取り除かれているので、その分は見やすくなっている面もあるかもしれません。もっとも、フィクションはフィクションとして、夢は夢として楽しめればよいのでは?……と思うところもあり、作品としてコチラをじっくりと楽しむ、そんな秋の夜長となっています。
その『ユーフォ』のクラブ活動の人間関係のリアリティの中にあって、とりわけクラブの運営、取りまとめに関わるキャラクターのなかでも、おそらく部活を社会の縮図として、あるいは他の組織と同様の問題を孕んでいる場としてはっきりと認識しているのが、田中あすかでしょう。3年生のユーフォニアム奏者、副部長と低音パートリーダーにしてドラムメジャーも担当する自称「しがない中間管理職」。そんなあすかは、本心が見え辛い、謎を持つ人物として描かれています。あすかについては、原作小説に詳しいとの指摘がなされるので、本来であればこちらにあたるのが正道なのかもしれません。しかし、小説とはまた違う形で完結した世界としてアニメが作られているとする見方もできる以上、ワタシとしては(いずれ小説も読んでみたいと思ってはいますが、ひとまず)ここでは小説との差分や補完関係からの考察は行わず、アニメからアプローチしたいと思います。
アニメに描かれている田中あすか、それだけを対象としながら、まずは彼女が自任する「中間管理職」という役職について少しほぐすところからはじめましょう。そして、まさにそれに該当する任務に彼女が当たっている場面(ユーフォ2の3話Aパート)を検証してみたいと思います。そして、あすかの吹奏楽部における役割の本質は、彼女の自称する企業の中間管理職というよりは、むしろ軍などの参謀のような役割を担っていること――より絞って言うなら、情報(諜報)機関のような仕事をしているということ――を提示してみたいと思います。より謎が深まることも予想されますが、それでも彼女のまとう底知れない謎に、輪郭線を付けてゆくぐらいのことはできるのではないでしょうか。まずは「縮図」とされている、モトの社会(=会社)の方に目を向けてみます。
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