【アホ】青春を取り戻そうと思ったら、要介護になった話
完全に自業自得すぎる話だが聞いてほしい。
小学生ぶりに両手のひらを擦りむいた。
この文章は、負傷した手のひらへのダメージを最小限に抑えるべく、両人差し指でちまちま打っている。
クソほど時間を要しており、我が手のひらの偉大さを噛み締めるばかりだ。
皆さまがもし、両手のひらを盛大に擦りむいたときにこのnoteのことを思い出してくれたらこれほどに嬉しいことはない。
事の始まりは、ほろ酔い状態で散歩に出かけたことだ。
夏を取り戻したかっただけなのに
その日は、ワーケーションのために泊まったホテルで初対面の人たちとの飲み会で、これがまぁ盛り上がった。
私の隣に座った女の子が、乾杯後10秒足らずでファーストドリンクを飲み干したので、「こりゃぁ負けてらんないぜ」と2人でメニュー表にある日本酒を片っ端から頼んでいっては「水ですねこれは!」とミネラルウォーターを仰ぐ勢いでガバガバ飲んでいた。
はじめにお伝えしておくが、私はただの酒呑みである。
永遠の17歳とは言っているが、それは心の問題であって、酒に関しては別の話だ。高田馬場の稲門をくぐった瞬間から、私はエリート酒豪街道を歩み続ける運命にあったと言っても過言ではない。
1番好きな酒は問答無用でビール(プレモル、エビスと来て最終的にサッポロ黒ラベルに落ち着いた。特別な日にはヤッホーブルーイング社の缶を開ける。クラフトビール店では迷わずIPAへGO)。
日本酒は、社会人2年目のときに「これはそのまま飲むんじゃなくて、日本食と合わせるんやで」と先輩から指導を受け、言われるがままにカラスミ大根を少し噛んだところに日本酒を含ませた瞬間、「ほぅ…これは大したマリアージュじゃ」と私の中の小さな親父が目覚めた。
そんなわけで、夏の日暮れ、やさしい風に吹かれながら晩酌を楽しんでいたわけだ。
しかも、全員ほぼ初対面。私はサークルの飲み会で「とりあえず緊張したら酒でほぐす」という頭の悪い技をバッチリ会得していたので、これでもかというくらいアルコールを注入しまくった。
一応前置きをするが、幸い家系的に酒に強いらしく、潰れたことは数える程度しかない。大抵ほろ酔いで楽しくなって終わるか、安酒の場合酔えずにまわりの酔っ払いのケアをする役回りが多い。
しかし、この日はとっても良い酔い方をしていた。酔っ払いすぎず、気分は「楽しい」をキープしつつ、意識もちゃんとある。
いつもこんなふうだったらいいのにな、と思うほどにパーフェクトな酔っ払い具合である。
そうして気持ちよく飲み、食い、喋ったところで、「そうだ!隅田川に行こう!」という流れになった。
今年の夏は思い返してみても、ほっとんど何処にも出かけず家に引きこもっていたので、マジで何も思い出がない。
川遊びは愚か、カキ氷すら食べていないような質素サマーである。そんな私にとって「隅田川」というのは甘美な響きであった。
今こそ、失われた夏を取り返しにいかなければ。
「あの線までかけっこしようぜ!」というアオハルな言葉に頷き、檸檬堂片手に私は走り出した。
はじまったじゃん、今年の夏! 脳内にミセスが流れ、私は軽やかに地面を蹴り上げた。
…はずだったが、加速しようと踏み込んだ瞬間、世界がスローモーションとなった。
「あ、これ、転ぶやつや。」
気付くと地面に寝そべっていた。
むくりと起き上がると、冷たい風が私の膝を撫でてすぅすぅとする。そう、私の膝は血に濡れていた。
経験のある人はわかると思うのだが、ほろ酔い時に怪我をしてもまったく痛みを感じない。なぜなら脳内麻薬が出てマヒっているからである。
まわりが血相を変えるなか、当の本人だけが、血塗れになりながらだいじょーぶだいじょーぶ、アッハッハと普通に歩き出す。その光景はホラーだったに違いない。
その後、とりあえず言われるがままに傷口を洗い、ワンピースも洗濯機に放りこんで、絆創膏を2枚だけ貼りつけて普通に寝た。
人生初の外科にて涙
