千花物語
文学作品や絵画、映画などに現れる花や植物の持つ力を、作品の中から掬いだして生ける
いつも千花物語をご愛読いただきまして、ありがとうございます。 はじめましての方、たくさんあるnoteのなかから、千花物語を訪問くださいまして、ありがとうございます。 千花物語では、季節の移ろい、草花のある暮らし、思い出の本や映画、古典文学とそれを巡る旅、人文の知など、心に浮かんだ想いに随った文筆活動をしています。 タイトルの「千花物語」とは・・・ 中世ヨーロッパでは、城内の寒さをしのぐため、女たちがそれぞれの家に代々伝わる物語や歴史を描いたタペストリーをつくりました。そ
今回、書き下ろした『ガドルフの百合』の“枕”の部分を、校正紙でちらみせ。 さて、先日「文庫本サイズの単行本にこだわった」とお伝えしましたが、もう一つのこだわりは文字の大きさ。 メインの読者層は、私と同じ世代の方を想定していますので、目にやさしい文字の大きさや書体にしたいと思いました。 デザイナーの方からのご提案で、1ページ当たりの文字数を減らして行間をとりつつ、文字を大きめにしました。 通常の文庫本は1ページあたり38〜40文字×16〜17行くらいなのですが、 本書
10/25発売予定の書籍『鬼がこの世にただひとり、生きた証を刻みつける花』で、どうしても実現させたかったのが、文庫本サイズの単行本であること。 携帯性があり、女性の手に馴染みやすい本をつくりたかったのです。 自身の生活を振り返ってみても、本を読めないときというのは、毎日の生活のあれこれに忙殺されて、改まって本を読む時間がとれないときです。 私は高齢の母の病院付き添いの待ち時間や移動の電車の中で、本を読むことが多いのですが、一般的な四六判の単行本だと、カバンに入れると重く
2020年7月から2022年10月まで、約2年半にわたりご愛読いただきました「物語の“花”を生ける」シリーズが、書籍として出版されることになりました。 上記で公開した16本のうち、12本に加筆・編集を行い、1本を新たに書き下ろし、計13本をまとめました。 タイトルは、コンテンツの中の1本を表題作として選びました。 長い間、皆さまにご愛読いただき、SNSを通じて「本シリーズは紙の本で読みたい」とのお声をいただき、それに支えられて、なんとかここまでくることができました。改め
昨年末(2023年)の12月23日(土)にお正月飾りを束ねるワークショップを開催しました。 遠いところまでお越しいただき、ご参加くださった皆さまには改めて御礼申し上げます。 今回は、季節の流れが陰から陽に転ずる季節(冬至前後)のエネルギーが凝縮されている植物の青々しさ、みずみずしさ、力強さなどを感じることで、新たな年を迎えていただきたいと思い、準備を進めていきました。 「お正月」というと、皆さまにとってどのようなイベント、行事、歳時でしょうか。 年末年始のお休みを利用
今年も残すところ1カ月となりました。 年末に向けて気忙しい季節をお過ごしのことと思います。 12月8日、関東では「事始め」といい、歳神様をお迎えする準備が始まります。大掃除などで身辺を清浄に整え、25日の朝には歳神様が宿ると言われている門松や松飾りなどを飾ります。 今回のワークショップでは、その歳神様をお迎えするための飾りを、ヒカゲノカズラ(写真参考)という日本神話にちなんだ植物を使って、作ります。 日本神話では、アマテラスが天岩屋戸に隠れてしまったとき、アメノウズメ
11月4日(土)に花のワークショップを開催しました。 遠いところまでお越しいただき、ご参加くださった皆さまには改めて御礼申し上げます。 日々の花生けでお稽古の先生や私自身が大切にしている、以下のことをお伝えできる会にしたいと思い、準備を進めてきました。 ・この季節ならではの草花や枝葉に触れる。 ・自然の草花や枝葉の生命力(青々しさ、みずみずしさ)と移ろい(色の変化、状態の変化)を感じる。 この季節の草花や枝葉は春から夏にかけてぐんぐん成長し、花を咲かせ、実をつけた伸び
朝夕のひんやりした空気が心地よい季節となりましたが、いかがお過ごしでしょうか。 夏の陽のひかりをたっぷりあびた草花や枝木たちは、のびやかに今実りの季節を迎えています。 そんな草花・枝木たちと触れ合う時間を持っていただきたいとの思いから、ワークショプ「花に逢う会」を開催することにいたしました。 開催にあたって気持ちを少し 今回の開催は2019年11月の初回開催から、4年ぶりとなります。 2020年2月、花の活動がこれからというとき、未曾有の世界的な感染症が猛威をふるい
