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組織を「見立てる」~華道からのアナロジー

2022年8月からいけばな草月流を習っている。2024年10月にようやく2級を修了した。まだまだぴよぴよレベルである。いけばなには、数百ほどの流派があり、その中でも三代流派と呼ばれているのが「池坊」「草月流」「小原流」である。わたしは、現代アートが好きで、旅先でもだいたいその国の現代アート美術館にふらりと立ち寄ることが多い。「あ、そうだ、華道やろう!」と思いついたとき、最も現代アート的だと思ったのが「草月流」だったこともあり、草月流を学ぶことにした。
日本の伝統的な修行や学びのプロセスとして「守破離」というものがある。最初は型や規範を守り、その後それを破り、最終的には自らの独自の道を離れて進む。4級からスタートし、3級までは、まさに「守」だった。教科書通りにいけないと、先生から「よく教科書をみなさい」と言われた。しかし、2級にはいって、花材と教科書のレッスンページが与えられ、細かい手ほどきがない。とっても戸惑う。どうやっていけていいのか、イメージが湧かない。困った。そもそもイメージが湧かないのはなぜか。単純にパターンをあまりにも知らないことに気づき、インスタで草月流のめっちゃいい感じでいけている人たちをフォローし、大量にいけかたのパターンを脳内インストールした。そして、その後のぞんだレッスンでは、先生から「急に上達したわね」と一言。嬉しい。「インスタでパターン認識学習してきました!」といったら、「そうよ。一人の人間の想像力なんてたいしたことないんだから、いろんな人の作品を観ることが大事ですよ」と。おおお、「破」では、学び方もいちいち教えないのだと、ちょっと感動した。しかし、道の先には道があり、「守」の型を正しく学ぶフェーズから「破」へようやく移行できても、うまくいけれず悶々とすることはしばしばある。

面の構成

華道をはじめて、あることに気づく。それは、本業としてやっているピープルアナリティクスにアナロジーとしてヒントになることが非常に多いということだ。
最近、これは!と思ったアナロジーは「たてる」である。平安時代に書かれた日本最古の庭園書である『作庭記』に、庭石の主となる石には「たてる」、その他の石には「据える」という表現を使っている。「たてる」は神に対しての意識であり、「据える」には人の住むところの意味合いがある。中央にたてた石は、天と地、太陽と人間をつなぐ役割があり、それを囲む石は結界として人間の世界をあらわす。華道にも「立花(りっか)」といういけかたがある。立花は、自然の美しさや調和を象徴する構造的かつ厳格な花のいけかたである。立花の美しさの一つに「左右非対称」というのがある。フラワーアレンジメントは、結婚式の花嫁のブーケなどがそうだが、シンメトリーなものが多いが、いけばなは、不均衡の中に調和が見いだすところがあり、立花はアンシンメトリーさの中に動きと静けさの両方が感じられる構成となっている。

足元をみせる構成

ピープルアナリティクスでは、組織を「見立てる」ことをまず最初に行う。組織を「見立てる」とは、組織をただ単に構造や役割の集合体として捉えるのではなく、ある意図や理念に基づいて、その組織に象徴的な意味を与えることだ。
経営者(社長)は、組織の「たてる石」に最も近い存在である。経営者は天と地をつなぎ、ビジョン(天)を定義し、それを実務(地)に落とし込む最も重要な役割を担う。
役員は、経営者のビジョンをサポートし、それを各部門や事業に展開するための中間的な存在である。経営者が定めたビジョンを実際の業務に反映させる「据える石」として、具体的な戦略を実行する。
マネージャーは、実務を担当するチームや個人に対して、役員から伝えられたビジョンや戦略を具体的な業務に落とし込む役割を担う。マネージャーは「据える石」の中でも、現場に近い存在として、実際の業務における調整やサポートを行う。
結界は、組織でいえば、役割分担やコミュニケーションの境界になるだろうか。社員一人ひとりが自分の役割を理解し、適切な境界を保ちながら他者と協力することで、組織全体が調和的に機能する。
非対称のバランスと動的な調和は、すべての社員が同じ役割などを持つ必要はなく、それぞれの特性や能力に応じた配置が求められることに似ている。均質な社員なんて存在しない。だから相互に補完し合うことで全体のバランスを保つ。異なる役割や能力を持つメンバーを効果的に組み合わせることが、組織的な調和を生み出す。
自然と人間の調和は、いけばなでは自然の力と人間の手が調和して一つの美しい作品が作られるのと同様に、組織においても人の成長や創造性を尊重しつつ、経営の手で組織全体を導く必要がある。ただ、人間の手が強すぎても、自然(社員の自発性)が軽視されてもいけない。経営者と社員の自発性がバランスよく結びつくことが大事だろうか。
花をいけるとき、その季節に存在している花材とその場にあった花器を使って、即興でイメージし、いけていく。同様に、ピープルアナリティクスでも、その組織のビジョンや描きたい未来をどう立てているか、現場のどう据えられているか、そこから組織を見立てて、分析を行っていく。同じ花材を使ったとしても、同じいけかたにはならないのと同様、組織も人の集合という意味では同じだが、同じ形は一つとしてない。
ピープルアナリティクスを実践する際に、華道に学び、そのアナロジーを取り入れると、組織の構造や運営に対する視点がより象徴的かつ体系的に深まるなと感じる日々である。

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