# 12 悲しみは雪のように
ついに銀座編も最後の回となります。
恵比寿のビストロで修行を始め、胃潰瘍になり退社して、
ラストチャンスのつもりで挑んだ商業施設レストランでボコボコにされ、
辞めることを一度は決意した私が、敗者復活の気持ちで移動した銀座店。
なんとか今でも料理を続けていられるのも、銀座での3年半があるからです。不器用で甘ったれていた私は本当に仕事が出来なくて、そんなポンコツだった私を拾って育ててくれたシェフには感謝しております。
理不尽と暴力にまみれておりましたが、舐め腐っていた私にはちょうど良かったのかもしれません。
そんな私もステップアップを考え、退社することを決意します。
過去のお店は、クビ同然で辞めていたのですが、ついに円満に辞めることができました。
まだまだ未熟でしたが、なんとかやっていけるのではと思うようにもなっておりました。
私は10月に退社の意思を伝え、翌年の1月いっぱいで退社することが決まりました。
この会社では退社が決まると人が少ない店舗にヘルプにいくことになります。私は銀座にある別の店舗で最後のひと月を過ごすこととなりました。
この会社は私が入社してから店舗展開をしていき、たくさんの店舗をかかえる会社になっておりました。
なので、総料理長という各店舗にいるシェフをまとめる方が存在しておりました。
総料理調長の名前は山本と言います。こいつは本当に人間として嫌いでした。
とにかくいつも偉そうにしており、性格もとても悪い人です。
基本的には一緒に仕事することはないのですが、シェフが休みの時に代理でくるので、月に数回働くことになります。
私は比較的嫌われていたので、よく嫌味をいわれておりました。
1月の後半になったぐらいのときに、山本から話があると呼び出されます。
2月いっぱいまで働けとのことでした。
他の店舗のスタッフが突然来なくなってしまったとのことでした。
私も次の仕事が決まっていましたので、困ると伝えたのですが、
「おまえの世話をさんざんしたやった俺の頼みが聞けないのか?」
いやお前には世話になっていませんが?
いつも通り偉そうです。
高圧的ではありますが、お願いをされたのもあり、断る事が苦手な私は2月いっぱいまで働くことを了承しました。
なので2月からはまた違う店舗のお手伝いとなります。
そして2月の25日にまた山本が私のところに来て、
「3月いっぱいまで働けるよな?」
前回同様、偉そうに頼んで来ます。
次の仕事が決まっておりただでさえ一月延長しているので、更にもう1月延長となると新しい職場に対しても気まずいです。
そもそも最初は年内で辞めたいと伝えており、1月だけ働いてほしいと言われたので1月いっぱいということにしたので、実質3か月延長となります。
まあそういう常識的なことは通用しないのが山本です。
昔「俺が白って言ったらカラスも白なんだよ!」
そんなことを言っていたのを思い出しました。
そんなこんなで3月いっぱい働くことになります。
新しい仕事先にも伝えると、すこし呆れられました。とても気まずいです。
当時はなかなか断ることが苦手な人間でしたので、このまま夏まで働くかもなんて思ったりしてました。
3月13日山本がまたまた私のところに来ます。
そして衝撃の一言が。
「おまえ今日で辞めていいよ、明日から来なくていい」
は?
意味がわかりません。
なんでも新しいスタッフが入ったとのこと。
だからお前はもういらないと。
たしかに早く辞めたかったですけど、そんなことあります?
ちなみに真面目に働いていましたよ。
最後の言葉は「保健証だせよ」でした。
マジで信じられません。ねぎらいの言葉など一言もありませんでした。
こいつは人間の皮をかぶったモンスターです。
とかくいきなり退社まであと5時間となります。
そのときたまたま銀座の店舗から後輩が手伝いに来たので、
シェフに今日で辞めることになったから、最後挨拶に行くので伝えてくれとお願いしました。
シェフの終電は24時過ぎまであるので、24時前に行けば最後に挨拶できます。
急いで片づけをしてお世話になったヘルプ先のスタッフにお別れをして、
銀座のお店に行くとそこには、後輩が一人しかいません。
今日で辞めるからシェフに待っててくれと伝える様にお願いをしたはずなのに・・・
聞くところによると、誰もそんな話を信じなかったそうです。
いくら山本の性格が悪いからと言って、
そんなひどいことはしないだろうと。
私の冗談だと思われてしまいました。
近くのもう一つの店舗に挨拶に行っても、急に今日で辞めるといっても誰も信じてくれません。そんなことがあるわけないと。
一度も嘘をついていないのに狼少年状態です。
約5年近く働いた会社をこんな形で辞めることになるなんて想像していませんでした。
悲しくてとても嫌な気持ちになりました。
こうして最後はとんでもない辞め方になってしまったのですが、
今となって見れば面白エピソードです。
銀座のお店ではここでは書けない、もっといろんなことがあって本当に大変でした。
これにて銀座編は終わりとなります。
過去のエピソードはまた機会があればということで。
ここまで読んでいただきありがとうございました。