連載シリーズ 物語の“花”を生ける 【プロローグ】はこちらから 第16回 『彼岸花が咲く島』(李 琴峰)ある年の9月、連休に両親がふたりだけで格安のバスツアーに出かけた。例年、8月のハイシーズンを避けて9月に夏休みをとって、両親と私の3人でちょっとした旅行に出かけるのだけれど、その年は仕事の都合で私の休みがとれず、両親だけで行くことになった。 父も母も高級な旅館やホテルに泊まりたいとかいいものを食べたいとか、これが観たいといった旅へのこだわりはほとんどないのだが、車を持っ
連載シリーズ 物語の“花”を生ける 【プロローグ】はこちらから 第15回 『片腕』(川端康成)、『くちなし』(彩瀬まる)学生時代、飲み屋で友人たちと近現代の日本の作家で好きな作品を酒の肴にすることがよくあった。文学部で日本文学について学んでいたので、そういうことに一家言ある人たちが集まるわけで、飲み会の終盤はそういう話題で盛り上がった。それぞれの話しは面白いのだけれど、平安時代の物語の研究を志していた私には、あまり得意ではない話題だった。 日本文学を専攻しながらこんなこと
連載シリーズ 物語の“花”を生ける 【プロローグ】はこちらから 第14回 『桜心中』(泉鏡花)以前、勤めていた職場の向いに、ちょっとした古めかしいお屋敷があった。 木の塀に囲まれた緑豊かなお屋敷で、春には見事な桜を塀越しに見ることができた。欲張りな私たちはお屋敷の庭が真上から見渡せる上階の会議室でランチをしながら、ガラス越しのお花見を楽しんだ。 夏にはお屋敷の鬱蒼とした木々に生息する蝉の声がきこえ、池があったのか、沼臭いというか、苔が暑さで蒸されたような匂いがした。クリ
2011年10月、当時勤務していた職場のサバティカルという休暇制度を使って、2週間、イタリアのトリエステ、ヴェネツィア、ミラノを旅した。休暇制度には、休暇を使って取り組んだことを全社メールで報告するという約束事があり、旅の記録を以下のようなレポートにまとめた。 いつかこのnoteでも、その旅について書きたいと思っていたのだが、書きたいこと、書くべきことなどが湧き上がってきて、その時間が回ってこない。あっという間に10年の年月が経ってしまい、思い出せることにも限りがあるので、
連載シリーズ 物語の“花”を生ける 【プロローグ】はこちらから 第13回 『森は生きている』(サムイル・マルシャーク)BOØWYやプリンセスプリンセスなどのロックバンドが流行した高校時代、文化祭はコピーバンドの演奏で幕を開けた。 文化祭では、音楽や演劇などの舞台系の出し物と、模擬店やレクリエーションなどの展示系の出し物があり、舞台系は近隣の大きな公会堂を貸し切って、展示系は校舎の教室を使って、それぞれ別日程で開催された。 自由な校風で、今では信じられないくらい生徒の自治
連載シリーズ 物語の“花”を生ける 【プロローグ】はこちらから 第12回 シャネルのカメリア卒論を提出した大学4年の冬、同級生たちとヨーロッパへ卒業旅行に出かけた。今の大学生たちに卒業旅行なるものがあるのかどうかはわからないが、社会人になると長い休みはとれなくなるという理由から、学生最後の休みを利用して、アメリカやヨーロッパを2週間ほど旅行する学生が多かった。 私たちもロンドン、ローマ、パリを旅した。初めての海外旅行で観るもの、聞くもの、食べるものすべてが日本の何かとは違
連載シリーズ 物語の“花”を生ける 【プロローグ】はこちらから 第11回 『源氏物語』 朝顔の巻 駅の改札で待ち合わせをしていると、女子高生がふたり、向こう側から歩いてきた。 眩いばかりのエネルギー、この瞬間にしかない生命のきらめき。 その年齢にあるときは気がつかなかったけれど、私の人生にも、きっとそんな一瞬があったのだろう・・・。 そんな気持ちで近づいてくるふたりを眺めていると、そのうちのひとりが、大学時代の先輩に雰囲気が似ていることに気がついた。顔の造作が美しいと
連載シリーズ 物語の“花”を生ける 【プロローグ】はこちらから 第10回 映画 『ひまわり』(監督:ヴィットリオ・デ・シーカ 主演:ソフィア・ローレン、マルチェロ・マストロヤンニ) トリエステのロンキ・デイ・レジョナーリ空港(通称 フリウリ=ヴェネツィア・ジュリア空港)に到着したのは、空にまだ、オレンジ色のグラデーションが残る時間だった。 薄暗いターンテーブルところで荷物が出てくるのを待ちながら、荷物を取り上げて出口に向かっていく人々を眺めていた。ローマから同じ飛行機に乗