おっさんだけど、仕事辞めて北海道でチャリ旅するよ\(^o^)/ Vol,38 熟練
2024 0826 Mon
働き始めて数年…。
理想を求めて転職を繰り返し、20代の後半からですね、わたしは広告制作会社でコピーライターとして働き始めました。
自分で言うのもなんですが、この仕事には適性がありました。売りたい商品のセールスポイントを絞り、または見つけ出し、最大限の評価を得られるような訴求方法を考え、それを媒体に落とし込む。言葉遊びでもなんでもない、合理的な思考を必要とするコピーライティングは、生涯をかける仕事に相応しい。当時、本気でそう考えていました。
しかし…。後の電通過労死事件が象徴するように、当時の広告業界というのは超激務が当たり前、という狂った業界でした。家に帰れないのは普通、24時からミーティング、お盆直前の夕方に案件を持ち帰り、お盆明けの初日にプレゼンなど、正気とは思えない進行が当然のように行われていました。
しかも、です。わたしの所属していた会社にはガチガチのメインクライアントがあり、クライアントの言うことは絶対。その広告担当者の気分ひとつで仕事が左右されるという有様でした。
ちなみに、その広告担当者は阿呆なので、プレゼン時の遣り取りはこんな感じになります。
「A案、B案、C案持ってきました。どれにしましょうか?」
「ん~。C案ベースにB案のテイストを盛り込んで…」
「わかりました」
1週間後。
「C案ベースの改善案、見てください」
「ん~。なんかピンと来ないな…。これもうちょっとここをこうして…」
「わかりました」
さらに1週間後
「C案ベースの改善案、見てください」
「ん~。なんかピンと来ないな…。これもうちょっとここをこうして…」
これをもう3回ほど繰り返す。
「ん~時間も無くなってきたな。よし、これでいこう」
「わかりました。ちなみにこれ、最初にプレゼンしたA案です!」
これ、マジです。もちろん最後のセリフは言いませんが…。本当にこんな馬鹿々々しいことの繰り返しでした。
さらに追加するなら
「OK. じゃあこれを上司にチェックしてもらうよ」
じゃあ端からそうせんかい!
そうした理不尽な出来事、そして激務の日々は、ゆっくりと、しかしながら確実にわたしの心を蝕んでゆき…。
いま思えば、解決方法はわかります。
相手にしなければ良いのです、そんな阿呆は。なにを言われても
「はいはい。わかりました」
これでよいのです。相手は広告の“こ”の字も知らない、単なる能無しなのですから。力を入れる仕事とそうでない仕事を最初に見極め、要らぬ仕事は放っておき、時間を掛けるべき仕事に注力し…。来るべき独立やステップアップのために自分に実力をつけておけばよかったのです。
なまじっか会社の仲間と仲が良く、会社もわたしを評価してくれていたので、要らぬ責任感を持ち過ぎたのですよ。
結局わたしは、コピーライティングのプロフェッショナルになることができませんでした。
苫小牧からスタートした北海道のチャリ旅。
山岳地帯をなんとかクリアし、帯広に南下。釧路から根室へ、そして羅臼から宇登呂を経由し…。網走から紋別、浜頓別と走り続け、ついに礼文、利尻を巡りことができました。
その間、チャリのメンテナンスといえば、チェーンに油を注すことだけ…。走行安定性を求め、フロント荷重をできるだけ軽くした結果、わたしの体重も含めてリアの負担が大きくなりすぎ、スポークの破損という事態に陥りました。
利尻で5日間を過ごした後フェリーに乗り…。稚内に降り立つと、その足でチャリ屋に向かいました。
稚内港から走ること5分、もう半世紀もこの地で自転車屋を営むご主人が、にこやかに出迎えてくれました。わたしの拙い説明を聞きながらチャリを観察し…。というか、チャリをじっくり観察するだけで、なにをすべきかわかるんでしょうね、大ベテランのご主人には。
「よろしければ、後学のために作業をとなりで視させていただきたいのですが…」
そんな申し出も快く引き受けてくださいました。不躾といえば不躾ですが、この申し出を引き受けてくれるだろうという自信がわたしにはありました。なぜならご主人は、知識と技術にくわえ経験を積んだ本物のプロフェッショナル。となりに客がいるくらいで手元が狂うような、そんな下手くそなことするわけがないからです。
質問攻めをするわたしに一々応えてくれながらチャリをバラし、スポークを付け替え、ベアリングにたっぷりのグリスを塗りこみ、わたしの要望を聞きつつリアブレーキシューを交換し…。チェーンをはじめとする各部の清掃や調整もついでにしていただき、なんなら40年前のチャリコレクションも見せてくれ…。
ちなみに、この日記を書いている現在。スポーク交換から1か月以上経ちましたが、リアホイールはビンビンだぜ! 絶好調です。
同じ作業をするにしても、技術が違う、精度が違う、経験が違う!
本物のプロフェッショナルというのは素晴らしい。
本当に感動しました。