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神様からの贈り物(前編)

誕生日に短い小説を書きました。

「神様からの贈り物・前編」

春の陽射しが感じられるが北風が冷たい。
私の誕生日はいつも寒いなと独り言を言いながらフラワーアレンジメントの用意をする。フラワーアレンジメントを習い始めて20年近くになるが全く上達しない。
大好きなのに覚える気がない。
フラワーアレンジメントは全くの趣味の時間で心癒される時間を過ごしている。覚えて人に教えてみたいという気持ちが1ミリもないのだ。

今日はナミちゃんと久しぶりに会う日だ。
ナミちゃんとはフラワーアレンジメント教室で出会った70才の可愛い友達だ。
フラワーアレンジは一見自由に見えるが、色々な流儀があり、基本がある。
私のフラワーアレンジの先生の師匠は日本にイギリスのフラワーアレンジメントを取り入れた超有名人だ。
フラワーアレンジの世界は大変厳しい。
講師になろうとする人は古くから在籍する先生に教わることになる。
年配の彼女たちは「一から十」の「一」しか教えない。講師になる人たちは、一を言って十をわからなくてはいけない。
一しか教えないのにニが出来ないと「やる気あるの?帰りなさい」となる。
ニから十は、必死で自分で勉強し、頭に叩きこむ。いや、手に叩きこむ。
叩きこんでから教室に入る。
そうしなければ講師にはなれない。

ナミちゃんが教室に初めて入ってきた日。
「あたし自由にやりたいの。縛られるのは嫌なの。自由科に入りたい!」
自由科?
私は基本科を終え、上級科に在籍している。
自由科なんて聞いたことがない。

「今日はひな祭りアレンジのレッスンをします」
先生は用意していた花材を私に渡す。
先生はすでに花材を選び適切な数を一人一人に用意している。
先生のセンスは抜群で、可愛い花の色合いが素敵だ。

「先生!先生の花材置き場からあたし、探したい!」
ナミちゃんは言う。
ナミちゃんは用意した花材ではなく、自分で選びたい人なのだ。

ナミちゃんはすぐに花材を選ぶ。全く迷わない。

「ナミちゃん、そんなのどこにあったの?」
私も先生の花材置き場は見ているのに、私の目では探せないものをナミちゃんは瞬時に探し出すのだ。

私がアレンジをしていると、ナミちゃんはチョキチョキ、全部のお花を短く切る。花だけ。つまり、茎の無い状態だ。
短く切ったお花をリースにボンドで貼り付けていく。
すぐにナミちゃんのリースは春爛漫のお花畑みたいになった。
「先生見て!あたしの可愛いでしょ?」
ナミちゃんは自己を肯定する。
私は自己肯定が苦手だ。
「私の作品なんて」とすぐ言ってしまう。
しかし、ナミちゃんは違う。
あたしの可愛い!みんな見て!
と大きな声でみんなに声をかける。

ナミちゃんは数年前にある生け花教室に通ったことがある。
私も息子が幼稚園に入った頃、生け花を学びたいと思い、息子が幼稚園に行っている間に習っていた。
生け花の世界は花型法がある。
「真・副・控」を基本とする。初心者は植物の傾きでどのように線と面と空間のバランスを取るか構図を学ぶ。
その際、頭部が重い花や、花器から大きく張り出させる枝を倒れないよう留める技術なども習得する。
そして面白いのが「写真を撮らない」
自分がどんな風に生けたかを記録に残すには写真を撮らず、絵を描かなくてはいけない。
私は絵が得意ではなく苦労したが、辞めるまでの最後のレッスンの頃には「絵の時間」が好きになった。

ナミちゃんは「真・副・控」(しん・そえ・ひかえ)というのも好きではなかったらしい。
私の先生は年配の方だったので、おっしゃることが昭和であった。
「真は主人、それを支えるのは妻、それが副(そえ)です。
真がぶれていないか、前に向かっているか、心を見つめるのに必要な事です。副はいつも真をみているのです。さらにそえの後ろにはひかえを生けます。家庭のバランスに似ています」

私は先生のおっしゃる事を成る程と思って聞いていた。私も古いのである。

しかしナミちゃんは自由人だ。

生け花は真・副・控を守り、花の長さを守らなくてはいけない。
ナミちゃんは何とか花型法を守り、生けていたが間違いを先生に指摘される。
自分が生けた花を先生が全て取り去り、生け直すのが許せなかった。

それじゃあたしが生けたことにならないじゃない!

ナミちゃんは先生と喧嘩して、3ヶ月で生け花を辞めてしまった。
(続く)

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