翌朝午前8時、痛みに呻き目覚める。見ると、両手のひらは500円玉大サイズに擦り剥け、両ひざ小僧からは血が流れ、腰や足の指や至るところが傷ついていた。
「アレッ、意外とこれ、重症じゃない?」と急に目が覚めて、慌てて病院を検索すると、なんと徒歩5分のところに病院があるではないか。保険証片手に震えながら電話をかける。
「あのぅ…これから伺いたいんですけど、なんか走っていたら手を擦りむいたんですけど、あのぅ…これって外科なんですか?整形外科なんですか?」
生まれた時から健康優良児、今までかかった1番大きい病気は「扁桃炎」というヘルシーな経歴を持つ私は、まず「外科」というものに縁がなかった。
「外科、いつでも空いてますよ!」
という受付の声にホッと胸を撫で下ろし、急いで向かう。
カルテを手にして気付いたが、両手を怪我しているので文字すら書けない。部屋に入ると、何やら陽気なお医者さんが自業自得で痛みに悶える私を出迎えてくれた。
「どうされました?」
「昨晩、道で転びまして…ご覧の通りです」
「あらー、これは派手にやりましたね〜じゃあ消毒しますね〜」
「ちょっと青春を取り戻したくて…」
「なるほど〜じゃあ次に来るのは来年の夏ですね〜」
「あはははは〜…いってぇ!!」
いってぇ。なんだこれ、消毒液ってこんなに滲みるのか。小学生ぶりすぎて知らなかったわ。
「ちなみに、酔っ払っていたんですか?」
「いえシラフです」
めっちゃ嘘吐いた。己のちっぽけなプライドを守ったわ。しかし、ここでふと気付く。かの有名な文豪たちのなかには、傷口から良くないものが入り、そのせいで命を落としたのではなかっただろうか。
いやだ、まだ私、死にたくない!!!!
「あの、一応ワクチン打ってもらってもらっていいですか。ほら、昔の文豪とか破傷風とかで亡くなってるじゃないですか」
「そうですね。今も年間5人中4人は破傷風で亡くなってますからね」
「めっちゃ致死率高いじゃないですか!!! 打ちましょう!!」
健康優良児あるある①:ケアが過剰
いやでもやりすぎるほうがちょうど良くないですか。破傷風で死にたくないじゃないですか。言うてワクチン注射も痛すぎて若干泣いたんですけどね。
健康優良児あるある②:痛みに弱い
普段あまり重傷を負わないのでとにかく痛覚が敏感である。手を下に向けるだけでズキズキ痛むし、「神経まで到達しているんじゃないか?」と思うほど熱を持っているし、とにかくお医者さんに質問攻めだった。
通常の人なら耐えられるかもしれないが、37度の熱が出ただけでトイレでぶっ倒れ、親に「ただの風邪ごときで重病患者じゃん」と呆れられるほどの私なので、痛すぎてメンタルまで落ちてくる。
とりあえず、消毒してガーゼを貼ってワクチンを打って終了。1日2回ぐらいガーゼを取り替えてくださいね〜とのことで大量のガーゼとテープを買って帰宅。地味に痛い出費である。
青春の代わりに人々のやさしさを知る
さて、両手を負傷して気づいたことがある。仕事ができねぇ。
冒頭で話したとおり、私はワーケーションのためにホテルに泊まっているわけだが、このままではただのバケーションである。
両手が使えないので、ベッドに横たわって天井を見ることしかできない。これはなんだ。入院か。
当たり前だが小学生のときに掌を擦りむいたときは仕事なんぞなく、授業も板書をせずにボォーッと聞いていれば良いだけだったので何も支障がなかった。
しかし、今は青っぱなをたらしていた餓鬼のころとは違い、支障が出まくりである。いやマジでどうすんねんほんま。
あと、ごはんも食べられねぇ。
両手を負傷したと言っても、幸い左手はまだマシだったので、右脳トレーニングの如くなんとか左で箸を持って口に物を運ぶが、ボロボロとこぼれ落ちてしまう。
おかげで、ランチを食べるのに2時間ぐらいかかったし、皿まわりは「動物が餌を食い散らかしましたか?」ってぐらい汚いし、左手は筋肉痛になった。要介護だ。
