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ちょっと長めの図書紹介⑮


増田真由美さま
第20回学事出版「教育文化賞優秀賞」受賞
おめでとうございます。

受賞論文
「子どもの学びを広げる事業
 マネジメントモデルの構築」(pp.10-26)
その全文が本書には収録され、
それに加えて増田さまの貴重な実践
「財務マネジメントと
 地域協働による学校図書館
 リニューアルの実践」(pp.26-41)
も掲載されている(第1章)。

増田さまは、
公立小学校の事務職員であり
学校運営主査という職にも充てられている。
事務主事や事務主査という補職名、
省令上の事務主任や事務長という
職の発令が多い事務職員であるが、
京都市では「事務」の代わりに
「学校運営」という熟語を充てている。
(「事務」という言葉が嫌いなわたしは
  京都市に異動したい──と、常々w)

本書に掲載された実践を支えているのは、
リソースマネジャーという理論である。
「リソースの調達や開発、
 マネジメント等を担う
 リソースマネジャーとして、
 事務職員が事業の計画段階からかかわり、
 協働して運営していくことで、
 教員や教頭の事務負担を軽減するとともに、
 財務をつかさどる事務職員の専門性を
 生かしてより有効にリソースを活用し
 内容の充実を図っていくこと」(p.12)
と整理される事務職員の専門的綱領、
実践や行動の指針ともいえる。
リソースマネジャー理論の展開を
ベースとしたマネジメントモデルに
落とし込んだ実践が冒頭の両実践である。
前者は、伝統文化体験事業(茶道体験)
後者は、図書館リニューアルを介して
具体的に述べられている。

増田さまの実践は、
学校に令達された予算を効果的に使って──
という実践に留まらない。
リソースマネジャーとして、
ヒト・モノ・カネを有効活用させるために
「制度」というもうひとつのリソースを
フル活用しているところが意義深い。
「学校経理の日」
「SFM(School Financial Management)」
「物品有効活用システム」
「費目調整」
「みやこ学校エコマイレージ」などは、
京都市独自の学校財務制度である。
(詳細は「コラム」などを参照)

さまざまな制度(リソース)を
適切にフル活用(マネジメント)することは
かんたんなことではない。
それらの制度自体を知っていること、
さらには熟知していなければならない。
その前提があり、
各種制度と現場の課題をマッチングするための
インスピレーションも重要になってくる。
日々、課題意識をもった
学校財務マネジメントを展開している
増田さまならではの成果だろうと考える。

しかし、
この実践を支えたのは
増田さまのパーソナリティだけではない。
そもそもリソースマネジャーといえど、
リソース(制度)そのものがないと
始まらないし、
その制度を活用していくための組織や
個人の意識、能力、
立場などの形成も重要になってくる。
それらは以降の章が担当している
どれも実践を根底から支えるリソースだ。
 学校事務研究会や研修制度(第2章)
 学校財務制度の改革(第3章)
 学校事務支援室の創設(第4章)
 学校間連携の実践(第5章)

第2章では、
京都市の学校事務を牽引し、
教育委員会とも繋がりを強めてきた
学校事務研究会の確立と発展──
その全貌が小槇博美さま(元・指導主事)
によって書かれている。
それとともに1986年
「全国初の学校事務の指導主事」(p.49)が
置かれた経緯や効果、そしてその波及──
1990年「学校事務の研修指導員」の
設置による研修体系の確立も書かれている。
個人の能力や
立場の形成に関与したと整理できる。

