なぞるたのしみ
年を重ねたら、刺激に弱くなっていく。
大きい音、まぶしい光、辛い料理。
強い刺激は、体も心も疲れる。
物事にであったら
一足先に回り道して、早く到着する方法も知ってしまった。
だから、まっすぐにぶつかることも減った。
新しいことを感じるときも
身につけてきた武器、その時々に合わせて
なんちゃらフィルターを発動。
そのワンクッションが大きな刺激を吸収してくれる。
年を重ねたら、前に経験したことをなぞるのが楽しいし、安心する。
1回経験して、
あの時すごい幸せだったなあ、
あの料理おいしかったなぁ、
あの人の気配を思い出したいなぁ。
私でいえば
大学から独身時代を過ごした関西は
なぞるたのしみ。
少し風が強くて、物悲しいけど、おしゃれで、異国の香りが混ざってた神戸の街の夜とか、
裏通りを急に曲がったところにある提灯をくぐると、広めのカウンターに何人もの人がひしめきあう祇園の肉割烹とか、
フィーリングが限りなくあう人たちで囲む長テーブルとか。
キリがないほどの浮かんでくるから、ひとつずつ呼び起こしてたのしむ。
なぞることは、色々な感情を呼び起こすこと。
そこに刺激はない。
じんわり、心が満足する。
もう、わたしの人生では刺激よりそっちの方がいい。
じんわり、あたたかい。
若い人に教えてあげたいなと、思ったけどやっぱやめた。
嘘くさいことはいいたくない。
ほんとうは、人のことはあまり関心がないから。
若い時の自分と対話してるかのように
また自分をなぞって、今の自分と対話する。
刺激は受けた方がいいよ。
いつかなぞりたくなる時がくるから。