それだけではない。せっかく温泉のついたホテルなのに、入浴は愚か、着替えをすることすらままならず、頭なんか洗えるわけがない。このクソ暑い夏に。
スマホ以上に重たいものは持てないし、ツイートは指1本でちまちま打たなくてはならず、1ツイートに20分ぐらいかかる。(それでもツイートはする)
握力がゼロに等しいので、歯磨きは磨けている感じがしないし、コンタクトの着け外しが運ゲー。
要介護と言ってもさすがに友だちに「ねぇ!コンタクト外してよ!」なんてお願いできるはずもなく、まぶたの筋力を駆使して何とか外した。
さらに、コロナが蔓延するこのご時世。アルコールを手のひらにプッシュするたびに悶絶である。
「冷静にどうするねん、これからよぉ…」
知らなかった。自分の生活はこんなにも両手に助けられていたのだと。いや、助けられていたどころか、両手で成り立っていたのだと。生活含め、仕事含め、両手のひらが動かないと自分はこんなにも無力だったのだ。
打ちひしがれながら、「青春を取り戻そう」とサンダルを突っかけていることも忘れて走り出した昨晩の己の愚かさを呪った。
しかし、同時にまわりに人々のあたたかさも知ることになる。
普段から大して速いほうではない私の飲食ペースに合わせてくれたり、箸の代わりにスプーンを提供してくれたり、身体の洗えない私の足の裏をさらさらシートで拭いて「まっくろやん」と笑ってくれたり…
ありがたさしかない。こんな自業自得で怪我したわたしにめっちゃ優しくしてくれてほんまにありがとう。
河原でキャッキャウフフする青春は取り戻せなかったかもしれない。
しかしそのぶん、今まで当たり前にできていたことの尊さに気付き、人々のあたたかみに触れ、改めて軽率にサンダルでかけっこに挑むのはやめようと己を省みるきっかけとなった。
両手のひらが使えなくなったら
最後に、皆さまがもし私のように青春を取り戻そうと転んで両手が使えなかったときに知っておいてほしいことをまとめておこう。
①ガーゼで満足しないようにしよう
私がかかった外科では「消毒液+ガーゼ」で済んだが、調べたところ、イマドキのトレンディな治療方法は傷パワーパッドによる湿潤療法である。
ガーゼだと、貼り替えるたびに傷口が開いて悶絶するし、カサブタによる傷跡も残りやすいので、少々痛い出費だが、キズパワーパッドに課金してほしい。
防水性も高く、アルコールプシュッ!も怖くない。今のところ、順調にぷくぷくしており、肉球のようになっている。
②人付き合いを大切にしよう
マジでこの御恩は5000000倍にして返さなくてはいけないのだが、コケた瞬間、まわりにやさしい人がたくさんいたので、すぐに傷口を洗うように諭してくれ、適切な処置を施してくれた。
怪我をしたあとも、いろいろと介護をしてくれたので、人付き合いは大切にしよう。私もこのホテルに泊まり始めて最初の3日間は友だちがいなかったが、頑張って集まりにいって本当に良かったと思う。
この人たちがいなかったら私は破傷風になっていたかもしれない。人間関係isプライスレス。
③おとなしく休もう
私の調べによると、治癒力を高めるためには「よく食べ、よく眠り、ストレスをかけないこと」が不可欠らしい。よって、私は今月は週に1度しか外出せず、身体に良いものを食べて滋養に務め、のんびり過ごそうと思う。
そう言っている割にこのnoteは5000字くらいあるのだが、これもいつもの1/3ぐらいのスピードで書いているのでエラく時間がかかっている。しかし、この出来事があまりにもアホらしすぎて吐き出さないことにはライターであるわたしのメンタルが持たなかったので許してほしい。「痛かったけどいいネタになったな〜」っていうところまで昇華しないと無理です。やってらんねーよコンチクショウ。
というわけで、みんなは自業自得で怪我しないようにしてくれよな。特に酔っぱらったまま歩くのは危険だ。酒豪でも己を過信せず、間違ってもサンダルでかけっこなんてしないように注意するんだぞ!!!!
それでは、アディオス!