旅の記憶と音楽と
すっかり一人旅なんかできる状況でも環境でもなくなってしまったけれど、私は一人で出かけるのが好きな方だ。あいにく運転は不得手なので、高速バスやら電車やら使って時々数日の旅に出ていた。
旅先での食べ物にこだわりがない方で、ぶっちゃけコンビニ飯でも十分だ、むしろ慣れない気温の地域では食べ慣れたチェーン店などの方が安心してしまう。地域特有の食事を求めるのなら、地元スーパーに行くほうがずっと楽しい、そう思っている。そしてその分の時間とお金を美術館や博物館に使うのが好きだった。そして移動に速さを求めていない。電車やバス、レンタサイクルなんかも駆使しながら街を歩くのである。その時のお供が音楽だった。
普段はアーティストもアルバムもシャッフルで流してしまう方だ。今はサブスクがあるので、その日の音楽みたいなのを適当に流すし、この状況になってから在宅勤務の日はCATVで音楽チャンネルを流している。
でも、旅の時は別だ。なるべく色の付いていない、聞きこんでいないアルバムを、聞き込んでいないアーティストのアルバムを準備する。旅の間中そのアルバムを聴き込むのだ。
先日youtubeを流し聴きしていたら、ZARDのTODAY IS ANOTHER DAYに当たった。その瞬間、しばらくの間思い出すこともしていなかった10年以上前の夏の記憶が蘇った。北見網走を旅した2泊3日の旅。高速バス、オホーツク流氷館、塩焼きそば。
たむらぱんを聴けば狭い北斗星の寝台を思い出すし、moumoonを聴くと暑い大阪の夜を思い出す。さらに考えてみると、出産以降朝ドラをずっと見ているので、絢香の「にじいろ」のイントロだけで新生児だった頃の息子の重さを温もりを思い出すことができるし、逆に辛かった思い出が湧き上がる曲もある。
記憶を呼び起こす装置として、音楽を使う。人によっては味なのかもしれない。匂いなのかもしれない。でも、五感には確かに何かをメモリーする機能が備わっているのだと思うのだ。今度一人旅に行くことがあれば、どんな音楽を連れて行くか楽しみにして、この状況を乗り切りたい。