続く第3章は制度改革の功績者
有澤重誠さま(学校事務支援室長)の
実践が収録されている。
「合算執行制度」
いわゆる総額裁量予算制度の導入や
「図書室の電算システム」
図書ナビゲーションシステムの予算化
「財務会計システム」の稼働により
資金前渡制度の見直し、
「新教育システム開発プログラム」では、
文部科学省からの委託事業を引き受け
保護者負担経費に係る会計システム、
学校物品有効活用システムの開発
さらには
現場の実践を支えるために、
前述した京都市独自の制度も開発されている。
学校財務に触れたことがないひとは
ピンと来ないかもしれないが、
これらの制度は時代の先端を走っている。
学校財務を
マネジメントしていくことはもちろんのこと、
学校財務の自律性確保と
公費保障の拡充にも欠かせない制度である。
それらの全国展開を遅らせている理由は、
教育行政と教育現場が遠いことにあるだろう。
有澤さまのように、
つねに教育現場を意識した改革が
教育行政には求められるし、
逆に現場からも
行政に対する課題の橋渡しは必要なのだ。

第4章は、
学校財務改革の基盤となった
学校事務支援室の創設について
川井勝博さま(元・室長)が書かれている。
1998年度に新設された
学校経理係の誕生から経理の電算化、
それに伴う現場の変化に対応する研修の経緯
川井さまの丁寧な対応やご尽力がみえてくる。
ワープロ全盛期にパソコンの導入──
先進的な実践を
トップダウンで実行するだけではなく、
現場に寄り添った改革は有澤さまと重なる。

しかし、である。
制度があってもそれを活用できる
活用しようとする現場でなくてはならない。
増田さまのような考えや実践を広げたのは
水口真弓さま(主任指導主事)である。
政令指定都市である京都市、
大所帯の改革に立ち向かうのはたいへんだ。
いまでは有名であるが
京都市の学校間連携を
試行から定着させたのは
学校事務研究会で
当時研究部長をされていた水口さまである。
本書でもその難しさを述べている(p.115)。
 ①政策の進行・進展方法(手順)
 ②業務範囲を地域の学校まで拡大(視野)
 ③事務職員の業務連携(協働)
この3点は現在でも課題に感じている
事務職員や共同実施(事務室)は多いだろう。
水口さまが始めた第一歩は
「互いを知る」ことであった(p.116)。
換言すれば「自己覚知」ともいえるだろう。
そのために
「単なる意見交換だけでなく
 実際に互いの業務を共有する」こと
具体的には「就学援助」や
「給与三手当」の相互点検業務を通して
「コミュニケーションの
 取りやすい雰囲気」を醸成していき、
「互いを知る」ことから
「ともに課題に向き合う」ことへと
高めた実践は感服しかない(p.119)。
「『子どもの学びを広げる
 学校事務職員の挑戦」(p.132)が
どこの学校でも定着していく日は近いだろう。
……と、文章で書くのは容易だが、
じっさいにはたいへんな苦労だと想像できる。
──感服(2回目)。

本書の実践、
そのすべてに繋がりがあることを伝えたく、
少々長い紹介文になってしまったが、
各章の執筆者そのだれが欠けても
いまの京都市はなかっただろう。
すべての執筆者から
抽出しておきたい重要なポイントがある。
それは「当事者意識」であり
「自分事」として京都市の教育行政を担い、
教育活動と子どもの未来を繋げていることだ。

「刊行に寄せて」と題した、
教育長の巻頭文を紹介したい。
「多様な子どもを誰一人取り残さない
 持続可能で豊かな学びの実現に向け、
 市民ぐるみ・地域ぐるみで
 『一人一人の子どもを徹底的に大切にする』
 教育の歩み」(p.4)
この文章を本書の執筆者は、
自身の課題として捉えているといえるだろう。

いままで学校事務関係の書籍に
教育長が執筆をしたことはあったであろうか。
これをきっかけとするためにも
各地の教育委員会に本書を届けたいものだ。
今日現在(7/31)で
1,724市区町村そのすべてに送るとしたら、
350万円必要だが……、
本書の実践や制度改革を参考に
各地のそれが進んでいくなら安いものだ。
教育効果への期待はその何倍にもなるだろう。

京都市から学ぶことは多い──。

編集担当・若染雄太さま、
ご恵贈ありがとうございました。


#京都市
#学校事務改革
#学校財務
#カリキュラム・マネジメント
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https://www.gakuji.co.jp/script/bkDtl.php?prodid=978-4-7619-2953-4

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