思い出ばなし
若かりし時代
1.波瀾万丈の始まり
思ってみれば今まで色んなことがあった人生だなぁ。
これが所謂『波瀾万丈』ってヤツなんだろうか…
自分では「一度しかない人生だもん、楽しまなくちゃ損だよね。何度もやり直せるなら別だけど… 嫌でも歳は取るしさぁ… 」なんて思い出したのはいつの頃だろうか。多分言いがかりと言うか妬みと言うか…大人に裏切られ高校を中途退学した頃じゃないかと思う。
「何を言っても信じて貰え無いなら辞めちゃえばいい…こんな所に居る意味なんてない」
親に相談する事なく自分で退学届を書き友達に署名して貰い提出した退学届!
今おもえばとんでも無い事をしたもんだ(笑)
『学校辞めてきた、先生が寝返って裏切られてん。信じられへんわ、あんなとこ居てても何もならんもん。あ…あのね、おとんにはママから言って!おねがいやわ!』
湯呑みを持ったまま母親 光代 は固まっている。そりゃそうだ、いきなりの娘 佳代 からの告白、そうなるのでは?と度々学校に呼び出されてたから少しは想像していたが、思いの外はやく現実になってしまったから。相談のひとつもあるだろうと思っていた。
それがいきなり「辞めてきた…」である。引っ叩きたくなる気持ちを抑え、佳代子の言い分を聞いている。
『自分で決めて辞めてきたんやから、お父さんには自分で言い、うちは知らんから。殴られても文句言えへんよ、それもちゃんと覚悟してるんやろ??』
平気な振りしていうのはこれがやっとだった。 光代は佳代がこんなに自分の意思をしっかり表現する様になったのは自分のせい、自分の育て方のせいでは?と思うようになっている。「あんな泣き虫で頼りなくて情けないって思ってたのに、ちょっと強く育て過ぎたのかなぁ、これで良かったんやろか?」と。
佳代は少し考えて 『分かった!この週末でバイト決めて来るから、きまってからオトンに言うからそれ迄待って。ちゃんと自分で言うからそれまでナイショにしてて。お願いします』 と、光代に手を合わせ上目使いに懇願する。いつもの手だ。こうすれば母親は自分の味方で反対しないのを知っている。いつもこうして逃げ切ってきたから。
『いつもそうして逃げてるけど今回は逃げられへんよ。ほんまにちゃんとバイト見つけてきいや、そーせなうちまで怒られるんやよ、分かってる?とばっちりは勘弁やで!分かったん?』
『分かってるって!!ちゃんと見つけて来るから。週末あかんかっても早く見つけて来るから、見つけて自分で言うから待ってて下さい、お願い』
光代は佳代がどこまで本気で決めてくるか、とりあえず様子を見る事にした。
彬にはなんと言うか… 佳代の仕出かしたことをどう伝えるか思案していた。
が、何も浮かばず佳代がどうするのか様子を見ることに決めた。
それまでは黙っっていよう、内緒に、バレないようにする事にした。娘可愛さだ。
佳代もまた考え込んでいた。「中退してきたばっかりで雇ってくれるとこなんてあるんかな?てか、履歴書かかなあかんやん、書いた事ないけど…大丈夫やろか。文具屋行って履歴書買うてこよ。あー、オトンになんていう?バレる前にバイト決まるかな…」
本人は高校を親に相談もなく退学してきたことが、どれだけ大変な事であるかという事実を分かってはいない。
そんな事はすっかり忘れ、前を向きこの先どうするかだけを考えていた。
なぜなら… 父 彬 が怖くて仕方なく、殴られない為にどうすれば良いか…それだけを考えていたのだ。
とにかく恐ろしい、おっかない存在の父親だったから。。。