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「失うモノ」を失ってしまった
(台風の前に書いていたんだけどさすがに真っ只中に投稿する勇気が出なかったnoteです。ご査収。)
地球最大規模の台風が来る。
いつもは「そんな大袈裟な」と、さして対策をしない私も、さすがに今回ばかりは怯えていた。
ひとり暮らしをしている今のアパートは小さいながらもまあまあ気に入っていて、住み始めてから2年が過ぎようとしている。
しかし、いくら内装を綺麗にしようが築30年という事実は揺るぎなく、何となく今回の台風で吹き飛んでしまうのではないかと思った。
念のため、ネットで得た情報のとおりに窓ガラスにテープを貼って補強し、排気口を塞いで、水まわりに水のうの重しをのせてみた。
床に置いてあるwifiルーターや加湿器を袋に入れて縛り、ベッドの上に避難させる。冷蔵庫の物も保冷バッグに詰め、友人宅に行く準備をした。
しかし、いざリュックを開けてみると、何を詰めたらいいのかがわからなくて困った。服やタオルは最悪友人に借りられる。メイクやスキンケア道具もいらないし、メガネがあればコンタクトもいらない。
とりあえず、バッテリーと印鑑とクレジットカード、パスポートだけリュックに突っ込む。
そのとき、ふと以前に避難したことを思い出した。
私が住んでいたカリフォルニア州は、湿度が低く、カラッとしていることもあり、山火事がたまに起きた。
ある朝目覚めたら、空が真っ赤に燃えていて、灰がチラチラと降ってきた。
「知り合いの家に避難するから荷物を詰めて」と言われたとき、私が真っ先に手に取ったのは漫画だった。
日本に一時帰国したとき、大人買いをした大好きな漫画。重たいトランクを引きずって、なんとか日本に運んできたライトノベル。それらを厳選に厳選を重ねて20冊、トランクに詰め込んだ。
それから、友だちからもらった手紙や、集めていたマイメロのグッズ、ポエムがびっしり書かれたノート、おばあちゃんにクリスマスプレゼントでもらったコピック。
そんなものをトランクにいっぱい詰めたわたしに、母は呆れていたが責めはしなかった。
あのときは、失ってはならないものがたくさんあった。
それが、今のわたしはこんなにも身軽だ。
もちろん、わたしが漫画を全部電子書籍で、買っていることもあるし、ミニマリスト寄りなこともあるし、モノがデータ化されたことの現れでもある。
でもきっと、それ以上に「なんとかなる」と思ってしまっているのかもしれない。(ならないかもしれないけど)
もちろん、今住んでいる家が吹っ飛んだら現実的にはものすごく困る。
でも、あの頃の、モノにしか生き甲斐がなかった私に比べたら、失うことはそこまで怖くないのかもしれない。
いや、嫌だよ吹っ飛んだら。ほんとに。なにも被害がないことを望んでる。
ただ、ふとあのときのことを思い出して両手を見たら、何もモノを持っていなかったというお話でした。
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