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ちょっと長めの図書紹介㉓

いきなり長文を引用──
「日本社会では
 新自由主義による市場化が進み、
 子どもたちは学校生活のなかで
 『効率的に』働く
 人間づくりをめざす社会に適応できる
 『能力』を育成されている。
 それを『インクルーシブな』教育と
 呼ぶことへの違和感。
 学校生活が終われば、
 勤務先、仕事の種類、収入、
 さらには子どもの学校などで
 人と社会は分断され、
 一人ひとりが可視化できる社会は
 どんどん狭くなっていく。
 人は『関心領域』のなかでしか
 生きられないようになっていく。
 とくにマイノリティとして
 生きざるをえない人びとは、
 関心をもたれなくなり、
 結果として多くの人びとが
 人間としての権利や自由を失い、
 分断と孤立が進む」
「このような社会状況で、
 閉塞感が若者たちから
 日本社会への期待や希望を奪っている。
 そんな分断社会から抜けだすには
 どうすればいいのか」(pp.313-314)

そのアンサーこそが本書であり、
編著者/青砥恭氏を含めた12人
それぞれが示す改善へのコンパスであろう。
切り口やその方向性こそ多様であるが、
キーワードはコモンズ──
(共有資源を共同管理する仕組み)
■https://www.koueki.jp/dic/hieiri_323/

青砥氏は本書の役割を
「若者たちを分断と孤立感に覆われた
 閉塞状況から解放するために、
 地域社会に自治と連帯を生みだす
 地域づくりの実践モデル、
 ローカル・コモンズの形成に希望を
 見出している」と述べた(pp.314-315)。

以上、
本書の意義すべてがここに集約されている。
あわせて、
「さいたまユースサポートネット」の
紹介動画を視聴すれば完璧である。
■https://www.koueki.jp/dic/hieiri_323/
これだけでページをめくりたくなるだろうし、
じゅうぶんに紹介したと考えられるだけ
的確にまとまっているといえるだろう。

──でも「ちょっと長め」シリーズであるし、
もう少しだけ各論を紹介していこう。

本書は、
「子どもの貧困、15年、
 こども家庭庁に求めるもの」をテーマに
 2023年の秋から2024年の春にかけて、
 11人の研究者、
 実践者に参加していただいた
 さいたまユースの連続講座」を
書籍にしたものである。
■https://saitamayouthnet.org/
構成は
以下のとおりである。

序章、
さいたまユースサポートネット代表理事の
青砥恭氏による、
貧困とワーキングプアのいま、
そしてそれらにかかる問題提起から始まる。

Ⅰ部は、「5つの視点」として、
子どもの貧困、
15年の課題という枠組みで
5人の報告が用意されている。
まず、社会政策の立場から阿部彩氏が
「貧困解消」と「研究」のかかわり、
宮本みち子氏は、
子どもを含めた若者政策の課題と展望、
福祉政策からは宮本太郎氏が
「全世代型社会保障」のゆくえをまとめ、
木下武徳氏は社会福祉の立場から
「貧困問題と市場化」を分析し、
教育学からは児美川孝一郎氏が
「学校教育の貧困」を説いた。

Ⅱ部では「5つのアプローチ」として、
いのちを支える場と支援という枠組みで
同じく5人が報告している。
児童精神科医の早川洋氏は、
「児童心理治療施設」からみた
「子ども・家族・社会」について、
ひとり親の支援活動をしている
赤石千衣子氏は
「コロナ禍以降のひとり親家庭」を記し、
SSWスーパーバイザーとして活躍されている
福島史子氏は、
「子どもの困難」を
スクールソーシャルワークから示し、
教育学から、
磯田三津子氏は
「外国につながりのある子どもの貧困と孤立」
柏木智子氏は、
「学習支援とケア」「学校の役割」
をそれぞれ報告している。

その後、
認定NPO法人「こどもの里」理事長である
荘保共子氏と青砥恭氏による対談──
「ど真ん中にあるべきは、
 ひとりの子どもの命と権利」が収録され、
終章として青砥氏
「子どもの貧困とローカル・コモンズ」を
改めて説いている。

もうすでにお腹いっぱいであり、
筆者の紹介文より
本編を読みたくなっているだろうこと
想像に難くない……が、
ここまで書いたので
もう少しフィーチャーした紹介を入れて
終わりとしたい。

ひとつひとつの報告から
考えさせられることは多いが、
事務職員として1本ピックアップをするなら
柏木智子「学習支援とケア
──貧困対策としての学校の役割」だろう。
柏木氏は、
こども基本法の施行により、
子どもの権利やウェルビーイングは
保障されているかを問うている。
大切なことは「ケア=愛情」を受けているか
また社会とのかかわり「つながり」であるとし、
子どもの「身体の安全」を保障し、
そのうえで「気持ちの安心を保障」するという
権利保障のありかたを説いている。
そのなかで
「貧困状態にある
 子どもの学校生活」(pp.250-255)では、
「物質的剥奪状態」を問題にしている。
それは、
「ノート、鉛筆、絵の具」が準備できずに
満足な学習ができないことや
「体操服」を準備できずに体育を見学する。
また、DVから避難したときに
「教科書」がもってこられないという、
その困難な学習状態を紹介している(p.250)。
前者は就学援助制度を活用してほしいし、
後者も限定的に無償給与制度が利用できる。

事務職員も
子どもの権利を保障する職であり、
その当事者意識をもって
「コモンズ」をつくりだしていくことが
求められるだろう。
また、
「学習用品はすべて貸し出しを
 することができるようにする」(p.261)
という提案もある。
このことにより、
「忘れ物をせざるをえない
 子どもの学びの参加の機会」が保障できるし、
「忘れ物をして学べないという
 状況をつくりだすシステム自体が特異」
 であるとしている(pp.261-262)。

「貸し出し」を機能させるには
当然だが大きな予算が必要になってくる。
しかし、
予算があるかないかというだけではなく
子どもの未来を考え、貧困・孤立から
子どもを守るためにも
理想の構想は不可欠である。
できない理由はいくらでも並べられるが
できることから少しずつでも広げていくことが
教育現場で子どもの権利を保障していく
小さな一歩となるだろう。


編集担当・北山理子さま、
ご恵贈ありがとうございます。

#貧困
#孤立
#コモンズ
#さいたまユースサポートネット
---
http://www.tarojiro.co.jp/product/6512/

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