医療事務資格なしで医療事務スタッフを目指す。その心得
本日は医療事務をするにあたり医療事務の資格はあった方が良いのかについて考えてみたいと思います。
私自身、何年も前に医療事務の資格を取得しました。そこから医療機関勤務歴10年、一般的に医療事務の資格が最も生きるとされるレセプト(診療報酬の請求業務)は計4年ほど行い、責任者として国保連合会、支払基金にオンライン提出を行っていました。
民間の資格である医療事務検定が医療機関で実際にどのように活用できるのか考えてゆきます。
医療事務の資格がなくてもレセプトはできる
私は病院、クリニックで働きどちらでもレセプトを経験しました。結論を言うと、レセプトを行うのに医療事務の資格は必要ありません。必要ないと言うと語弊があるかもしれませんが、正確には医療事務の資格を取ったとしても現場で直接生きてくることはあまりありません。
なぜならば、その病院で採用している電子カルテや医事コン(レセプトを行うための特別なソフトが入ったパソコン)、採用された医療機関の考え方などによってレセプトのやり方が大きく変わってくるからです。
実際私の働いていた病院では医療事務の専門学校へ行きその後就職してきた人が何人もいましたが、専門学校で学んだ人ですら他の新卒のスタッフより有利なスタートを切ったわけではありませんでした。多くの医療機関はレセプト要員として採用したスタッフであってもレセプトだけを担当してもらうことは稀で、窓口対応や電話対応、初診患者の問診対応や保険証確認などさまざまな業務を並行して行う事になります。
国民皆保険制度の概要や診療点数早見表(算定要件や施設基準が全て記載されているとても便利で分厚い本)を例え丸覚えしたとしても、実務にすぐに結び付くわけではないのです。
医療事務に大切なのは情報収集能力とコミュニケーション能力
レセプトで大切なのは調べる能力(情報収集能力)とコミニュケーション能力です。
「在宅酸素療法指導管理料」という管理料を例にして考えてみます。
自宅で在宅酸素を利用している患者に在宅酸素療法の指導管理を行なった場合月に1回のみ算定できる管理料です。
患者Aさんが〇〇医療機関を退院することになりました。入院先の医師が在宅酸素が必要と判断し、患者へ指導管理を行った上業者を通じて在宅酸素機器を手配しました。Aさんは無事自宅へ退院。
その後、Aさんの訪問診療を担当している主治医がAさんの自宅へ訪問しました。Aさんの酸素濃縮装置を確認、話し合いの上、入院先の医師が指示していた酸素の流量を変更しました。訪問看護の看護師にも在宅医が指示した流量が伝えられ、当面それで様子を見ることになりました。
管理料を算定できるのは月1回のみです。この場合管理料が算定できるのは入院先の医療機関でしょうか。退院後、酸素の指示を出し直した在宅医のクリニックでしょうか。
まず、酸素濃縮装置を手配している入院先の医療機関は退院時に必ず管理料は算定します。業者からレンタルしている酸素濃縮装置のレンタル料は医療機関が支払うため、採算が合わなくなるためです。
しかし在宅医も同月内に指導管理を行っています。早見表の疑義解釈には「適要欄に理由を記載すれば算定可」とあり、詳しい説明書きをつけたレセプトを出せば在宅医のクリニックでも算定可ということになります。
しかし文章の表現が分かりづらいからか、ここの解釈は何故か病院によって様々で、入院先の医療機関と打ち合わせの上算定しないクリニックもあれば、管理料へつける加算までフルで算定してしまうクリニックもあるようです。ここは医療機関の管理職の考え方が反映されることが多いです。
経験の長さが仇になることもある
医療事務の資格よりも経験年数の方が重視される所以もここにあって、レセプトは思った以上にマニュアルで説明できない感覚的なコトが多いです。「この検査は査定されやすい」「この薬は切られやすいからこの病名じゃ弱い」など、キリがありません。
しかし査定する側も最終的には人が判断しています。ですので査定されやすい薬なんかも時によって変わっていきます。
あの時は良かったけど今回はダメだったなんてことも普通にあります。
ですので、人を育てることのできる体力のある組織ほど「無資格可」「未経験可」で求人を出しています。経験者優遇と書かれている求人が多いですが、実際に経験者を採用したからといって長く勤務してもらえるとは限りません。上に書いた通り医療機関によって算定要件の解釈が異なる事が多いため、自分のやり方にこだわる余り新しい医療機関に馴染むことができず辞めていく人もいます。
レセプトで算定に迷った時
・本で調べる
・ネットで調べる
・他の医療機関はどのように算定してるのか知っていそうな人に聞いてみる(他の医療機関に出入りしている業者が意外と教えてくれたりします)
・保険医協会に加入しているのであれば問い合わせてみる
・グループ病院であれば横の繋がりを利用して他病院に聞いてみる、など。
腑に落ちるまで徹底的に調べる。「色々調べて、他院はこのように算定していることが多いようだ。それを踏まえた上で、当院はこうするのが合理的だと思うのですがどうでしょうか」と自分の考えをまとめた上で他のスタッフや管理者とすり合わせていくコミュニケーション能力。これが大切です。
経験が長いからといって、過去の正解が今の最適解とは限りません。自分の経験を過信するあまり、調べることや相談することをやめてしまってはむしろレセプトの質が下がってしまうことになるのです。
気になる求人は経験年数に関わらず問い合わせてみる
見る目のある管理者ほど上記を分かっています。ですので、「レセプト経験〇〇年以上」と書かれている求人でも、興味があれば一度は問い合わせてみることをおすすめします。
もしそれで冷たい断り方をされたとしても気にする必要はありません。その医療機関は人を育てる余力が今はないのか、経験にこだわりすぎて思考停止してるかのどちらかです。縁がなかったと思って次に行きましょう。
スタートしたばかりで本当に余裕がないのであればともかく、思考停止しているのであればたとえ経験や資格を持ってたとしても考えものです。採用されない方が良かったのです。
医療事務においては資格はあくまでやる気をアピールするためのツールの一つです。有用なツールではありますが、なければ別の方法でやる気をアピールしましょう。
最低限の日本の保険制度の知識をつけ(インターネットで十分です)、自分の強みを自己アピールしましょう。受け入れてくれる理解のある医療機関がきっとあると思います。