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おっさんだけど、仕事辞めてアジアでブラブラするよ\(^o^)/ Vol, 71 失敗

キルギス 
2023.1003 Tue

いまから20年近く前の話です。

「もう絶対ぶつけんじゃねーぞ!」
構内に響き渡る怒号。
「…はい。すいませんでした」
続いて聞こえる、弱弱しい声。声の主は、仁王立ちの専務に向かって頭を下げていました。
“おいおいおいおい…”
絶望感に打ちひしがれ、わたしは嘆息しました。
“専務でもこのレベルかいや…”
頭を下げていたのは、20歳を迎えたばかりの新人ドライバー。怒号を発した専務は齢40くらい、叩き上げのベテランドライバー(趣味はサーフィン)。どうやら運転初心者の新人くんが2tトラックをこすってしまい、専務にこっぴどく叱られている、そんな図のようでした。

ドライバーの質、そして運転レベルやマナーは、ここ30年で飛躍的に向上しています。そしてそれは皮肉なことに、日本経済の停滞、いわゆる『失われた30年』と密接な関係があるのです。

普通免許を取得して30年弱、かれこれ10年以上は運輸業界に携わってわたしが断言します。
「事故りたくて事故るドライバーなど一人もいない!」
トラックをぶつけないこと。トラックドライバーは誰でも、そこに一番気を付けて運転しています。人にぶつけない、クルマにぶつけない、モノにぶつけない。職業ドライバーにとって、それが一番肝要です。
しかし、それを誰よりも知っておきながら、ムリめの配送時間厳守を要求する会社(上司)の多いこと多いこと。急かすだけ急かして、そして焦ったドライバーが事故を起こしてしまうと叱責。そして、その叱責内容が根性論。そんな運送会社が、2010年代まではビシバシに存在していました(現在は存在していないと信じたい)。

“事故を完全に無くすことは不可能” という認識と “事故ゼロを目指す取り組み” は両立可能です。

事故。それはすべてのドライバーにとって致命的な失敗です。しかし同時に、すべてのドライバーにとって、事故の可能性をゼロにすることは不可能です。運転席に座った瞬間から事故の可能性は否応なく発生する。それがクルマを運転するということなのです。

ですから率直に言うと、事故という失敗を犯した場合、反省も必要ですが、次善策を講じることが肝要となるのです(人身事故などは別次元の問題と仮定した場合)。つまり、次の事故を起こさないようにするための対策ってことですね。
それは根性論などとは真逆の理詰め、合理的であるべきです。もちろんドライバーの技術向上、意識改革も必要でしょうが、そもそも会社側にも改善すべきことが多くあります。
具体的に言うと、ルートや配車、積み込み方法の合理化/適正化、もっと言うと労働時間の適正化と賃金の見直しです。ここまでいくと、日本社会ぐるみの変革も要求されます。しかし、もうボチボチその時代に来ているのではないでしょうか? 少なくとも、わたしはそう感じます。

どの業界にも言えることですが、人材が集まらないのには理由があります。その理由を改善しない限り、外国人労働者を受け入れても上手く行くはずがありません。日本人と外国人、どちらの労働者も愚弄する、最悪の政策ですね。



今朝、ここ数日をともに過ごしたバックパッカー、Dちゃんが旅立っていきました。

数日前、彼と一緒にスーパーマーケットに買い出しに行った帰り、ATMでのキャッシングの際に、事件が発覚します。彼のクレジットカードが財布になかったのです。
荷物を探すこと10分、出た結論は “紛失”。
さらに考えること20分、出た結論は “空港のATMに吸い込まれた” というものでした。そして、それに気づかずに空港を後にした、と…。
海外ATMあるあるなのですが、『カードが戻ってこない』という事例がいくつも報告されています。 ※1

ミスってもいいじゃん。取り返そうよ、これから一緒に! とか言ってもらえれば、いくら落ち込んでてもすぐに回復しますよ、男なんて。

急いでホステルに戻りました。不幸中の幸いですが、わたしたちが宿泊しているホステルは、いわゆる “日本人宿”。オーナーは日本人で、キルギス人の奥さんは日本語が堪能です。
奥さんを見つけ、ビシュケク空港への電話を依頼するDちゃん。わたしは隣でそれを聞いていたのですが、奥さんの返答は意外なものでした。
「それは無理ですね」
説得を続けるDちゃん。もちろん彼は必死です。話し続けること2~3分。たまらずわたしも口を挟みました。しかし…。
「あなたが直接空港に行くべきです」
奥さんはきっぱりとそう言い切りました。
奥さんの話を要約するとこうなります。空港の職員はATM業務と関係が無い。ATMは銀行の管轄であり、空港とは関係が無い。警察は治安を守るのが専門で、忘れ物に関して空港と連携しているかどうか、わからない。空港職員と電話で話しても結果は見えている。
「わかりません」
そう答えて終わり。どんな質問をしても同じなのだということです。
「そうは言っても…」
言い掛けて、わたしは止めました。地元で何十年と暮らす奥さんがそう言うのです。ベストではないにしても、この地ではそうするより方法が無いのです。

郷に入りては郷に従え。その国にはその国のやり方があります。贔屓目かもしれませんが、そのあたり日本人はけっこう柔軟に対応している気がしますよ。

今朝で、事件発覚から数日が経ちます。
あの後、もちろんDちゃんはすぐさま空港へ直行。しかしカードは見つからず。奥さんに依頼し、銀行へATMの調査を依頼。「週明けにATMを開ける」というのが銀行側の回答。週明け、はたしてカードは見つからず。しかし、もう1つ別の場所にあるATMは数日後に開けるとのこと。予定に間に合わず、Dちゃんはやむなく出発したという訳です。

わたしに当座の金を借りたDちゃんは、申し訳なさそうに頭を下げました。そして、しきりに自分の迂闊さを反省をしていました。
わたしは言いました。
「しゃーないやん」
慰めでも気遣いでもなく、これは本心です。
『海外キャッシングでは、特にカードの抜き忘れに注意する』
こんなの、わたしでも知っている超基本的な確認事項です。Dちゃんは熟練ではないにしろ、ブラジルはリオなどにも行ったことのあるバックパッカーです。長時間のフライトにクタクタになり、普段ではありえないミスを犯してしまった…。
油断---。言ってしまえばそうかも知れませんが、いやいや、1000回に1回のミスがたまたまDちゃんの身に降りかかってしまったのです。労りこそすれ、それを責める資格などわたしにあるはずがありません。

細かいこと言ってもキリがないから、テキトーに楽しむのが一番ですよ。知らんけど…。

仕方のないこと。そういうことってありますよ、やっぱり…。
しゃーないですやん。
だって、バックパッカーだもの。

※1. あとで知ったことですが、キルギスのATMではカードを抜き忘れた場合、いくらかの時間を経ると “盗難防止のため” ATMに再度吸い込まれてそのまま保管することがあるらしいです。

『君ィ、空手をやりたまえ!』 大山倍達は、どんなに深刻な人生相談をされてもそう返答したそうです。それって、案外真理かもしれませんよ。


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